⑨ 卒業パーティー
とうとうこの日が来た。
この数日間という準備期間。
心の準備を整える事が出来た。
もう覚悟を決めた私に怖いものなどない。
「お嬢様、レオルド殿下がお迎えに見られました」
殿下が迎えに?
何でもないから?
それとも私が逃げないようにするため。
もしかして私がまだ気付いていないと思っているのかも。
いいわ。
最後まで悪役令嬢を演じてあげる。
「体の具合は大丈夫か?」
「はい。ご迷惑をお掛け致しました」
馬車の中は沈黙が覆う。
学園への送迎で二人だけの世界など慣れているはずなのに。
この日は今までにない気まずい空気が漂っていた。
「フィリア・・・」
「何ですか?」
「君は平気なのか?」
平気なのかか・・・
私が気付いている事に気付いていたのね。
正直な話、平気な訳がない。
レオルドとの思い出は沢山ある。
それが無になる事がどんなに苦しい事か。
「平気な訳ないでしょ。でも・・・心を落ち着かせるのに十分な時間があったわ。今はこのパーティーが終わったら新しい人生をどう送ろうかと考えると楽しみで一杯よ」
「そうか・・・」
レオルドの期待する答えではなかったらしい、
私が請う姿が見たかったのだろうか。
ごめんなさい。
全て貴方の望みを叶えてあげるほど私はお人よしではない。
会場に着く。
さすが卒業パーティー。
シャンデリアの明りはいつにもまして煌びやかで飾られているタペストリーは荘厳に感じる。
レオルドと共に会場に入ると会場中から握手で出迎えられる。
皆は知らないみたい。
この会場で断罪劇が行われ一人の令嬢が消える事を。
「良かったですわ。フィリアさんが卒業パーティーに参加出来ないんじゃないかと心配してたんですよ」
「ご心配して頂きありがとうございます。サラーサ王女」
「ええ。これで約束が守れます」
約束か・・・
二人はそこまで仲が良かったなんて気付かなかった。
サラーサの笑顔。
あんなに心が落ち着く笑顔だったのに今は心が痛い。
レオルドの質問を思い出す。
『平気なのか?』
今、逆に問いたい。
私に笑顔で接する皆に平気なのかと。
「フィリア一曲踊ってくれないか?」
「・・・ええ、喜んで」
レオルドは断罪する私と最後までファーストダンスを踊ってくれるのね。
レオルドとのダンスは何回も踊っている。
王宮での妃教育で一緒にダンスを習いながら一緒に踊った。
今まで参加したパーティーでも必ずファーストダンスを踊った。
私はダンスが苦手・・・
でも、いつもレオルドはリードして私を支えてくれた。
今日も同じようにリードしてくれている。
違うのは、今日のダンスはいつもよりも楽しかった。
いつもよりも楽しく永遠に続いて欲しいと思う反面、レオルドの笑みを見るのが苦しく早く終わって欲しいと思う私がいた。
曲が終わる・・・
ああ、これで終わりなのね。
レオルド、今までありがとう。
「フィリア、次も一緒に踊って欲しい」
「えっ・・・あっ・・・はい」
えっ・・・続けてダンス!?
練習以外で二曲続けて踊るのは今日が初めてであった。
二曲続けて踊る事には意味があった。
『愛し合う二人』
もしかしてレオルドは知らない?
レオルドと二曲続けて踊りながらサラーサは笑顔で私達のダンスを見ている。
サラーサが知らない訳がない。
なのに平気でいるサラーサが何を考えているのか解らなくなった。
「フィリア」
レオルドに呼ばれレオルドの方を向くとレオルドが顔がいつもよりも近い。
「俺とのダンス中に余所見をするなど許さない。罰として踊り終わるまで俺の顔を見続けろ」
レオルドが更に顔を近付ける。
タイミングによっては危うく唇と唇が触れ合いそうになるくらい近い。
苦しい。
いつもなら五曲六曲くらいなら平気なのに、今は呼吸をするのが苦しい。
鼓動がいつもの倍以上早まり今にも破裂しそうになっていた。
どうにかレオルドとのダンスを踊り終える事が出来た。
サラーサから飲み物を手渡される。
パーティーは続く。
何もない・・・どうして・・・
断罪するなら早くして欲しいのに。
早く私を開放して欲しい。
そうでないと・・・
そうでないと私を覆う嘘の仮面が砕けてしまう。
「フィリア・オメガさん!」
平和なパーティーが終わりを迎える。
いよいよ断罪劇が始まる。
私は目を瞑り覚悟を決め声をする方へ振り向く。
一人の令嬢が立っていた。
「どなた?」
失礼なのは解る。
でも、貴族の名前を全て覚えている私でも学園全員の名前と顔を一致させる事など出来ない。
初めて会う方なら猶更であった。
私の発言に令嬢の顔が真っ赤となり口角を引くつかせている。
怒らせてしまったかもしれないが知らないものは知らない。
「酷いです。散々私の事を虐めていた癖に」
凄い変わりよう。
あんなに怒りを露わにしていたかと思ったら突然なよなよと庇護欲をかき立たせるような態度へと変わった。
なるほど・・・悪役令嬢の私が彼女を虐めたと断罪する計画なのだと解った。
「初めてお会いする貴女を私が虐めたのですか?」
彼女の口角が再び引くつき始めた。
私の予想外の返答に苛立っているのかもしれない。
だけど私だって無実の罪をはいそうですかと認める訳にはいかない。
この後、サラーサとレオルドの二人に裏切られる事となろうとも。
見たこともない令嬢が私を咎めている中でサラーサとレオルドの出方を伺ってみた。
どこか可笑しい。
なんていうか二人の立ち位置が私をまるで名の知らぬ令嬢から守るように立っていた。
二人は私を庇おうとしている!?
「私を校舎裏に呼び出し暴力を振るったじゃないですか!」
(きた!裏切られる)
「可笑しな事をいいますね。フィリアさんと私達は誰かが常に一緒におりましたわ。貴女の仰る事が真実なら私達も同罪という事かしら」
「そういえば、前にフィリア令嬢を校舎裏に呼び出す不審者がおりましたので私が代わりに伺いに行ったが確かに貴女が一人立っておりましたね。ですが、あの時は他の誰もいなかったはず」
「虚言か。そうでないと言うなら証拠を見せろ!」
(あれ?)
令嬢は何も言えないで立ち尽くしている。
でも校舎裏に呼び出したのが彼女だったとは思わなかった。
それよりもサラーサやレオルドの発言は私を守ってくれている。
「そ、それだけじゃありません。私はフィリアさんに階段から突き落とされました」
「それは何時ですか?」
「えっ?」
「先ほども言いましたが私達は常にフィリアさんと一緒にいました。貴女が被害にあった日と時間を教えて下されば私が教えて差し上げます」
(あれれ??)
サラーサが合図を送ると控えていた従者が分厚い本を数冊持ってきた。
そこにはサラーサと私の行動記録がこと細かく書かれていた。
ここまで来ると私の迷推理は一つの答えを導き出す。
『二人は敵ではない』
巨大な防壁を前に令嬢は何も言えなく立ち尽くしている。
しかし、令嬢は拳を力一杯握りしめフルフルと震わせている。
「どうして・・・どうして何もしないのよ!なんでヒロインの私が責められないといけないのよ!」
名の知らない令嬢がヒステリックのように怒鳴り始めた。
彼女がヒロイン?
なら、サラーサは・・・
それよりも彼女も私と同じ転生者?
私は何が何だか解らず呆然と立っていると取り押さえられていた名の知らない令嬢はそのまま連れ出されていった。
レオルドは他の卒業生に声を掛けパーティーの仕切り直しに取り掛かっていた。
私はサラーサを見る。
「良かったわ約束を守れて」
「約束!?」
「やっぱり忘れてしまったのね。貴女が卒業パーティーの心配の話ばかりしていたから『そんなに心配なら守ってあげる』って約束したのに、忘れられていたなんて酷いわ」
忘れてなんかいない。
忘れる訳がない。
私の初めての友達。
だけど・・・私の記憶が正しければ・・・
「えっ・・・だって・・・あの子は・・・男の子だったはず・・・」
私の発言に先ほどまで悲しい素振りをしていたサラーサがニヤリと笑った。
「あの頃は立場的に暗殺される危険がから身分だけでなく男装していたの」
「ええええええーーーーーー!!!!!!」
今世紀一番の驚きの声に再び皆の注目を浴びてしまった。
恥ずかしい。
でも今は幼き日の親友に再開できた喜びを味わいたい。
私は泣きながらサラーサと・・・いえ、再会した親友と抱き合った。
こんなに嬉しい事はない。
ここに来るまで断罪されるかと思っていた。
皆に裏切られるかと思っていた。
しかし、蓋を開けてみれば皆にサラーサにレオルドに守られていた。
「フィリア、ちょっといいか?」
レオルドに誘われテラスへと足を運ぶ。
レオルドが何か言いたげであった。
そっか・・・断罪はなくなっても婚約は破棄されるのね。
「いいわよ。二人で交わした秘密の約束だもの」
「いいのか?」
「ええ。馬車の中で言ったでしょ。心の準備が出来てい・・・」
私が言い終わる前にレオルドが私を抱きしめてきた。
「やった!やったぞ!フィリアと結婚出来る!」
結婚??????
「えっ、レオルドは私との婚約を破棄したかったんじゃなかったの?」
「何を言っている?俺はお前と結ばれたく・・・そりゃ最初はお前を傷付けて申し訳ないと思っている。だが俺はお前を見て今の俺は間違っていると気付く事が出来た。己を見詰め直す事が出来た。全てはフィリアのお陰だ。今の俺にはお前なしではありえない。だからお前と一緒にいても笑われないように努力してきた!俺にはお前以外いない!」
どういう事。
断罪されないの?
婚約破棄されないの?
まだ、質問したいが許されなかった。
レオルドに唇を塞がれてしまったから
令嬢達から黄色い悲鳴と令息達から拍手が飛び交う。
今年の卒業パーティーは今までにない卒業パーティーだと市井にまで語られる事となった。
私もこの日を忘れる事はない。
人生最悪の日と思っていたのが最高の日となったのだから。
FIN




