話術による情報収集
「そう言えば、自己紹介していなかったね。僕は赤城義平。」
「あ、私はメロンと申します。」
「可愛らしい名前だね。」
「へ、はぅ!?」
僕は言葉を交わし合いながら塔の中を歩いていた。
どうやら、塔は五階建てのようだ。
きっと冒険者達が来たら夢魔達が襲いかかるのだろう、廊下にはちらほらと夢魔の姿が見受けられた。
「あら、メロン、どうしたの?デート?」
すると、廊下にいた夢魔のうちの一人がメロンに近付いて問うた。
「ち、違います。客人を持て成すための酒を取りに。純一様は寝てしまいましたから……。」
「そっか、またふて寝しちゃったんだ……。」
「ええ、困ったものです。すみませんが、フィア、何人か仲間を連れて純一様の身体を拭って差し上げて頂けませんか?」
「構わないわよ。全くあの醜いののどこが良いのか……。ゲルニアとバジッタを連れていくわ。じゃ、二人ともごゆっくり。今度お話聞かせてね、そこの殿方様。」
フィアと呼ばれた夢魔はふわっと空に浮かび上がると、仲間を探しに行った。
「友達かい?」
「はい、そのようなものです。」
「ふーん。あ、そう言えば、そんな敬語じゃなくても良いよ。」
「え、しかし……。」
「堅い事言わんで良いよ。ね?」
「―――分かったわ。よろしくね、義平。」
メロンは躊躇していたが、最終的には親しみを込めてそう呼んできた。
「うん、上出来。」
よしよし、と言わんばかりに頭を撫でると、彼女は一瞬嬉しそうな表情を見せたが次の瞬間には我に返って身を引いていた。
「ちょ、何を―――!?」
「何を、って頭を撫でただけじゃないか。」
「いきなり撫でないでよ……。」
「ははっ、分かったよ。」
僕は軽口を叩きながら、うまくいっていることを感じ取っていた。
母方の方の祖父から教わった『話術』という奴だ。
女は場合によって異なるが、厳しい状況下にいる場合、優しく接すると心を開いてくれる、という物だ。
どうも、祖父は若い頃から女を誑かす才能に富んでいたそうだ。
それ故、その話術は彼の友人間では有名で通称、『溝口話術』と呼ばれていたらしい。もちろん、この名前の由来は祖父の名字が『溝口』だからだが。
まぁ、祖父はいわゆるイケメンだったから問題なかったが、僕は顔がイマイチだったのでもしそんな甘い声を発したら物凄い非難を受けるので今までやったことはなかった。
が、この面だったら問題はない。
この調子で手懐けて情報を引っ張り出すとしよう。
「ここが酒蔵よ。純一様に言われて集めた物で貴重な物も多々。」
廊下の途中、木の扉の前で立ち止まるとメロンはそう言いながらその扉のドアノブを叩いた。
すると、カチャ、と軽い音がした。どうやら解錠されたらしい。
「すごいな……。これだけで開けられるなんて。」
「あ、そっか、義平はこっちに来て間もないんだっけ。これは純一様の術で[特定の人間しか開けられない扉]なの。」
「そういう術ってどうやるんだろうな……。」
「単純よ。絶対の言葉でそこの領域を構築すれば良いの。まぁ、そんなハイレベルなことが出来るのは魔王級の人間にしか許されていないけどね。私は一応、魔人だから作れなくてないわ。例えば―――。」
メロンは酒蔵に入りながら機嫌が良さそうに話す。
僕が続いて入ると、彼女は酒がしまっている棚から一つの木箱を取り出した。
そして歌うように言葉を放ち始めた。
「[構築。対象、木箱。これに施錠術を実施。解錠手段、特定の生物が触れる事を条件とする。再施錠にはこの対象が蓋がされている状態の時に施錠す。特定生物はこれをかけた術者、そして赤城義平をそれに認める。尚、この構築に関しては中途で改竄術の干渉を受けない。以上構築を終了する。]」
言葉を放ち終えてメロンがそれを再び戸棚に置くと、カチリ、という音と共にそれは鍵がかかる音が聞こえた。
「ね?こんな物よ。」
「へぇ……手際が良いね……。」
「ほとんどのこの塔の罠は私が構築したから。」
彼女はどこか素っ気ない様子で言うと、棚からワインを吟味し始めた。
「んー、近年ので構わないわよね。でも相手が第二魔王陛下だから―――んー、難し。」
「純一さんってここの塔の仕事ってしているの?」
「―――している、と言えば、しているわ。女体に溺れているだけだけどね。」
「は?」
女体に溺れるのが仕事ってどんな幸せな仕事だよ……。
「ま、計算ずくって訳じゃないでしょうけど、夢魔達に身体を貸してやる代わりに警護を命じているの。サキュバス達は我先にと冒険者達を捕縛し、遊び殺す。」
「遊び殺す……とは怖いな……。」
「本当に怖いわよ。今回、貴方も魔王様と一緒に来なければ、捕食されていたかもしれないわね。」
怖すぎて突っ込めねえよ……。
「ま、夢魔の欲は色欲だから仕方ないと言えば仕方ないけどね。」
「なるほど、だから色欲の要塞なのか。」
「そうよ。そのくせ、何か落ち度があると私に当たるから……。」
メロンはため息をつきながら戸棚に視線を走らせた。
「そうね―――十年熟成のモスクワのワインにしようかしら。それともメキシコのかな?」
さて……そろそろ詰めに入るか。
僕はそう思いながら戸棚を眺めるメロンの後ろに回り込んでいく。
「僕は果実の酒が良いな。」
「ん?だったらそうね……。ベルモットとか……?」
そう言いながら振り返ったメロン。
すかさず僕はその唇を唇で塞いだ。
「ん……!?」
驚愕で目を見開くメロン。
じっくり見ていなかったが、彼女は美しいもんだな。と僕はぼんやり考えた。
黒い髪の毛は綺麗に腰まで伸びており、西洋人のような顔も整って綺麗だ。そして何よりメロン色の瞳が綺麗で呑み込まれそうだ……。まさに綺麗三拍子。
その髪の毛をさらりと撫でながら僕は唇を離した。
「よく聞け、メロン。」
僕はメロンに何か言われる前に有無を言わさぬ低い声で言った。
「[僕は第二魔王に召喚された新たなる第四魔王]だ。つまり、お前の御主人様はクビって所だ。だが、寛大なる赤城義平は現第二魔王の従者であるメロンに申し出をしよう。それは―――。」
僕は一呼吸置くと、スッと彼女の顎に手を添えていった。
「僕の物になれ。」
ハヤブサです。
私の作品を全て読んでいる素晴らしい御方がおられば、全てのネタが分かりますね。
いや、ストックはありますけど、続きが思いつかない……。うむ……。
ま、頑張りますか。