短編「面くい」
「ねぇ、聞いてる?!」
そうやっていつもあなたは、小声で形だけの怒りを私にコメディチックに向ける。
ええ、聞いてますよ。聞いてますとも。
つまり、あなたが言いたいのは。
性格を16タイプに分けたり、自身の赤血球の抗体の類型だったり、ましてや生まれた日にちで自分の性質や性格をわかった気になって安心感を得ようとする、そんな自分の周りの人間に対して、浅はかだと言いたいのでしょう。
30分も果糖ぶどう糖液糖入りのカフェオレもどきを啜りながら話したわりには、あなたの思考も十分浅はかでしょうけど。
「聞いてるよ。でも、みんなが楽しんでるならいいんじゃない?」
どうせ人の能力には差がある。簡易化することで安心して健全性を保てるならいいじゃないか。素晴らしい民間療法だと思う。
しかし、これでは彼女の怒りは治らないだろう。
彼女自身は気づいていないのかもしれないが、要はパーソナルな境界の越境行為に対して、誠に遺憾であったということなのだ。
それを、他者に伝えるという儀式を事後処理として行うことで、自身の中で巻き起こる無意識下の人格間での紛争行為を終結させようというのだ。
「分かってないわね。これは由々しき事態なのよ! 人類史という巨人の肩に乗りながら、車輪の再発明どころか“うんこを食べてはいけない”という事実を今さらになって学ぶことに他ならないわ! そういう、クソみたいなクソ文化が私はクソほど嫌いなのよ!」
そう言いながら、キャラメルソース&ホイップトッピングのグランデサイズフラペチーノを、彼女は再度啜る。
私はといえば、彼女が口を開いている間は口を閉じていたので、アホみたいに甘い抹茶ラテをすでに飲み終えて、血糖値スパイクによる心地よい眠気が来る一歩手前くらいの感覚になっている。
彼女の朗読劇がもう5分続いていたら、さすがに顔に出ていたかもしれないと思うと、私は少なからず意見を聞こうとした彼女の気遣いに感謝しようかなとも思った。
「そうなの、ならその子に言ってやったらいいじゃない」
「“あなたは頭が悪いから私は嫌いよ”って。」
「それは違うじゃん〜〜。」
机に顔を突っ伏して大袈裟にポーズをとる姿も、可愛いなと思う。
あなたならできないでしょうね。八方美人を決め込むのが癖みたいだから。
でも、本当にそうしたらいいと思う。
そうすればあなたは、私の前では外してくれる仮面をつけずとも学校に通えるでしょうし、あなたの横顔を見て、素直に私は安堵と安らぎを得られると思うから。
「でも、そうだと思うよ。嫌な時は嫌って言った方がいいよ。」
「だってさ〜、私その子好きだもん。」
そう、だからあなたは彼女のために仮面をつけ続けるのだ。
「結局どこがいいんだっけ。」
「顔が良くて、胸が大きいところ。」
「そうだった、前も聞いたね。ほんと、実直というか素直よね」
「いいじゃん〜、好きなもんは好きなんだからさ〜」
この思いを伝えたら、あなたはまた仮面をつけ直してしまうのかしら。
このカフェでの時間を過ごせなくなるのかしら。
もう、仮面越しのあなたの顔を想像することもできなくなるのかしら。
私もあなたのくだらない話を聞くのはそれなりに苦痛だけれど、あなたの仮面が取れるから我慢して聞ける。
だって、私もあなたの顔が好きだから。




