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初恋  作者: 周防駆琉
4/8

気持ちは?

「あー、気持ちいいなぁ」



久しぶりに病棟からでて、庭園を歩く。


着替えもしてジーンズに薄手のセーターを着た。入院していると普通の服がなかなか着れないのが実は不満だ。


柚衣もオフホワイトのニットワンピースである。ちょっともこもこしていて可愛らしい。



「うん、気持ちいい。…あのさ、歩永実くん」



「ん?」



「私の……どう?」



ちょうど強い風が吹いて柚衣が何を言ったかよく聞こえなかった。

「可愛いんじゃない?本当に見た目だけは変わったなぁ…」



多分服装のことだろうと予想して答えると、柚衣は顔を紅くした。



「見た目じゃなくてっ!!……私のこと、どう思う?」



「だから、外身は育ったけど、中身は変わんないって言ってんの」



俺は柚衣の言葉に驚いた。まさかそんな事を聞かれるとは思わなかった。


どう答える?…妹?

いや、そう言ったあと食い下がって来たら困る。


柚衣にばれないように表情を繕って瞬時に考えを巡らせた。

その結果、質問からちょっとずれた答えをした。



「えぇー…そんなことないよ!!」



「あるある。…学校ではうまくやってるか?」



これ以上の追及を避けることに成功し、俺たちはしばらく散歩を楽しんだ。












午前10時、いつものノックに答えると制服姿の柚衣がいた。



「おはよ、歩永実くん」



「退院おめでとう、柚衣。寒くなるし、風邪引くなよ」



俺が言うと柚衣は「うん」と答えるがなかなか出ていかない。



「あのさ、お見舞い、来てもいい?」



「半年以上戻って来なかったらな」



これからの柚衣の生活の中心は学校であり、病院ではない。


だから、俺は柚衣にとって、非日常的な存在――入院中だけの曖昧な存在であるべきだ。



「半年なんて長すぎだよ。3か月じゃダメ?」



「今回が3か月だったろ?半年くらい頑張れよ」



3か月と聞いて柚衣がなにか知っているのかと思ったが、その表情に特に意味はないようだ。



「じゃあ電話は?」



「…メールなら。たまにならな」



仕方なくそう答えると柚衣は何がそんなに嬉しいのかパッと笑う。



「やったぁ!!…じゃあ、またね」



「はいはい、じゃあな」



やっと柚衣が出ていくと、新島先生と有田さんがそろってやって来た。



「おはようございます、幸村さん」


「市川さん、ずいぶんと嬉しそうだったけど。なにかあったのかい?」



「おはようございます。…別になにもないですよ」



「そう?じゃあ今日から薬変えてみるから、体調悪くなったらすぐに呼んでね」



そう言って点滴を変える。見ただけではいままでのものと変わりない。


…しかし、その夜から俺は微熱が続き、なかなか食事が取れなくなった。









「予想よりも微熱が続いたせいで少し体重落ちたか」



結局、熱が下がったのは3週間ほど経ってからだった。


回診を終えて新島先生が呟く。



「体調はどう?動悸とか、苦しかったり、だるかったりはする?」



「いえ…多少だるいですけど、このくらいはしょうがないでしょうね」



時折感じる胸の痛みも、もう日常の一部となってしまっていた。


回診が終わると携帯を確認するのが最近の新しい日課。…たまにといったのに、1日おきくらいに柚衣からメールがくるからである。


『おはよ、歩永実さん。今日は朝からいい天気だね(^_^)今日から期末テストだから昨日あんまり寝てないよー…頑張ってきます!!』



やっぱり今日も来ていたメールに返信する。



『おはよう、柚衣。テスト中に寝ないように頑張れ。』



携帯を閉じてブラインドを上げると、確かに今日は雲ひとつない青空。



「熱も下がったし、ちょっと出かけるか」



3週間ぶりに私服に着替え、病室を出る。ナースステーションの前を通り、出かけることをきちんと告げて。



「あら、幸村さん。散歩?」



今日はちょうど有田さんが居て声をかけてきた。



「はい、久しぶりにちょっと歩いてきます」



「一人で、大丈夫?…残念だけどかなり体力が落ちていると思うから…」



心配そうなその様子から自分が本当に長くないんだと思った。



「大丈夫ですよ。携帯持って行くんで、何かあったら電話しますよ」



「そう。幸村さんなら大丈夫だと思うけど、気をつけてね」



外に出ると少し冷たい空気に包まれる。空調の利いた、あの乾燥したぬるま湯の空気とは大違いだ。…その空気にももう慣れてはいるけれど。


病院の庭に出てよく知った道を歩いて行く。しかし、少し歩くと息が上がる。



「はぁ…ほんとに、体力落ちたな。ほっそい腕、どのくらい体重落ちたんだ?」



近くのベンチに座って少し休憩する。


ピピッ…


するとちょうどいいタイミングでメールが届く。柚衣からだ。



『テスト終わったよ!!勉強したかいあって結構いいかも(^_^)しかも半日だから楽だしね。また明日も試験だけど…』



そのメールになんて返そうか考えていると着信。――相手は柚衣。出ようかどうか悩んでいるうちに留守電へと切り替わる。



『…も、もしもし?柚衣です。えっと、電話してごめんなさい…元気、してますか?えっと、また…メールします』



そう言うと電話は切れた。



「…なんだったんだ?意味わかんねぇ…」



俺はメールの返信を後回しにして歩きだした。




 結局、俺はその日メールを返さなかった。

…それから2週間、柚衣からの連絡はなかった。



「おはよう、歩永実くん。毎日毎日同じことを聞いて悪いけど、体調は?」



病院という空間は変化が少ない。24時間空調効いていて、気温も湿度も一定に保たれ、毎日同じ時間に回診がある。



「別に変わりはないです。体力もそこそこ変わりませんしね…体重は戻りませんが」



「そうか、ならよかった。出歩くのはいいけど、無理はしないようにな、最近は随分と冷えてきたから、体に良くない」



先生が出ていき携帯を確認するとメールが来ていた。…柚衣から。



『おはよ、歩永実くん。最近はすごく寒いね。初雪もそろそろかな?私が退院して2ヶ月経つよ(^0^)半年にはまだ遠いけど、私はあれから大きな発作もなく、元気に過ごしてます!!…歩永実くんは元気してますか?返信、待ってます。』



久しぶりのメール、元気なようで安心した。日課となった散歩に出て、返信を考える。外は曇り空、吐く息は白く、すぐにでも初雪が降りそうである。


さすがにこの時期になると散歩する人も少ない。ベンチに座り、メールを打つ。



『ひさしぶり、元気そうでよかった。俺のほうも変わらないよ。発作もほとんどないし。ただ、ずいぶん髪が伸びたから、そろそろ切ろうと思ってる。』



そこまで打つと画面に白いものが落ちてきた。…雪。


俺は最後に、『初雪だな』と付け加えて返信し、病室へと戻った。



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