① 秘密の契約
「婚約者に会えると言うから期待して来たのだが、期待外れもいい所だな」
王宮の中庭。
第二王子レオルドと公爵令嬢フィリアの婚約が交わされ、初めての顔合せでの一幕。
ガゼボに座りさて自己紹介をと言う場面でレオルドの第一声に私以外の皆が硬直してしまった。
私は平然と紅茶をクピッと一啜りする。
あっ、今日の紅茶はオレンジティーね。
仄かな酸味が何とも言えないほど素晴らしい。
まだ時が動き出す気配はない。
問題発言をした者は自身が問題発言した事に気付かず、腕を組んで踏ん反り返っている。
私はもう一啜り紅茶を飲む。
鳥の囀り声とその風がオレンジティーをより一層引き立たせる。
もう一啜り紅茶を楽しんでも良いのだけど、もうそろそろ動き出して貰わないと帰りが遅くなってしまう。
私はティーカップをほんの少しカチャリと音を立てて置いた。
マナー違反だけど仕方がない。
誰かが合図を出さないと・・・
マナー違反したかいがあり、皆の時が動き出した。
お父様のオメガ公爵の肩が震え出す。
お母様はテーブルの下に隠していた扇子が真っ二つに折れ曲がっていた。
「婚約は破棄だ・・・」
お父様の第一声に国王陛下と王妃が慌てて宥め始める。
侮辱されたのは私なのだけど、私に対するフォローは誰もしてくれそうもない。
諸悪の根元であるレオルド王子は状況を理解出来ずにいるようで大人達のいい争いに驚きキョロキョロと様子を穿っていた。
おそらく、ご自身が発言した言葉が問題だと言う事は解ってないのでしょう。
私は回りの様子を観察しながら紅茶を一啜りした。
紅茶が空になる。
直ぐ様、侍女のメイが紅茶のお代わりを注いでくれた。
彼女に動揺は見られない。
流石は私の専属ね。
さて、普通なら婚約者との面談で第一声が侮辱的な言葉だと言うのになぜ私が平然としていられるのか?
それは、私には前世の記憶があったからだ。
そうは言ってもフィリア・オメガという名前や国名などを聞いてもゲームや小説等で見たり読んだりした記憶がない。
全く記憶にない世界に転生していた。
しかし、鏡を見るからに私の顔はキツイ。
いや、『可愛い』『綺麗』な部類に入るのだろうけど、目尻が上がり下手に整っているから黙りしていると怒っているように見えてしまう。
そのような私の顔を鏡で見続けてきた私は自分の事を悪役令嬢なのだろうなと思っていた。
そんな中での第二王子との婚約。
絶対に何か起こる。
そう思っていた中でのレオルドの発言。
私からしてみれば『あーこのパターンね』と思うだけで動揺する事はなかった。
相変わらずいい争いをしている大人達。
その姿を見て目を右往左往させているレオルド王子。
さて、どうやって治めましょうか・・・
おそらくだけど、お父様の達が折れて婚約継続となるのでしょう。
「子供の発言」と言う形で治めて。
レオルド王子との婚約・・・
ふと、目線を今一度レオルド王子に向ける。
(あり得ないわね)
このまま婚約を継続すれば、私の将来は終わる事間違いない。
ならば・・・どうにかしないと。
こうなる事はシミュレーションしてきた。
紅茶を啜りながらレオルド王子の発言を思い出す。
空になったティーカップに紅茶を注ろうと近付いてきたメイに耳打ちをする。
よし、この作戦で行こう。
「レオルド殿下」
返事がない。
聞こえないか大人達の行動でパニック状態に陥ってそれどころではないか。
しょうがない・・・
私は席を立ち、前のめりになりながら今一度レオルド王子の名を呼んだ。
「あ、ああ」
よし、今度は返事が頂けた。
先ほどまで大人達の動向に目をキョロキョロさせていたが、今は私の方をジーッと見続けている。
少し顔が赤い。
怒っている!?
ヤバい、「不敬だ!」と怒鳴られる前に要件を伝えないと。
「二人で少々お話したいのですが宜しいですか?」
「あ、ああ」
よし、返事を頂いた。
大人達はいつの間にか静かになり私達の方を見ていた。
「お父様、レオルド王子と少し散歩して参ります」
「あ、ああ。目立つ所は止めなさい」
許可を貰えたのでレオルド王子と中庭をぐるりと散歩する事にした。
それにしてもお父様の「目立つ所は止めなさい」って私がレオルド王子に何かしようとしていると勘違いしているみたい。
失礼な。
校舎裏じゃないんだから。
二人と言っても完全に二人きり出はない。
互いに最も信頼出来る者が着かず離れずの距離で護衛として着いて来ている。
ただ、この距離なら私達の会話は聞こる事はない。
「レオルド王子は私の事が好きではないのですか?」
「え、いや・・・どうせお前も王族と言う地位が欲しいだけだろ。そんなお前など好きになる訳がない!」
「そうですか・・・」
私は座り込んで花を眺める。
座り込む私を見てレオルド王子は何かあたふたしているようだけど知った事ではない。
逆に考えを纏めたいので静かにして欲しい。
・・・よし!
「それならば殿下、私と契約を結びましょう!」
「ふぁっ!?」
どんな返事?
私の発言に意表を突かれ過ぎたのか、頂いた返事からでは賛否が解らなかった。
まぁいい。
取りあえず書類を取りだそう。
合図と共にメイから書類を受け取る。
「こ、これは?」
「契約です」
2部ある内の1部を王子に手渡す。
手渡した物は契約書であった。
~~ 契約書 ~~
①この契約は両者が婚約を不服と思い結ばれた契約である。
②レオルド・バーンズは婚約が不服の場合はいつでも破棄する事が出来る。
③フィリア・オメガは婚約者の不貞・暴力が確認出来た時、学園卒業時に婚約を破棄する事が出来る。
④婚約破棄の際は責任の所在を求めず慰謝料は互いに求めない事とする。
⑤学園卒業後、レオルドが求めし時のみ婚姻するものとし、それまでは婚姻しないものとする。
⑥レオルドが別の令嬢と婚姻される場合はフィリアとの婚約契約は白紙とする。
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「俺の条件とお前の条件が違うのは?」
「それは立場的にです。殿下の妃として教養など私では考えない理由が多々あるかと思いますので」
「ああ、確かに・・・」
「問題なければこちらにサインを」
「・・・」
「どう致しましたか?」
「お前は王族の地位が惜しくはないのか?」
「いえ、全く」
レオルド殿下が目を見開いて私の事を見る。
ヤバい、即答してしまった。
不敬と思われたかもしれない。
「殿下、殿下の妃とはなりたくてなれるものではないかと思っております。私も選ばれた以上は教養等頑張りたいと思いますが資格や能力もないのにしがみつくものではないと考えております。殿下が私よりも望ましい方を見初められましたら私は直ぐに退く所存でございます」
レオルド殿下の時が動かない。
作戦失敗か・・・
もしかしたら、退く=興味がないとと捉えられてしまったかも。
でも、これ以上の作戦が思い付かない。
私はそーっと上目遣いで殿下の様子を伺って見た。
レオルド殿下の顔が真っ赤に染まっている。
(ブチキレ寸前!?)
怒鳴られる!?
思わず私は目を瞑ってしまった。
しかし、レオルド殿下からの返答は私の予想とは違った。
「こ、ここにサインすれば良いのだろう!」
サイン・・・
作戦成功!?
怒鳴られると思ったけど、まさかの作戦成功に今度は私が意表を突かれてしまった。
なぜ!?
レオルド殿下の顔は相変わらず赤い。
なのに何故上手くいったのか解らなかった。
(ま、まー結果OKね)
取りあえずレオルド殿下と秘密の契約を結ぶ事が出来た。
これでレオルド殿下は何時でも気兼ねなく婚約を破棄出来る。
後は、平和に過ごすだけ。
レオルドとフィリアは秘密の契約書を1部ずつ保管し初めての顔合せを無事?に終える事が出来た。




