奴隷は最後に最愛を見つけた
私の人生が変わったのは、5歳のとき。
ある日、私の暮らす村に盗賊がやってきた。
男たちは殺されて、女子どもは奴隷にするために。
女は盗賊の慰み者になった。
子どもは、その恐ろしい光景を見せられていた。
逆らう気など一切沸かせないために。
私も母が慰み者になる様子を、呆然と見つめることしかできなかった。
現実味がなく、ただ呆然としていた。
そのまま奴隷商に引き渡され、美しい姿と声を持つということで、愛玩奴隷に分類された。
1人目の主人は、主人としては良い人だった。
私を着飾らせ、歌を歌う人形として愛でられた。
肌に触れられることはあったが、人間に対してというより人形に対してのものだった。
その主人は借金が嵩んで、私を奴隷商に売った。
2人目の主人は、独占欲の強い人だった。
隠し部屋の檻に入れられ、四六時中着せ替えの人形にされた。
主人の指定した言葉か行動しか、してはいけなかった。
それ以外をすると、折檻をされた。
痛いのが嫌だったので、徹底して人形になった。
その主人は、殺人の罪で捕まってしまった。
奴隷の私は、再び奴隷商に売られた。
3人目の主人は、歌を聞くのが好きな人だった。
たくさんのお客様を招いたり、私を連れて行って歌を披露していた。
けれどこの主人も独占欲が強くて、私に声をかける人に嫉妬していた。
私が誘惑したのだと、誘惑する目はいらないのだと、目をくり抜かれた。
私は、その日から光を失った。
私の目には、包帯が常にまかれることになった。
その主人の狂気を恐れた主人の奥方が、私を奴隷商に売った。
4人目の主人は、加虐趣味のある人だった。
傷が残らないように、痛みが長引くように痛めつけるのが好きだった。
膝まであった髪は、痛めつけるのに邪魔だということで、肩上まで切られた。
そして痛めつけられながら、初めてを奪われた。
深く記憶に刻み込むように、わざと痛くして。
私の心は、この時なくなった。
痛めつけても痛がらなくなった私が不要になって、奴隷商に売られた。
5人目の主人が、今の主人だ。
愛玩奴隷兼性奴隷となった私を、女日照りである戦場に連れてきている。
戦場の熱を鎮めるために、毎夜行為を求められる。
心を失ってしまったので、もう何も思わない。
けれど、戦場の悲鳴が、耳の奥にずっと響いていた。
実際の悲鳴ではないことは、わかっている。
これは、戦場で散った魂の声。
今戦っている兵士たちの、心の叫び。
死にたくない。
帰りたい。
嫌だ。
ずっとずっと、耳の奥で鳴り止まない。
あぁ……うるさい……
前線がどんどん後退していき、主人側に混乱が広がっている。
兵士たちが敗走し、主人たちも敗走するみたい。
けれど私たち奴隷は、置いていかれた。
戦闘奴隷も、愛玩奴隷も、性奴隷も。
奴隷たちは、殿を任された。
だがそれはただの言い訳。
実際は、時間稼ぎのために死ねということ。
ここで終わるのかと思うと、あっけない人生だった。
幸せなど、何も感じない人生だった。
それなら、これが最後だというのなら、最後に全力で歌ってみよう。
私の命をかけて、この戦場全てに響くように。
この戦場で散っていった、哀れな魂に鎮魂歌を。
『〜〜〜♪〜〜♪〜〜〜〜〜♪〜♪』
私の歌声は天を貫き、光が降り注いだ。
暗い戦場に響く鎮魂歌と、その歌姫を照らす一筋の光。
背中がむずむずしたかと思えば、一対の大きな翼が広がった。
私は本能のままに翼を羽ばたかせ、天を舞いながら歌を届けた。
それを見た人々は、戦いの手を止めて、神の使いだと崇めた。
そしてその鎮魂歌に胸を打たれ、膝をついて涙を流した。
「あぁ……やっと会えた……俺の女神。」
たった1人、馬を駆って私に駆け寄る男がいた。
全力で歌い切った私は、力を失って落下した。
広がった青空を見ながら、こんな最後でもいいかと思った。
……が、私が地面にぶつかる前に、馬に乗った男が私を受け止めた。
「やっと、捕まえた。俺の女神。」
「だれ?」
「いつもお前の声に、慰められてきた。声が聞こえなくなって、必死に探したんだ。こんなところで見つかるなんて思っていなかったがな。俺の女神、どうか、俺と共にあってくれ。」
「……私には行くところがない。私の身体は汚い。」
「そんなの関係ないさ。俺のそばにいてくれ。」
「……わかった。なら、約束して。必要なくなったら、私を殺すって。」
もう、次で最後にしたい。
もう、疲れてしまったの。
「……それは…………わかった。約束する。」
「ありがとう。」
私は、数年ぶりの歪な微笑みを浮かべた。
数年後。
とある帝国の皇帝の隣には、いつも美しい天使が控えていた。
目元をレースで覆ったその姿は、彼女を余計に引き立てていた。
のちに、神に愛された皇帝として、歴史に刻まれた。




