⑥ 学園生活
「大丈夫か?」
レオルド殿下が私の事を心配している。
私が昨日休む事にしたから
表向きは体調不良。
真実は真実が見せられなかったから。
なんだったら昨日は邸のガゼボでミルクティーを嗜むほど元気であった。
心配してくれるレオルド殿下に申し訳ない。
今後はこのような事がないよう気をつけます。
だから・・・どうか、こんな事で断罪されませんように
「ご心配頂きありがとうございます。もう大丈夫ですので」
「風邪か?」
「つ、疲れでしょうか。入学初日という事で張り切り過ぎてしまったみたいです。駄目ですね、こんな事で体調崩すようでは婚約者失格ですね」
「お前は・・・いや・・・何でもない」
どうにか体調不良という事で逃げよう。
レオルド殿下が何かいいたそうであったがそのまま黙り混んでしまった。
何を言われようとしたのか解らない。
その後の殿下は視線も合わせてくれようとしてくれない。
いつもと違う空気に寂しさを感じる。
馬車が学園に着くとサラーサ王女とレオルド殿下の取巻き2名が出迎えていた。
これからの事を考えると溜め息が出そうになったがグッと堪えいつものスマイルで挨拶。
「お体の具合は大丈夫ですの?」
サラーサ王女にも嘘を付く羽目に。
「本当に?」と返された時は心臓が0.5秒ほど止まってしまった。
サラーサ様・・・まさか影か誰かが密告されてます?
心臓の鼓動が収まらないまま教室へと向かう。
ここで違和感。
何故かサラーサ王女が着いてくる。
「サラーサ様、ここは私たちの教室ですが・・・」
「何言っている、彼女と私達は同じ教室だぞ」
「えっ・・・ですが・・・入学式の日に・・・」
「あの日は学園長と手続きの件で調整する事があり、皆様とご一緒出来ませんでしただけですよ」
なんという事だ。
主人公だけでなくヒロインまで一緒の教室だったなんて・・・
しかも一緒に登校し一緒に教室へと入る私達は必然と三人が並ぶように座った。
しかも私が二人に挟まれるように。
「おの・・・何か・・・並びが・・・可笑しいような・・・」
「婚約者なのだから隣に座るのは当たり前だろう?」
「ご学友となりましたのだからお隣になるのは普通ではありませんか?」
「嫌なのか?」
「嫌ですの?」
「いえ・・・嬉しいです」
諦めよう。
それにしても、なんて絵面。
主人公とヒロインの間に悪役令嬢がいるなんて・・・
授業が全然身に入らない。
これは邸に帰って復習しないと・・・
「2時限目は算術学ですね。私、計算が苦手でフィリアさんは算術学は大丈夫ですか?」
「ふっ、フィリアは既にこの国の経理の一部を任されているほど優秀だ」
これに関しては前世の記憶が大いに役に立っていた。
この国の算術学は数学ではなく算数であった。
王宮で二次方程式の理論を話した時の学者の驚きようは凄かった。
今では二次方程式の理論をフィリアの法則などと呼ばれている。
もし、他の転生者に知られたら恥ずかしい。
それにしても私が受けた質問を何故かレオルド殿下が自慢げに答えた。
しかも腕組をして自信満々な態度が訳解らない。
まー褒めて貰えたので悪い気はしないけど、サラーサ王女の目が座っていて何だか怖い。
そうですよね。意中の男性が他の女性を自慢するなど面白くないですよね。
「あら、可笑しいですね。私、フィリアさんにお伺いしたのですが?もしやフィリアさんは殿下に発言を赦されていないほど虐げられておられるのですか?」
「な、何を!」
「冗談ですわ。冗談。殿下は相変わらず単純明快な方でからかいがいがあって面白いですね」
(相変わらず!?)
二人はもっと前からの知り合い?
王女と王子だから国同士の集まり場で知り合っていても可笑しくない。
だけど・・・なんだか仲が宜しくないような気がする。
理由が解らないけど私を間に挟んで火花を飛ばし合うのは一先ず止めて欲しい。
視線をレオルド殿下の取巻き2名に向けると2人揃ってクビを横にふる。
(何て使えない二人!)
もうこのまま次の授業まで我慢するしかないと諦める事にした。
二人の細かい攻め合いが止まらない。
中立国である私を挟んでの冷戦状態は私の方まで火の粉が飛ばないか冷や冷やしながら授業を受けていた。
「婚約者のフィリア様が優秀過ぎてレオルド殿下もさぞや大変でしょう」
何ターン目の攻防だったろうか。
二時限目も終わり休憩時のサラーサ様の発言であった。
「なっ!」
「それは違いますよサラーサ王女。私が得意な部分があるようにレオルド殿下が得意な部分もあります。それらの部分で私はどれだけ助けられている事か」
サラーサ!何て危ない発言をしてくれるのよ。
殿下のコンプレックスを揺さぶってくるなんて油断大敵過ぎる。
恐る恐る殿下の様子を見ると頬を赤らめてこちらを見ていた。
(えっ!なぜ?)
レオルド殿下の気持ちが解らない。
先までのサラーサ王女の言葉の何処に頬を赤らめるワードがあったのか解らない。
でもこれでレオルド殿下の心がサラーサ王女にある事が解った。
私の予測通りの結果だ。
だけど・・・予想通りなのに何故か胸の部分が苦しい・・・
もしかして・・・私・・・
朝、嘘付いた罪悪感を未だに引きずっているのかしら。
この時、サラーサ王女が「何だかんだ仲いいじゃない」と呟いていた事をスルーしていた。
午前中の授業が終わった。
私達はレオルド殿下の執務室でランチを頂く事となった。
執務室には殿下と私以外にサラーサ王女だけではなく殿下の取巻き&その婚約者が集まっていた。
正直に言って多すぎるような・・・
サラーサ王女とのランチは不可欠な事は解っている。
殿下の取巻きも同じ理由で離れる訳にはいかない。
ならば婚約者同士は別にと提案したら取巻き2名の婚約者に責められてしまった。
『婚約者同士でランチをとる事は当たり前の事です。もし婚約者がいるのに別々にランチをしていたならば世間に何と思われてしまうか。それなのに・・・フィリア様あんまりです・・・』
こんなところで悪役令嬢トラップがあったなんて。
いけない!と、慌てて言い訳をした。
結局皆でランチを共にする事となった。
あっ、それなら殿下と私が別々に食べれば良いのではと思ったがそれも無理だとすぐに解った。
殿下の方を見ると眉間の皺がくっきりと見えるほど寄っていた。
(あっ、これは余計な事は言わない方が良いわね)
何年も殿下の側にいるから解る。
これは沈黙が正解なのだと。
それにしても不思議。
「この間、フィリア商会のプリンを購入致しました」
「私はフィリア商会のマカロンが好きです」
「今日の3時限目の国立法は覚える事が沢山あって着いて行けるか心配です」
「おいおい、一人だけ留年しないでくれよ」
「先ほど、ここに来る途中、一人の令嬢が目の前で何もないところで転んだのだけど、何もないところで転んで一人で何か喋っていたからちょっと怖かったよ」
なんでもないランチの会話。
皆、和気あいあいと食事と会話を楽しむ。
この状況を可笑しいと思うのは私だけなのでしょう。
悪役令嬢の私が主要人物と混じっているなんて。
でも・・・
心地よいと思う自分がいる。
将来断罪されるかもしれないと言うのに。
この雰囲気が続けば良いのにと思う自分がいた。
これが私に課せられた学園での1日。
これを三年間過ごす事になる。
何も起きない事を祈る。
いや、祈るだけでは駄目。
何も起こらないよう行動しないと。
断罪されないように行動に気をつけないと。
でも・・・居心地の良いこの空間が私の心を緩めてしまう。




