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絶対の言葉

「―――は?魔王?」

 僕の言葉から疑問符が飛び出た。

「左様でございます。義平様。」

 カイは頭を下げながらそう言う。

「ちょ……待て?魔王というのは原則、魔界の王の総称を示し、大概の場合、勇者の敵になる悪役の事を示すんだ。この科学によって全てを実証した日本じゃ、そんなことなんて夢のまた夢だぞ。」

「お詳しい説明をありがとうございます。ここで反論をさせて頂きますが、ここは日本ではございません。」

「―――は?何を言うんだ?僕が喋っているのは日本語だよな?」

「左様でございます。ですが、日本語が通じるからといって日本とは限りません。現に、オーストラリアではオーストラリア語という物は喋らず、英語を喋っているではありませんか。」

 カイは回りくどく、だが確実に僕の意見を斬り捨てた。

「は?だけど、僕は確か大学の帰りに道を歩いていて……それで……。」

 僕はここに来るまでの経緯を思い出そうとその場をうろうろと歩いた。

 確か……道を歩いていて……それで路地裏に引っ張り込まれて……それで……。

「あー!」

 僕は全てを思い出して声を上げた。

「あの時、テメエが僕を路地裏に引っ張り込んでナイフで刺したんだ!」

「ご名答です。逆に何故、それを思い出せなかったのが不思議ですが。」

「そりゃ、あれだ、思いっきりケツを打ったから―――って違う!」

 ケツを打っても記憶が飛びません。ただ痛いだけです。

 とにかく、僕は激昂しながら目の前に執事に近寄った。

「何で僕を刺した!?」

「それは貴方様をここに連れてくるためにです。」

「だったら誘拐なり何なりと……。」

「そんな容易い手段ではこの世界には連れ込めません。連れ込むためには対象を一度絶命させ、それと同時にこの世界の肉体にその対象を召喚するしかないのです。私は高度魔術で移動が可能ですが。」

「ああ、そりゃそうか―――ってあ?僕が死んだ?」

 一旦、納得しかけて僕はその事実に気付いた。

 ―――というか、自分、納得しかけちゃあかんだろ。

「ええ、殺させて頂きました。その点に関してはお詫び申し上げます。」

 ペコリと頭を下げるカイ。僕はまだ合点が行かずに石造りの寝台に腰を下ろした。

「―――話を整理すると、僕は殺されて魔王になるためにこの世界に転生させられた。この世界というのは地球の次元ではない、と解釈して良いのか?」

「もちろんです。そうですね、義平様の先程の魔王の定義で申し上げますと、ここは『魔界』に値します。」

「結構、話は分かった気がする。だがな、それを証明出来るのか?お前は。」

 僕は鋭くそう訊ねると、カイはふむ、と考え込んだ。

「ならばここでの魔界での住人での特権、[絶対の言葉]を用いましょうか。」

「絶対の言葉?」

「[この世界の住民は[]で囲まれた文字は絶対、すなわち真実を表します。]」

 カイは空中に『[]』を描いて言った。

「なるほど、それが真実だという根拠はないがな。」

「[義平様もすでに魔界の住民]です。試してはいかがでしょうか?意識して発して頂ければ可能です。」

「え?あ?んっと……[僕は赤城義平]……あ、言えた。」

「それで嘘を言って頂ければ確かになるかと。」

 えー、じゃあそうだな……。

 適当に僕は田中正造と名乗ってみれば良いのか?

「[僕はたな―――]」

 その言葉を発しようとした瞬間、どくんと心臓が跳ね上がり、喉から声が出なくなった。

「え?[僕はたな―――]あれ、言えない……。」

「確かでございましょう?[絶対の言葉は常に嘘は言えません]」

「なるほど……だとすれば―――。」

 僕が納得しながら頷いていると、カイも頷きを見せた。


「[ここは魔界であり、地球上ではありません。そして、ここにいらっしゃる赤城義平様は魔王になられるためにここに来られました]」


 カイの言葉がその事実を告げた。

 何か、大分すごいことに巻き込まれたかもしれんが―――これはこれで面白そうだ。

 僕は少し考え込みながら意見を発した。

「オーケー、ルールは把握した。しかし、僕は特別な理由がある訳ではないが、地球に帰りたいな。大学に提出する卒論もまだだし。」

「なるほど、確かにその通りでございますな。戻る方法はいくらでもございます。が、そのためには魔王になって頂ければなりません。」

「魔王になるというのは絶対条件か―――。」

「とりあえず、そういうことにしておきましょう。では、ご理解を頂けたところでお嬢様にお越し頂きましょう。」

 カイはそう言うとペコリと頭を下げた。

 すると、その脇にスッとドレス姿の女性が現れた。

「―――こりゃ驚いた。ラスベガスの奇術師もびっくりだな。」

 僕が思わず呟くと、クスクスとその女性は笑った。

「ということは私の事を奇術師と思っているのかしら?」

「じゃあ、何なんだよ。」

 僕の切り返しに女性は胸を張って言った。


「道化師よ!」


「何でやねん!」

 僕はずっこけながらそう突っ込むと彼女はクスクスと笑って言った。

「失敬、間違えました、魔術師と考えて。」

「あいよ。んで、あんたが『お嬢様』?」

 僕がぞんざいに訊ねると、彼女は笑みを見せて言った。


「ええ、[私は第二魔王、ルチアよ]」

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