⑦ 平和の裏側
可笑しい。
大いに可笑しい。
絶体に可笑しい。
明らかに可笑しい。
思いの外可笑しい。
あれから二年経つ。
が、何も起きない。
苛めや嫌がらせ、器物破損に犯罪紛いな事件。
何も起きなかった。
それだけではない。
私がそれらの事を行ったと言う噂さえも聞こえて来ない。
平和。
平和過ぎる。
サラーサはいつもにこやかに私の隣にいる。
何も仕掛けて来ない。
チャンスは幾つもあったはず。
なのに何も起きない。
最初は何が来てもいいように警戒していたのに、今ではこの状況を楽しんでしまっている。
レオルドも同様。
最初はサラーサを見て顔を赤らめていたように見えたのだけど、全くと言っていいほどサラーサに興味をもたれていない。
変わらず二人の間には私がいる。
あの顔を赤らめた殿下は私の見間違いだったのか。
「フィリア様、用があるので校舎裏に来て欲しいと頼まれたのだけど」
他教室の生徒が私を呼びにきた。
誰だろう?
私と関わりがある人物は皆ここにいる。
思い当たる人物がいない。
もしかしたら商会で何かトラブルが発生したのかも・・・
私は席を立ち向かおうとするとそれを阻止する手が二つあった。
「何処へ行く?」
「フィリアさんお座りになって」
私の行く手を阻んだのはレオルドとサラーサであった。
いつも水と油のように仲が悪く事あるごとに言い合う二人であったが私が関わると可笑しいほど意気投合する二人。
この二人は仲が悪いのか良いのか解らない。
「お前は馬鹿か?お前を呼び出せる身分など私以外いない。しかも、私の婚約者を呼び出す阿保に従う必要などない。貴様も立場を考えて行動しろ!」
「本当にフィリアさん軽率ですよ。校舎裏など人気のないところに呼び出すなど悪意しか感じられません。もし商会の方だったとしても普通は教師に伝えて職員室で話されるんじゃないかしら」
確かに。
校舎裏への呼び出しってイメージ的に『集団リンチ』『苛め』『不良の溜まり場』と良いイメージがない。
悪役令嬢の私が呼び出すなら解るけど呼び出される意味が解らない。
そんな所に呼び出すなど碌な事はない。
危ない、危ない。
まさかヒロインと攻略対象に助けられるとは思わなかったわ。
「そうですね。御用があるのでしたら向こうの方から来られるだろうし、行く必要はありませんね。レオルド殿下、サラーサ様、ご助言ありがとうございます」
「別に気にするな。念のためアレイン様子を見てきてくれ」
「はい」
レオルドから命を受けるとアレインは嬉しそうに駆け出ていった。
腕をぶん回して飛び出していったけど大丈夫かしら。
「大丈夫ですか?アレイン様」
「アイツなら大丈夫だ。既に一般の騎士以上の実力を持ち合わせている」
いや、私が心配しているのは暴力沙汰にならないかなのだけど。
まーレオルドが信頼しているなら大丈夫なのでしょう。
それでも婚約者は心配しているのではと覗いて見ると、アッケラカンとしていて心配のしの字もないみたい。
そんな皆の期待通りアレインは午後の授業が始まる前に戻って来た。
「どうだった?」
「それが、令嬢が一人いただけで他には誰もいませんでした。令嬢に忠告しておこうかと思いましたが、それすらも罠かもしれないと思い様子を見る事にしましたが何も起きませんでした」
「そのご令嬢が呼び出されたのでしょうか?」
「解らん。フィリアも思い当たる事はないのだろう?」
レオルドの問いに首を横に振る。
思い当たる事など全くない。
自慢ではないけど、ここにいる方達以外と親しい人物などいない。
この日は答えが出ないまま終える事となった。
日は流れ卒業まで残り一週間となった。
この日も普段と変わらない日常であった。
少し離れた場所で話合う同級生の会話を聞くまでは。
「おい、聞いたか?昨日、西の校舎二階の階段で女性が転び落ちたって話」
「知ってる、知ってる。それが突き落とされたかもしれないって話だろ」
階段から突き落とされた?
悪役令嬢あるある事件が起きたって事?
でも誰が?
サラーサ王女とはいつも一緒でそんな事は起きた事ない。
それでは誰が?
気になる。
クラスメイトの話の続きを聞きたく耳を傾けるも有力な情報を得られる事は出来なかった。
しかし、クラスメイトから驚く話が飛び込んできた。
「そう言えばこの間、校舎裏で女子生徒が暴力を受けたらしいぞ」
「嘘だろ!」
「マジで。しかも犯人は同じ生徒って噂らしい」
校舎裏・・・
このワードを聞いて以前呼び出しされた事を思い出す。
あの時、私は呼び出されたが向かわなかった。
そう言えば、あの時はアレインが代わりに見に行って下さった事を思い出した。
アレイン令息を見る。
すると、私の視線に気付くと気間づいかのように顔を背けた。
どうして?
何が気間づい事があるのだろう?
「まー何か物騒な話が聞こえるようになりましたね」
サラーサが笑みを向けてきた。
何故だろう。
いつもの笑顔と変わらないように見えるけど何処か恐怖を感じる。
この違和感は何なのか・・・
何かが起きれいる?
いや、そもそも初めから違和感だらけだった。
しかし私は・・・
慣れてしまっていたから。
信じてしまっていたから。
楽しんでしまっていたから。
最初から違和感の集まりを見て見ぬ事にしていた。
私はある憶測が脳内を駆け巡る。
私は校舎裏には行っていない。
だけど、それを証明してくれるのはサラーサとレオルド達。
しかし、もし彼らがもし『フィリアは校舎裏に向かった』と証言したら?
アレインは女子生徒以外いなかったと言っていた。
それは逆に言えば女子生徒以外の証人はいない。
私を見掛けたという証人が現れないのと同様に見掛けなかったと言う証人もいない。
残された事実として『学舎裏に来て欲しいと呼び出された』と『学舎裏に向かった』と言う証言。
私の考え過ぎかもしれない。
でも・・・シナリオの修正力を考えると否定する事は出来なかった。
先ほどの階段突き落とし事件も同じ事がいえる。
私はいつもサラーサとレオルド達と一緒にいた。
もしこの人達がフィリアはいなかったと証言したら・・・
チェック・メイト。
もう今から挽回する事は難しい。
もう断罪は避けられない。
そんなはずはない。
私は今一度サラーサを見る。
サラーサは普段と変わらない笑みのままであった。
あれだけ楽しかったのに・・・
あれだけ安心できた笑顔は今や歪んで見えてしまう。
違う、そんな事はない・・・
醜い己の心を説得しているところサラーサから衝撃の一言を言われる。
「フィリアさん、断罪が怖い?」
ドサッ!
視界が暗闇に包まれ記憶が闇に隠れてしまった。
私の魂がサラーサの一言に耐える事が出来なかった。
次に目覚めるまでの間、再び幼き日の夢を見た、
名も知らない男の子。
助けてくれるといった男の子。
突然、私の前から姿を消した男の子。
学園生活残り一週間。
私の学園生活はこの日に終える事となった。
私の学園最後の思い出は闇の中となってしまった。




