第二魔王はお嬢様
「は……?あんたが魔王……?」
僕が唖然として言っていると、ルチアと名乗った女性はクスクスと笑みを見せた。
「ええ、そうよ。ここら一体、アメリア地区を支配に置いているわ。貴方はここの北をヴィレンチェ地方を治める事になるけどねー。」
「はぁ……まぁ、考えてみれば当然か。」
僕は頭を掻きながら言った。
「魔王複数論。ファンタジーの上では、物語をより盛り上げるために魔王を複数とる場合がある。って奴だな。なるほど。」
「さすが、私の選んだ魔王クンなだけはあるわね。」
ルチアは感嘆したように言う。
「へ?あんたが選んだの?」
「ええ、そうよ。貴方のこれを読ませて貰ってね。」
ルチアは戸惑う僕の目の前で懐からある紙束を取り出した。
その冒頭にはこう書かれている。
『ファンタジーに置ける悪役と主役の関係』
「ちょ、それ僕の論文!」
「そ。これを呼んで、これ程に研究を深めている人なら魔王に適役と思ってねー。」
「いやいやいやっ!こんなふざけた論文なのに!?」
「でも真面目に書いてあるじゃない。さっきの魔王複数論もそーでしょ?」
「いや、そうだけどさ!」
「はい、男だったらがたがた言わない。それとももうここで降りるとか言うのかしら?」
「降りたくても降ろしてくれないだろ……。」
僕が半分諦めてため息をつくと、ルチアは満足げに頷いた。
「じゃ、説明をするわね。場所は先程も言ったヴィレンチェ地方。そこで第四魔王としてそこの地方をやりくりして貰うわ。会社を経営する感じで軽くやってくれれば良いから。」
―――会社はそんな軽く経営出来ません。
「地元の町とはうまくやって。略奪も良いし、友好関係を築いても良いし。ちなみにアメリア地方は共存しているけど、信頼関係を築くまで大分時間がかかったなー。ねぇ、カイ。」
「そうでございましたね。お嬢様。」
ルチアの声にカイは頭を下げて肯定を示した。
「まぁ、正直、財政を整えるだけでも十年はかかると思って。それからその資金を元手に魔王のダンジョンを手にして、そこでいろいろと冒険者を討伐したり、魔物を育成したり、作物を作って売り飛ばしたりうまく経営してね。」
「はぁ……てか、十年?融資とかしてくれないの?」
「そりゃぁ、するわよ。私がこのアメリア銀行に頼み込んで個人じゃとても貸せない額をね。だけど、ダンジョン作るのって結構費用がかかるのよー。えっと、いくら融資する予定だったっけ?カイ。」
「そうでございますね、一万ゼウス、と言った所でしょうか。」
「あ、ゼウスってのはお金の単位ね?ゼウスが金貨、ヘラが銀貨、クロノスが銅貨よ。一番大きな単位がルシファーっていって純金貨なのよー。ま、クロノスは私ら、滅多に使わないから覚えなくて良いけどね。ルシファーとゼウスだけは覚えておきなさい。」
―――てか、神様がお金の名前とか……。
「ちなみに、クロノスが二十枚集まりますと、ヘラ一枚に。ヘラが五十枚集まりますとゼウス一枚となります。そして、ゼウスが一万枚でルシファー一枚ですね。大体、相場がヘラ一枚、百円と言った所でしょうか。」
ふむ、ではクロノス一枚が五円で、ゼウス一枚が五千円か。ルシファーは―――考えたくもない。
ということは―――。
「僕に融資されるのは五千万円……?」
「そ。それを元手にやりくりしてね。一番儲かるのは綿工業の取引かなー。綿を農家から買い取って職人達に売っていくの。すぐに五万ゼウスぐらいたまるわよー。」
「了解。それでそのダンジョンを買うにはどれくらい金が必要なんだ?」
「相場で言いますと、大体百万ゼウス、つまり百ルシファー程度でしょうか。ダンジョンの規模にもよりますが。」
「ふむふむ、百万ゼウス―――え?」
つまり―――五十億は必要ということか!?
「まぁ、維持費が高いからね。他の奴のダンジョンを丸ごと譲渡して貰えば一番安上がりだけど……そんな譲る奴なんていないしね―――。特にヴィレンチェの魔王つったら、あれだしね……。」
「え?ちょっと待って、そこの地方は僕が魔王になるのに、もうすでにいるのか?」
僕が戸惑いながら言うと、ルチアは曖昧な表情を浮かべた。
「あれは第三魔王が地球から喚んだ魔王なんだけど、堕落してね。もはや魔王と言えないから、私が貴方を呼んだの。」
「マジっすか……。」
「マジっすよ。」
ルチアはあはは……と笑いながら、チラリとカイを見た。
「ちなみに義平様、身体がお変わりになっていることにお気づきでしょうか?」
「身体?あ……。」
僕は手足を見ると、肌の色が全く違う事に気付いた。
こんがりの健康的な小麦色である。割と色白だったのだが。
ルチアは懐から鏡を取り出した。僕はそれを覗き込むと息を呑んだ。
「これが僕……?」
「そう、貴方よ。」
僕の身体は、地球で言う『イケメン』へと変貌していた。
顔のバランスがよく整っており、目や口の大きさなども的確である。
女性が百人いたら、九割五分がイケメンと言うだろう。残り五分は腐女子だな。
僕がほれぼれと自分の顔をぺちぺちと叩きながら眺めていると、カイが咳払いをした。
「では、義平様、手続きを致しましょう。お金を融資致しましたら、ヴィレンチェの地へご案内します。」
「ああ、おう。」
僕は頷くと、その場で立ち上がった。