神の書き込み
―神の書き込み―
西暦二XXX年、世界情勢は、深刻なものになっていた。世界各国は互いに憎しみあい、罵り合っていた。あっていた。何故このような世界になってしまったのか、それを知る物は、今はもういない。各国は、自国に核ミサイルを多数保持していた。諸国が妙な行動をとったら発射するつもりでいるのだ。世界中のどの国も、自分たちの忌み嫌う国へ戦争を仕掛けられない、それは、攻撃を仕掛けた瞬間、敵国からの核ミサイルが自分たちの国へ秒速一五〇〇kmの速度で飛んできて、自分たちの国を焼け野原にするのだ。またそれは、この世界の滅亡を意味する。コンピューターが、ミサイルが飛んできたのを確認した瞬間、世界各国へ核ミサイルが無差別的に発射されるのだ。なので、どの国も、各国に滅多な行動は取れない。それは、この日本も例外ではなかった。
大昔にあった非核三原則などというものはあっさりと廃止され、他国と同じく、ミサイルを常備している。反対する者はいなかった。核を持たない国は狙われるのだ。実際、核ミサイルを作る技術のない国、作る資源のない国、人道上核を持たなかった国は、どこかの国の標的となり、焼け野原になっている。しかし、戦争はここ数十年起きてはいない。この世界は、異様な方法でバランスがとられているのだ。しかし、このバランスが少しでも狂えば、全人類は、自分たちの業により、焼き尽くされるだろう地球上の生物は皆、核ミサイルの恐怖に縛られているのだ。そして、それはこの少女も例外ではなかった。
「この世界は狂っているわ…」
自室で彼女はつぶやいた。彼女の名前は澤上俊祐、男のような名前がついているのは、彼女の両親が、男の子がほしかったのに、女の子が生まれたので男の名前をつけたのだ。彼女は今年十五歳になるが、両親はもうこの世にはいない。
彼女はごく普通の学生である……と周りからは思われているが、実は彼女は彼女はこの世界、そして日本政府に反骨心をいだいており、反国家を謳うインターネットサイト『レボリューション』の管理人なのだ。その日も俊祐は自分のホームページを覗いていると、掲示板に、不思議な書き込みがあった。
〈タイトル――管理人、澤上俊祐様へ。《投稿者:神》2xxx・5・23 12:24 〉
投稿者の神というのも気になったが、タイトルのほうが気になった。何故なら、俊祐は自分のホームページで自分の名前を載せておらず、自分は女で、男のような名前ということしか乗せていなかったからだ。彼女は、息を飲み込んでから内容を読んだ。
〈管理人澤上俊祐さまへ、私は神です、あなたは願っていますね、自分が核戦争なんかで死なないことを、あなたは祈っていますね、この世から核兵器がなくなることを…叶えましょう、あなたの願いを、あなたの祈りを、神は、あなたがたのしたいことを実現させるつもりだ。もしこの文章を読んでいる数十人の人たちも、祈れば私に通じます、すべてはあなたがたの自由意志によりますが、願ったものたちには、まもなく分岐点が訪れるでしょう。
では最後に言っておきます、これからのこと、今までに起きたこと、そして今現在の状況は、すべてあなたの選んだことなのです。〉
これを呼んだ俊祐は、何かの感じに襲われた。手の震えが止まらなかった。その神の書きこみの後についたレスも呼んでみたが、それはただの住民からの書き込みだった。
『荒らしか?』だとか『病院行ってこい』などの内容がほとんどだった。また、彼女自身も半信半疑だった。
―ふと、インターホンの音が鳴った。ドアを開けると、宅配便であった。俊祐はサインをすると、荷物を受け取り、再び部屋に入った。荷物は、小さな包みだった。中をあけてみると、小さな玩具のような物と。手紙だった。俊祐はそれを読んで見た。
〈あなたは、パラレルワールドというものを知っていますか?〉
とても達筆な字で、冒頭の文は書かれていた。俊祐は、だんだん大きくなる心臓の音を聞きながら続きを読んだ。
〈この手紙と一緒に入っていた道具は、あなたをパラレルワールドへ送る道具です。道具の名前は特にありませんが、神から送られてきた道具とでも呼んでください。パラレルワールドとは、この世界に似ている別の世界のことを言います。あなたも、日常生活で『ああ、こうしとけばよかったのに』と思うことがあるでしょう。それすらも、他の世界では別の結果が起こっているかもしれません。パラレルワールドは無限にあります。その道具は、あなたを、”核兵器のなくなった世界”へと連れて行ってくれます。
使い方は、そのレバーを引くだけです。また、戻りたいときにはレバーを元に戻してくださいby神〉
俊祐は、神から送られてきた道具を手に取ってみた。片手でつかめる程度の大きさで、とても軽い、中に何も入っていないようだ。また、それには手紙に書いてあるようにレバーがついている。俊祐はそのレバーをつかむと、深呼吸をしてからレバーを引いた。
――俊祐の目の前が真っ暗になり、ついでまぶしい光が、遠くのほうに見えた。頭の中が開放された気分だ。目の前の光が近づいてきて、俊祐を飲み込んだ。目の前が光一色になる。
次の瞬間、俊祐に視界が戻り、俊祐は、自分が自分の部屋にいることに気づいた。別に何の変哲もない。窓の外を見てみても、変わったところはない。(本当に核兵器のない世界へ来たのかしら?)その疑問が俊祐の頭に浮かんだ。俊祐はパソコンを立ち上げ、インターネットでここ最近の世界に情勢を調べてみた。三ヶ月前まではあちらの世界と変わったところは無かったが、三ヶ月前のある日、あちらの世界ではありえなかったニュースを発見した。
『 2/15 スイスの技術者、ヴィルヘルム・シュヴァイスヘルン博士が開発した、超防空システム”イージス”が、衛星軌道上に展開、これにより、あらゆる国の長距離弾道ミサイルが、無差別的にレーザーで破壊できるようになる』
この博士は、四ヶ月ほど前にあちらの世界で何者かに暗殺された人だ。また、この日を境に、次々と、XX国が核を放棄した。OO国化廃棄した。などのニュースが続き、昨日のニュースは、『全世界が核兵器を廃棄』というものだった。俊祐に、実感がわいてきた。自分は、本当に核兵器のなくなった世界へやってきたのだという。
急に、激しい音がした。俊祐は窓の外を見た。遠くのほうに煙が上がっていた。また、遠くの空に多くの点が見えて、それが近づいてきた。俊祐は、引き出しの中にある双眼鏡を出し、それをみた。
それは、戦闘機であった。緑色のビームを放ち、町を攻撃している。
「何故?」
俊祐は少し考えて結論を出した。核の脅威がなくなった各国は、心置きなく気に入らない国を攻撃できるのだ。
戦闘機は、俊祐の家の近くにも攻撃を加えた。家の近くのマンションに緑色のビームが当たったかと思うと、一瞬で吹き飛び、ビルの破片や、人の肉片が宙に舞った。そうかと思うと、彼女のとなりの家が、激しい音を出して吹き飛んだ。
「ここにいたら殺られる」
直感的に俊祐は感じすぐに、バックに神から送られてきた道具を入れ、家を飛び出した。目指すは、もしものための地下シェルターだ。だが実際は、こんなものが核ミサイルのために合ったとしても、核ミサイルが飛んでくるまで十秒と無いんだから、核ミサイルに対してほとんど意味はないだろう。俊祐はすぐに走り出した。しかし、十歩ほど走ったところで、後ろのほうから激しい音とともに爆発があり、俊祐は爆風で一瞬中に浮き、前方へ吹き飛ばされた。俊祐は一度地面に左肩から叩きつけられてから、三回ほど地面を転がった。俊祐が左肩を押さえながら後ろを振り向くと、自分がさっきまでいた自宅が、瓦礫と化していて、周りに家も半壊の状態だ。俊祐は、動くことを拒否する足を動かし、シェルターへと走った。走っている途中、目を疑う光景を見た。見方のはずの日本軍の戦車が、住宅を破壊して道を作っている。その戦車の後ろには、多くの戦車と歩兵、そして破壊された家が一つの道のように連なっていた。また、その反対方向からも、戦車や兵隊が近づいてきた。兵士の顔を見ると、日本人ではなく、白人だった。
そして、両方が攻撃を始めた。
「きゃあああ!!」
俊祐は走りながら地下シェルターへ走った。その横では激しい戦闘が行われている。一時間前には想像できなかった事だ。両軍が様々な色のビームを放ち、それに当たった人間は、一瞬で肉の塊となり、戦車の銃そうこうもえぐられる。俊祐も肌にも、爆風の熱が感じられた。彼女に頭上を、紅い色の光線が通り、その光線は少し離れたビルに命中し、そのビルはドロドロに熔けた。その状況を見ながらも、俊祐は全力疾走で地下シェルターを目指した。あと五〇m位だ。近くで爆発が起こり、その破片が飛んできて俊祐の腕に突き刺さる痛みをこらえながら俊祐は走り、シェルターの厚い扉を開き、中に入った。
「……助…かった?」
俊祐は入り口の近くにペタリと座り込んだ。この広いシェルターには、百人くらいの人がいた。負傷者も大勢いて、怪我をしていない人は、負傷者の手当てをしていた。俊祐も、傷の手当をしてもらってから、負傷者の手当てを手伝った。俊祐の手伝った患者は酷いものだった。右腕が吹き飛んでいて、出血がひどかった。話によると、ここにたどり着いたと同時に気絶したらしい。俊祐は目をそむけたい気持ちを抑えて、治療を続けた。そして、治療が一段落したところで、ポケットから、携帯のメール着信音が鳴った。
おかしいと思った。携帯は、バッテリーがなくなっていたので、家で充電しているはずだった。それが今、自分のポケットの中に入っているのだ。俊祐は携帯のスクリーンを見てみた。空のはずのバッテリーも、満タンになっている。
『メールが一件入ってます』
スクリーンには、かわいいネコのキャラクターが、そう話している場面が映っている。俊祐はメールを確認してみた。差出人を見て、ポケットに携帯が入っていたことにうなずけた。
『差出人――神』
俊祐は内容を見てみた。
『あなたには選択の時がまもなく訪れる。それは、戻るか残るかであり、またそれは、孤独か死かと同意味でもある。どちらを選ぶかはあなたの自由意志であるが、一つ覚えてもらいたいことがある。それは、神はいつもあなたのそばにいるということだ。by神』
メールを見た俊祐は、妙な胸騒ぎがした。
(残ることが死と同意味?どういうこと?)
神から送られてきた道具を手に取りながら俊祐が考えていると、シェルターの入り口のほうから爆発音が聞こえてきた、俊祐がそちらを見ると、そこには、銃を持った白人の兵士が一人たっていた。
「Found!!!(見つけた!!!)」
その兵士はそう叫ぶと、銃を乱射しながらシェルターの中に入ってきた。俊祐は、とっさに物陰に隠れた。兵士の銃からは、光線が次々と撃たれ、それに当たった人たちが、ばたばたと悲鳴を上げながら倒れていった。血しぶきが俊祐の頬を飾り、彼女は決心した。
(核なんかで死ぬのは嫌だけど、こんなところで死ぬのも嫌だ、あの世界に帰ろう!)
俊祐は決心すると、そのとき持っていた神から送られてきた道具のレバーを引いた。いや、引こうとした。
「レバーが……引かない!」
どうして?何故なの?何故?俊祐がそうやって焦っている間にも、あの兵士は、目の前の人間を撃ち尽くし、シェルターの中を探し始めた。見つかるのも時間の問題だ。
「動いて、動いてよ!」
俊祐がどんなに力を入れてもレバーは動かない。
「Found」
俊祐が振り向くと、そこには銃を持った兵士がいた。銃口を俊祐のほうに向け、まさに今、撃たんとする状況だ。
「動いて…動いてよ!…動け!!!」
俊祐は全力を出して叫んだ。
「……!!」
銃声が、シェルターの中に響いた。
しかし、撃った兵士は不思議そうな顔をしている。自分が撃ったはずの少女が、光を放って消えてしまったからだ。
「もうすぐ戻るのね」
帰るという安心感と、核兵器の世界へ戻るという憂鬱感があった。約二時間ぶりに帰るのだが、なんとなく懐かしい感じがしたが、心の奥に、少し胸騒ぎを感じていた。いろいろなことを考えながらも、俊祐の視界は光に満たされていった。
再び次の瞬間普通の視界が戻った。そこは、薄暗いシェルターの中だった。俊祐は入り口の前に立ち、扉のロックを解除し、分厚い扉を前に押した。しかし、扉は少し動いただけで止まってしまった。どうやら何かに引っかかったらしい。俊祐は何度も力を入れて押し、何度目かで勢いよく開いた。ドアの向こう側は、シェルターの中のような単調な無彩色の世界ではなく、いろんな店の看板や、街路樹などがある色鮮やかな世界が広がっている…はずであった。
「何・・・なの?……これは?」
俊祐の見た世界…それは、灰褐色が広がる世界だった。空は赤黒く染まり、地表は、地平線まで焼け野原が広がっている。俊祐は足元を見てみた。焼け焦げた死体がドアの前にいくつかあり、これがドアに引っかかっていたようだ。
「きゃああああ!!!」
俊祐は叫んだ。叫ぶしかないといった感じだった。俊祐には、今の状態が理解できる、しかし、したくなかった。
「核戦争が起きたんだわ」
頭では理解できる。しかし、感情がそれを信じることを拒否している。しかし、五感はそれを感じ取っている。焼け焦げた臭い、目の前の光景、そして静寂…。
その静寂を破るものがあった。ポケットの中の携帯であった。メールが来たらしい。俊祐はすぐにポケットから携帯を取り出した。
『メールが一件入ってます』
差出人は、きっと神だろう。俊祐は確信していた。今のこの状態で、一番の、そして唯一の頼りになるものだった。俊祐はすぐに読んでみた。
『差出人――神
君の目の前の状況は、人々が選択したことだ。私は助けることが出来たが、彼らはそれを望まなかった』
それを読む俊祐の頬には、涙がつたっていた。俊祐は、返信を押し、神へのメールを書いた。
『人々が選択したというのなら、それを拒否した人はどうなるのですか?自分以外の人々が創った現実によって殺されるのですか?』
返信は、送信と同時に来た。
『この現実を選択しなかった人々は、生きている。あなたと同じように、どこかで生きている。孤独が嫌なら探しなさい。しかし、あなたが今いる場所でも、生きていくことは出来るだろう』
俊祐は、シェルターの中を見てみた。以前聞いた話によると、ここには千人分の保存食料が半年分そろっているとのことだった。俊祐は独語した。
「生きていこう」
そして、生きている人を探そう。俊祐は決心した。パラレルワールドに逃げようとは思わなかった。この世界には、偶然生き残った人々がいるのだ。その人たちを探そうと思った。俊祐は、シェルターの中のレバーを引いた。すると、シェルターの入り口から、大きな旗が出てきた。これが、シェルターの目印となるのだ。そして俊祐は、方位磁針を持ち、シェルターの中にあったリュックに、食料と水を詰め込み、シェルターの入り口に立った。そこから見える景色も、相変わらずだった。
「東…ね」
俊祐には、不思議と自分の行くべき道がわかった。そして、それが間違ってはいないという確信もあった。
神から送られてきた道具は、彼女にはもう必要の無いものだった。そして、いっそ後残りがないように埋めてしまおうと思った。俊祐は、足元のがれきを掘り、それを埋めようとした。すると、がれきの下に、小さな植物の芽が生えていた。
「私も、生きなきゃ」
俊祐は目の前を見た。地平線のかなたまでが焼け野原だ、俊祐は携帯を取り出し、神へメールを送った。
『行ってきます』
返事はすぐに返ってきた。
『行ってらっしゃい』
それを確認すると、俊祐は、この不毛な大地を一歩一歩歩き出した。
自分が、何かをなしとげられるという自信を持ちながら……。
『You can do it!』
君ならできる。神からの言葉であった。
この小説は、中3の国語の宿題で書いたものです。学校や家でノートに何時間も書いてました。(テスト週間中に)もともとこういう世界観は、前から考えていたので、ストーリーを考えるのは結構簡単でしたが、ノートに書くので結構時間がかかりましたし、僕は漢字が苦手なので電子辞書を片手に書いてました。もともとのストーリーは、主人公は男性で、二十歳くらいで、神も出てこない予定でしたが、書いている途中でアイディアが浮かんできて、こうなりました。あくまで予定は予定ですから。
では最後に、この小説を読んで暮れは皆さんにお礼を言いたいと思います。ありがとうございます。そして、また会いましょう。