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初恋  作者: 周防駆琉
5/8

後少し…

それから数日後の夕方、朝からちらつく雪がうっすらと積もっている。今日はいつもより調子がよく、部屋で本を読んでいるとノックがされる。午後の検温の終わったし、今日は誰かが訪ねてくる予定もなかったはずだ。「はい、どうぞ」と答えるとおずおずと扉が開かれた。



「…きちゃった」



ちょこっと顔をのぞかせて柚衣が入ってくる。その姿は制服、腕には鞄とコートをかけている。



「ずいぶんと早い半年だな、中学生」



「…迷惑だった?」



「別に。ただ、来るなって言ったよな」



俺の言葉を聞いているのかいないのか、柚衣はちょこんと椅子に座り俺をまじまじと見ている。



「なんだよ」



「…歩永実くん、痩せた?」



「ちょっとな」




 柚衣が訪ねてきたのが体調のいい日でよかったと思う。メールには元気だと書いたが、実際は調子の悪い日はほとんど眠ってしまっているし、軽いものではあるが発作も起きる。



「外、寒いだろ。風邪ひかないようにちゃんと厚着して、あんまり出歩くなよ」



「だーいじょうぶ。…ねえ、メールとか、電話、迷惑だった?」



やけに真剣に柚衣が聞いてくる。



「別に?忙しいわけじゃないし」



「…返信、してくれないし。電話も出てくれないし…」



「悪かったよ、電話はちょうど出れなかったんだよ」



「メールは?」



「忘れてたり」



怒らせたかも、と思ったが柚衣は先ほどと変わらずに真剣そのものだ。…何考えてんだ?



「じゃあ、これからも連絡していい?」



「…たまに忘れてもいいなら」



不審に思いながら答えると、今度はふにゃっと顔をゆるめて笑う。



「よかったぁ。……歩永実くん」



「な…っ……!!」

















なに、と答えようとした途端にドクンと心臓が跳ねた。胸を押さえつつ、ナースコールを押す。



「歩永実くん!!…歩永実くん!!、しっかりして、……みくん!!」



痛みに五感が支配されていき、柚衣の声も遠くなる。どうして、こんなタイミングで。


ばたばたと新島先生や有田さんが駆けつけ、何か言っている。わかったのはそこまで。俺は意識を手放した。



 「…です、……も…予断は…」



新島先生の声で徐々に覚醒する。目を開けるとICU。酸素マスクに心電図、左腕に刺さるいくつもの針。


俺は右腕でマスクを外す。



「歩永実!!」



そこにいたのは両親と、先生。柚衣の姿はない。



「気がついたか。苦しかったりしないか?」



「はい、大丈夫です。心配をおかけしてすみません、母さん達も。…あの、今、何時ですか?柚衣は?」



その質問には有田さんが答えてくれた。



「今は深夜2時よ。市川さんは10時くらいまではいたけれど、喘息のこともあるし、親御さんが迎えにいらして帰ったわ」



「そうですか…」



「それで、今後のことだが…」



新島先生の話によるともう本当に俺の心臓はだめらしい。次に発作が起こったら終わりだと言われた。とりあえずはICUで絶対安静である。


両親はなかなか帰ろうとしなかったが、時間も時間なので説得して帰し、俺も眠りについた。


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