甘くとろけろ、そして屈せよ
「僕の物になれ。」
メロンはその言葉を聞くと暫く反応を返さなかったが、さすがは第四魔王の従者、すぐに事態を察知したようだ。鋭い眼光で僕を睨む。
「なるほど、寝返りの要求ね。もし私が呑まなかったらどうするの?」
「殺す―――と言いたいところだが、そうも行かなくてね。」
僕は低い声から甘い声に切り替えながら言った。
「君が素敵で……殺してしまうのは勿体ないんだよ。君の事を愛でたい、可愛がりたい、愛したい。」
「―――ッ!?」
「ん?どうしたんだい?メロン。」
「や、止めて下さい!私は第二魔王純一様の従者、寝返る事など―――。」
「メロン、だったら何で離れないのかな?メロン。」
びくっと彼女の肩が跳ね上がった。
「そ、それは―――。」
異論を挟みかけたメロンの綺麗な色で柔らかい唇を再び塞ぐ。
そして今度は舌を彼女の口腔の中に割り込ませ、彼女の口の中を蹂躙していく。
「んっ―――!」
彼女は抵抗するように身を引いたが、僕は彼女の身体を押し込むように前進する。
そして彼女の身体はとんっと戸棚に当たった。
逃げれまい。僕は彼女の頭の脇に手をつくと、舌を激しく動かした。
「んっ………んんっ!」
しかし、彼女はまだ抵抗せんと舌で押し返そうとした。
だがそれは思う壺という物。僕はうまくその舌を絡ませると彼女の舌を吸った。
「んんっ!」
するとどうだろうか、彼女の声に艶が帯びてきたのが聞き取れた。
そしてわずかだが―――彼女の方も積極的に舌を動かしつつある。
僕はわずかに舌の力を緩め、焦らすようにメロンの口の中を舐めると彼女は僕の舌を押し返す―――そうしながらも絡ませてきた。
よしよし、良い兆しだぞ。
僕は一人心の内で頷きながら、一気に彼女の口腔の中を暴れ回った。
「んぐっ!」
突然の事に彼女も驚いたようだが―――その一瞬の後に僕は彼女の口から舌を抜き取った。
「ぷはっ!」
彼女は息を荒くつきながら僕をキッと睨んだ。
「こんなことして……只で済むとでも……。」
「君が許してくれれば、只で済むと思うよ。ね?メロン。」
「誰が許―――。」
「なぁ、メロン、僕は何で果実の酒が好きか分かるかな?」
再三、僕は彼女の言葉を遮りながら甘く囁いた。
「え……?」
「メロンが好きだからだよ。」
「―――どっちのメロン?」
「それは君が考えないと……ね?メロン。」
僕は甘く囁くと、今度は優しく、ついばむように唇を重ね合わせた。
ただ舌は入れない、触れるだけ優しいキスだ。
しかし、どこかメロンは焦れたような表情を浮かべた。
そう、ここでキスに対する飢餓感を与えるのだ。
「キスして欲しいのかい?メロン……。」
「な―――ッ!?」
「だって、目が言っているよ?僕の唇が欲しいって。」
ちなみに。目から人の感情を読み取るのは父方の祖母から教えて貰った。
それ故か、一家の頂点に立つのはいつも祖母であった。そして人々は彼女のことを『嘘発見器』と呼び、その目から感情を読み取る術を『安部読瞳術』と呼んだ。
まぁ、もちろん、祖母の名字は『安部』と言ったのだが。
それはさておき。
僕はまたついばむようなキスをすると、彼女は確実に瞳に苛立ちを移した。
「欲しい?」
「誰がそんなの。」
「ふ~ん、そっか。」
僕はまた軽くキスをする。しかし今度は唇を押しつけるような感じで。
すると、彼女の口はわずかに細く開いた。
僕の舌を求めるかのように。
だが、僕は入れたりせずまた唇を離す。
メロンは自分が僕のことを求めている事に自覚したのか、顔を赤らめて俯いてしまった。
だが、僕はそっと右手で彼女の顎をくいっと持ち上げて僕と視線を合わさせた。
そして僕は微笑みながら小首を傾げると、彼女はさらに顔を赤くした。
僕は催促したりせずにじっと彼女の目を見つめてその言葉を待った。
一分……二分……そして三分が経過した丁度その時、彼女は口を開いた。
「キスを―――。」
「ん?」
「キスを……して……下さい……。」
それは屈服の宣言。
か細い声だが、確かに彼女はそう言った。
僕は微笑むと耳元で囁いた。
「うん、上出来。さぁ、お口を開けてご覧。」
メロンは期待の籠もった眼差しで僕を見ながらその烈火のように燃えさかる色の唇をぱっくりと開けてチロチロと真っ赤な舌をちらつかせた。僕は彼女の頭を抱き寄せると、その口の中に舌を挿れた。
「んんんっ!」
彼女は顔を赤らめながらどこか嬉しそうに上ずった声を上げた。
僕は思うがままにメロンの口腔を蹂躙すると、僕は唇を離した。
そして視線で、来て、と彼女の合図すると、彼女は躊躇しながらも僕に唇を近づけて遠慮がちに重ね合わせた。
唇が触れ合うだけのキス。
だがすぐに彼女の舌が僕の唇を割って入り込んできた。
ぎこちなく、彼女は僕の口腔を探っていく。
その舌を僕は舌で絡めた。すると、彼女は先程の僕を真似たのだろうか、ぎこちなく僕の舌を吸い始めた。
むず痒いような、妙な感覚が背筋を走る。
僕は衝動的に彼女の頭を抱え込むと、熱烈に舌を絡め合わせた。
そしてそのキスは、十分ほど続いた。
「―――そろそろ行かないと、まずいね。」
僕が唇を離して言うと、彼女は赤い顔のまま、コクンと頷いた。
「メロン、答えを聞かせて貰おうか。」
僕はモスクワ産のワインを取り上げながら言った。
「どちらにつくのかな?」
「今の応酬で、分からない?」
メロンはもじもじとその場で身動きしている。僕はその様子を見ながら言った。
「言葉で聞きたいな。可愛いメロンの言葉で。」
僕が甘く囁くと、彼女はさらに顔を赤くした。
「えっと―――[私、メロンは赤城義平様を第四魔王と認め、仕える事を誓います。]」
「上出来だよ。メロン。」
僕はもう一度、軽くキスすると、彼女の手を取った。
「さぁ、行こうか。」
「うん!」