宣告
再びの入院から1週間。午前10時の恒例のノックに俺は「入れよ」と短く答える。
「おはよ、歩永実くん」
「おはよう、柚衣」
柚衣は慣れた様子で部屋に入り、ベッドサイドの横の椅子に座る。
「今日、調子はどう?」
「大丈夫」
あの酷い発作のあと、俺の体調はなかなか戻らず、強い薬で寝ている事が多くなった。
この調子だと次回の帰宅はないかもしれない。
「柚衣は明日退院だっけ?」
「うん。…ちょっと寂しいな」
「病院より学校の方がずっと楽しいだろ。今度は半年くらい戻ってくるなよ?」
柚衣は俺の言葉が不満だったらしく、ぷいと横を向いてしまった。なにがいけなかったのかわからない。
「なんだよ」
「…別に。…歩永実くんは?これからどんな感じなの?」
「症状が落ちついたらまた、今までと変わらないよ」
柚衣は俺の病気のことをほとんど知らない。知ったって仕方ないことは知らない方がいい。
「じゃあまたしばらくは入院?」
柚衣は心配そうに聞いてくる。何かしら気づいているのかも知れない。
「あぁ。…そうだ、午後は散歩しようか。しばらくは会わないしな」
柚衣と会うのはお互いが入院している時だけ。なんとなくそうなっていた。
…といっても、大抵俺は入院しているが。
だから次に会うのはまた柚衣が入院した時。
「起き上がって大丈夫?歩ける?」
「今日は調子がいいし、別に歩くくらいどうってことない」
そんな話をしているとノックの音。11時の回診だ。
柚衣とすれ違いに先生が入ってくる。
「やあ、歩永実くん。市川さんも毎日まめだね、羨ましいな」
「…はぁ、新島先生までなんですか。あいつがああなのはずっとでしょ」
昔からの主治医の新島先生までからかってくる。
「まぁ、あいつは明日退院みたいだし、しばらくはまた静かですよ。…それで、検査の結果は出ましたか?」
その言葉に先生は頷く。その顔にさっきまでの笑みはない。
「君はわかっているようだから、率直に言う。…あと、3か月が目安だ」
「まぁ、妥当ですね」
新島先生の言葉に俺はなにも感じずに答える。はっきりとした余命の宣告は初めてだったけど、以前から覚悟しておくようには言われていたから。
「今回の発作は病状の進行によるものだろうね。今までと薬を変えようと思うんだが…」
「わかりました。副作用は?」
「しばらくは微熱が出るかもしれないが、他は問題ないだろう」
「じゃあ、それでお願いします。別に出歩いても構いませんよね?」
そう言うと先生は俺の頭をくしゃくしゃと撫でて言った。
「今日は調子がいいみたいだな。…午後はデートか?髪も伸ばして、色気付きやがって」
「ちょっ…違いますよ。髪だって切るタイミングを逃しただけです!!」
そう言うと先生はにやにや笑って「好きにしなさい」と言って出ていった。
俺の病気は手術が難しいために回復の見込みはない。
新島先生は小さな俺に隠すことなく、わかりやすく、丁寧に事実を伝えた。その後も何かある度、相談にのってくれた。
だからこうして、今まで来れたと思っている。…あと3か月。それは長いのか、短いのか、俺にはよくわからない。




