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天狗の仕業じゃ!  作者: ねこぢた
第2章:妖怪大集合!
14/15

これがほんとの……

よろしくお願い致します。

 五月も半ばに入り、そろそろ中間テストが行われようとしている最中、いきなり全校集会が開かれた。

経験者は理解してくれるだろうけど、全校集会は限りなくだるい。合間に「校長の話」が入ると、なおだるさが増す。それが朝一番に行われるだけでもストレスが溜まりそうになる。


「晃儀様、全校集会とは、一体何を行うのです?」

「ん?ずーーーーっと立ちっぱなしで話を聞く苦行だよ」

「は、はあ……」

「そら、早くー列を作ってー」


質問した鈴音も困惑した様子だったが、先生の一声で女子の列へ加わった。

 さて、全校生徒が体育館に整列し終わると、案の定校長先生が壇上の机へと足を進めている。

今日は一体、いつまで延長されるのかと生徒の誰もが思っているであろう中、ゆっくりと校長先生は口を開いた。


「皆さん、おはようございます。さて、皆さんには急な話なのですが、今月から我が校に、新しい先生がやって来ることになりました。それでは、自己紹介をどうぞ」


(なんだって?普通なら四月頭くらいにやるだろうに、このタイミングで教師が来るっておかしくないか?)


と、俺は何やら嫌な予感を抱いていた。その直後である。

 校長先生に代わって登壇してきたのは、紅に染まった髪が目を引く女の先生だった。

見た目二十代前半といった風貌で、特に胸の大きさにかけては目を疑うレベルだ。

 そんな新任教師が、開口一番に発した言葉は……


「おーっす!お前ら気合い入ってるかー?オレの名前は「鬼ヶ島衣吹」ってんだ!これからお前らに体育を教えることになった、24歳独身!スリーサイズは上から93・58・84!あと、「力比べ」が大好きなんで、腕に自信のある奴ぁいつでも挑戦待ってるぜ!ってことで、どうぞよろしくぅ!」


一瞬、体育館一帯が静寂に包まれる。しかし、その後一転して溢れんばかりの拍手に覆われた。

それどころか、口笛を吹く者まで出る始末。その大部分が男子生徒であることは、想像に難くない。

 俺は、少し冷めた目で軽く手を叩いていた。



 教室に戻ると、真っ先に爽太が俺の元へやって来た。


「なぁなぁ晃儀ぃ!あの新しい先生すっげえ美人だったよなー!特に零れんばかりのナイスバスト!」

「……お前、片桐さんはどこに行ったんだよ」

「な、なに言ってんだ!俺はいつでも片桐さん一筋だよ!けど、あの……鬼ヶ島先生だっけ?あの人も片桐さんに負けず劣らずの魅力があるっていうかさぁ」

「はぁ、見かけだけじゃ女性の魅力ってのは決まらないだろ?あの先生、女らしからぬ物言いだったし」

「なんだよ~、晃儀はああいう人が好みじゃないのかー!?」

「俺は……」


そう言って、俺は隣りの鈴音の方を見る。鈴音はなにか言いたそうに、こちらへ目線をちらちらと送りながらもじもじしている。何やってるんだ?


「なあ鈴音、何か話でもあるの?」

「あ、い、いえ。あるにはあるのですが、また後で……」

「ん?ああ、分かったよ」

「ねえねえ鈴音ちゃん、鈴音ちゃんは鬼ヶ島先生のこと、どう思う?」

「え?そ、そうですね……大変元気がおありで、話しやすそうな方とお見受けしました」

「だよなー!やっぱ晃儀は女性を見る目がないんだよ!」

「おい、いい加減にしないと鈴音にお前の武勇伝、バラすぞ?」

「いやー、早く明日になってくれないかな~♪」


爽太の奴、あの先生に気を取られてうわの空になってやがる。それに、都合良く明日の体育の授業があの先生に受け持たれるかは分からない。浮かれ気分もいいところだ。

 その日の帰り際、鈴音が先程の話を振ってきた。


「あの、晃儀様。先程の話のことなのですが」

「そういや、何か言おうとしてたな。どうかしたの?」

「それが、彼の先生についてのことで、気になる事がありまして」

「え?それって、まさか……」

「はい、晃儀様の思う通りです。あの方、巧みに気配を消しておりましたが、妖怪としての「格」とでもいうのでしょうか。余りに強力な力をお持ちのようで、隠しきれていなかったのです」

「げっ、なんだよそれ!」

「ですから、十分ご注意下さいませ」

「ああ、分かったよ」



そして、次の日の体育の時間――



「おーっし!今日は男女合同で授業をやる事になった。もちろん、担当はオレだ!」

「うほおぉーー!まるでスイカのようだ!」

「なんておっきいおっぱいなんだ……素晴らしい!」

「いやいや、肉感的な太腿にも注目してみろ!ああ、挟まれたい……」


(ま、まじかよ……)


まさか、昨日の今日でこんな状況になるなんて、俺は予想だにもしていなかった。他の男子のほとんどは、スポーツウェア姿の鬼ヶ島先生に釘付けになっている。

 女子の方に目をやると、鈴音が心配そうにこちらを見ているのが目に入った。


「先生ー!今日は何やるんですかー?」

「んー、そうだなー……よし!」


先生は腕組みをして少し考える仕草をした後、何か閃いたかのような表情を浮かべる。


「女子は適当になんかやっといてくれ!んで、男子はオレと力比べだ!」

「「いやっほおぉぉぉお!!」」

「え?ちょっと先生?私達は自由でいいんですか?」

「ああ、好きなことしてていいぞー!」


力比べって、一体何するんだよ……と不安がっている俺をよそに、他の男子どもはほぼ浮かれた様子で先生の後をついてゆく。まるでハーメルンの笛に操られたネズミみたいに。

 そして先生は、グラウンド内のサッカー用広場で足を止めた。


「さーて、ルールは簡単。お前らがオレの守るゴールに一本でもシュートを決めたらお前らの勝ち。一本も入らなかったらオレの勝ちだ!」

「先生、俺達が勝ったら何かしてくれるんっすか?」

「そうだなぁ……オレの胸、いや、体の好きな所を触らせてやっていいぜ?」

「「な、なん……だと……!?」」


先生の無茶苦茶な提案に、がぜん士気高揚する男子たち。俺はその光景を、ただ呆然と見ているしかなかった。


「よっしゃぁぁあ!みんな、容赦なくゴール狙ってくぞー!!」

「「おぉーー!」」

「へへっ、かかってきな!」


サッカー経験豊富な爽太が先陣を切って、先生と俺たちとの力比べが始まった。

と、開始早々、先生は意外な行動を取る。


「うおおおおおりゃあああ!!」


なんと、自分の守らなくてはならないゴールから、全速力でこちらへ向かってくるじゃないか!


「はぁ?何やってるんだ?あれじゃゴールががら空きになって……」


だが、俺の予想は的中しなかった。先生は、そのままボールを持っている男子の方へ瞬く間に接近し、タックルを喰らわせる。


「よいしょお!!」

「へ?ふごっ!?」


喰らった男子は、二メートル程先まで飛ばされ転がっていった。


「な、なんだよあの当たり!?有りえねえ飛び方したぞ!」

「や、やべえ……この先生何モンだよ!」


徐々に男子たちから戦意が喪失していく様を、後方で待機していた俺ははっきりと見届けていた。

ボールを得た先生は、にやりと笑みを浮かべながら仁王立ちで叫ぶ。


「この軟弱者どもぉ!これ位でボールを渡すなんざ、鍛え方がなってねえようだなぁ!オレが、直々に指導してやる!」

「「ひ……ひぃぃい!」」


その後の展開はもう散々なもので、先生が俺達を一人ずつマークしては体当たりで吹き飛ばしてゆく、なんともサッカーらしくない光景が繰り広げられた。もちろん、俺もその標的のうちに入っていたのだが


「おらおらぁ!次はお前だぁあ!」

「いえ、お断りします」

「!? なに避けてんだよ!ちゃんとぶつかってこい!ドーンと!」

「打ち所が悪くて、大怪我でもしたら大変ですから」

「……ちっ、お前、後で補習な」


そう言い残し、先生は他の男子に狙いを定めた。俺は奇跡的に、被害を免れたのである。


(これがほんとの「鬼教師」ってやつか……くわばらくわばら)



授業終了五分前。男子たちはボロボロで、立ち上がるのが精一杯の様子だった。

息を切らし、使い古された雑巾の如き姿にもなってなおも向かってゆこうとする様は、最早国民的スポーツどころの話ではなく、戦に死力を尽くした武士にも似ている。

 終了時刻が近づいてきたからか、女子たちの方から星奈がこちらへやって来て、先生を呼んだ。


(みんな、よく戦ったよ……俺はこれからみたいだけど)


「おーし、今日の授業はここまでにすっか!全員、整列!あ、男子、ちゃんと手当てしてもらえよー!」


満足げな表情を浮かべ、鬼ヶ島先生が号令をかける。傷だらけの男子たちを見て、女子たちは若干引いていた。

 その後の昼休み、鈴音が屋上まで俺を連れ出した。そして、間髪入れずに俺の手を握る。


「ど、どうしたんだ鈴音?」

「晃善様、あの先生に呼び出しを受けたそうですね!?」

「え?なんでその事を……まさか『心音』を使って?」

「申し訳ありません。ですが、晃善様のことが心配で……」

「確かに、ただじゃ帰してくれそうにないよなぁ。あの先生」

「はい、ですから、私も御一緒させて頂けませんか?」

「え!?いや、それはまずいって!妖怪同士が出会ったら、それこそ大事になるんじゃない?」

「あの方は、力の制御の仕方を弁えておりました。なので、私と出会ってもそれ相応の対応をして下さると思います」


俺は、鈴音の言葉を信じてみようと思った。かくして、二大妖怪のご対面と相成ったわけだが……ここから先は、本当に想像し得ない領域だ。何が起きても不思議じゃない。

そんな不安も入り混じる思いで、放課後、俺は職員室へと向かうのだった。


ご一読頂き、ありがとうございました。

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