⑧ 生きるためにする事
気付いたらベッドの上だった。
学園で気を失った事は思い出せるがその後の事が解らない。
誰が運んでくれたのか気になる。
しかし、それ以上に優先しなくてはならない事がある。
余計な事を考えるのは後だ。
今、優先しなくてはならない事。
それは、断罪後の生活の確保であった。
しかし、どうしても思い出してしまう。
三年間、信じきってしまっただけに。
悔しい・・・
空しい・・・
悲しい・・・
私は信じてしまった。
だから油断してしまった。
油断してはいけないと解っていたのに。
シナリオの修正力を甘く見てしまった。
もう少し喪失感に浸っていたいが時間がない。
あれから何時間寝ていたのか・・・
もしくは何日寝ていたのか・・・
卒業パーティーまで一週間だったはず。
日がない・・・
チリン!チリン!
ベルの合図とともにメイが駆け付けてきた。
「私、どれくらい寝ていた?」
「丸1日ほどでございます」
丸一日・・・
大丈夫、まだ日がある。
今から準備すれば十分に間に合う。
「メイ、プランAを実行するわ」
メイの目が一瞬大きく見開くがすぐにいつもの無表情に戻り、『畏まりました。直ちに準備致します』と、一例をして部屋を後にした。
私は便せんを取り出し手紙を書き始める。
相手先はフィリア商会の経営管理人トマス。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
トマス へ
以前、話した緊急事態の話を覚えているかしら?
実はその緊急事態が実際に発生しそうな状況となっております。
つきましては、商会の本店と資金を以前話した通り隣国に移す準備をして下さい。
日があまりありません。
早急に行うように
商会長:フィリア より
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
殆どの小説・ゲームにて断罪劇は起承転結の結となる部分。
シナリオ修正力がどんなに強く働いても物語終了後はその力が働かないはず。
だから私は断罪後の世界を生き抜く事が出来る準備を整える事にした。
それが商会であった。
商会をこの国に置いておくと国の圧力により潰されるか奪われてしまう。
資金も同じ。
だから、この二つを隣国に移す必要があった。
店舗を一度に移す事は出来ない。
だから一番重要な本店だけを移転させる。
頭さえ生きていれば他全て潰されても生きていく事は出来るから。
私は断罪後すぐに隣国に行く。
隣国で全てを忘れて過ごす事になる。
全てを忘れて・・・全てを捨てて・・・
今迄の思い出が次から次へと思い出してしまう。
思い出し過ぎて思い出の器から零れ落ちる。
溺れ落ちた思い出は涙となって流れ出ていた。
もし、彼らに騙されていたとしても彼らの事を恨む事が出来ないでしょう。
サラーサ王女・・・
ヒロインと悪役令嬢という関係でなければ仲良く出来たのではと思ってしまう。
レオルド王子・・・
本当に最低な男。
でも、最近は真面目で彼が王となる姿を見てみたいと思っていた。
でも・・・それも・・・もう叶わない。
全てを忘れなくてはいけないのだから。
コン!コン!
「お嬢様、公爵様がお呼びです」
「・・・解ったわ」
優しいお父様。
いつも心配してくれるお父様。
お父様に会えるのも後数日。
隣国にいけばお父様の事も忘れなくてはならない。
「フィリアです」
「入りなさい」
お父様・・・
お父様の髪に白髪が多くなった。
お父様のお顔に皺が見られるようになった。
可笑しいものね。
毎日顔を合わせているというのに。
もうすぐ会えなくなると思うと細かい事に気付いてしまう。
「フィリア、もう体は大丈夫か?」
「はい心配掛けて申し訳ございません」
「それでもまだ病み上がりだからもう暫くは休みなさい」
私にとってはありがたい言葉。
どんな顔してサラーサに会えばいいのか解らない。
どんな顔してレオルドに会えばいいのか解らない。
出来れば卒業パーティーまで会いたくない。
「なんならパーティーにも行かなくていいんだよ」
「えっ!?」
「お前の人生は一つじゃない。商会長として生きて行くのもいいじゃないか」
「お、お父様・・・」
お父様は気付かれている。
この先、何が起きるのか。
もしかしたらメイが伝えたのかもしれない。
それでもお父様は私の味方でいてくれる。
ありがとう・・・お父様。
三日後、トマスから隣国への移転が完了した手紙が届いた。
準備は完了した。
後は断罪を待つばかり。
しかし、一つだけどうしても気になる事がある。
(断罪=処刑だったらどうしよう・・・)




