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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
星団の配達人
9/15

01-209 タワーオブジャングル

 東遺跡の一番高い塔に近付くのにはそれほど時間はかからなかった。ハイペリオン特製のバギー用のナビゲーションがあったからだ。


 


『この塔は』


 再出発前に作成した自慢の3D地図をアカリたちに見せながら、ハイペリオンは言った。


『見ての通り、各階に何か仕掛けがあるようだ』


 塔は六階建て、当然石造り。各部屋はどうも他とは違い何か設置されているようだと彼は言った。最上段には祭壇らしき物もあるとも言った。


「ハイペリオン、あなた加減がすばらしいわね!」


 探索にあまり時間がかけられない中、ベアトリクスの冒険心とアカリの仕事を両立できるような物件を持ってきて、しかも攻略難易度をある程度下げることが出来るヒントまで提供してくる。


『アカリは地図を持たさないと、おかしな所に探検に行くからな、彼の船のAIならば当然の仕事だ。なおかつ君が喜んでくれたのなら嬉しい』


 と、ちょっとした探検?謎解き?を期待してベアトリクス達はやって来たのだったが。


  


「あの……ベアトリクスさん、気を落とさないで……」


「別に何とも思ってないわよ……」


 「機械塔」は、おそらく何かの仕掛けがあるのだろう。しかしそれを確認することはできなかった。最下層の入口を入ると、塔の中心を貫く螺旋階段があった。角螺旋だ。階段の外周は壁に囲われていて、塔の外壁との間の空間は全く見えない。ただ階段を上るだけ。ハイペリオンの示した謎の機構は全く見えない。


 分かったことは、古代文明の生命体は人間とほぼ同じ大きさで二足歩行ということ。階段のサイズがちょうど良いし、階段自体が多足では上りにくいだろうから。階段には手摺もついていたから腕にあたる部分はあったのだろう、何本かは分からないが。


 六階分上ると見晴らしの良いフロアに出た。まだ上があるみたいだ。


 この階からは遺跡を見渡すことができた。


 柱は四つの角にしかなく、壁は腰くらいの高さまでしかないので、柱以外360度視界を遮る物はない。


 フロアの中央は階段の穴があいている。横には上階に行くための階段。螺旋階段を上っているときから思っていたが、支えとなる柱がこの塔には少なすぎる。天井だって、石のブロックかタイルを敷き詰めているが、なぜ落ちてこないのだろう。


「ちょっと休憩していきましょう」


 ちこのフロアには椅子に用いるのに丁度よい高さのブロックが六つ、きれいに並べて設置されていた。ベアトリクスはその一つに腰掛けて、伸びをする。


「じゃあ僕は上を見てきますよ。荷物は置いていきますね」


 おそらく最上階につながる階段。それがすごく華奢に見えて、アカリの体重も合わせて100kgを超える重量に耐えられるか心配だったのだ。


「うん、気を付けてね」


 ベアトリクスは靴まで脱いで完全にちょっと以上の休憩モードだ。


 アカリはそんな光景を眺めながら、階段を上っていく。


 上った先は予想通り、というかハイペリオンの地図通り最上階だった。下の階同様に屋根を支える柱がフロアの角にある以外は壁構造はない。


 空を見上げると、太陽―主星トレジエム―はすでに高度を下げ始めている。今日の探査に使える時間はあまり残っていない。


 フロアの中央には二段高くなったところに大きめのブロックが置かれてあり、いわゆる「祭壇」がこの塔にもあった。


「外れか」


 祭壇の上には何も置かれていないのは直ぐにわかった。


「……」


 この塔は期待していた分、ガッカリした感が大きい。ハイペリオンが見つけた構造は結局謎のままで、自分達がしたことはただ階段を上っただけ。冒険感をある程度していたのに、何もないのは期待外れだ。


 ……アカリは冒険探検はしたくないはずだが。


 アカリはしばらく風に当たっていこうと思ったとき、下の階からベアトリクスの悲鳴が聞こえた。非常事態というか、ただびっくりした程度のようだが。


「大丈夫……!」


 アカリが階段から下をのぞき込んだとき、塔が小さく揺れた。


「あ、アカリ君……」


 アカリが下の階に戻ると、当然のことに怯えた様子のベアトリクスが走り寄ってきた。 


「どうしよう!私、やってしまったかも!」


「どうしてそんな楽しそうなんです?」


 慌ててはいたが怯えては居なかったようだ。


「私が荷物おいてあるあの石ね、カバンの中の荷物を出そうとして、ゴソゴソってこう手を置いたら、少し凹んで、アッて言ったらゴゴゴ……って!」


「何言ってるか、まあ何となく分かるけど!」


 ベアトリクスが座っていたブロックは何かのスイッチになっていたということだ。見た目はただの綺麗な切断面で、切れ目など見えなかったのだが。古代文明の石に対するこだわりが深い。


「ベアトリクスさん、とりあえず荷物は下に置きましょうか」


「それもそうね。また何か動き出したらたまらないわ。本当よ!」


「何も言って無いじゃないですか。とにかくしばらく待ちましょうか。何が起きるのか」


 待つ間にハイペリオンへの問い合わせも行った。遺跡の妨害でエネルギーは多めに使ってしまうが、ここは見通しが良いこととクルーザーが中継に入ることで、エネルギーの消費量は少しは抑えられているようだ。


『見たところ、大きく何かが変わったということはない』


 30分ほど待ったが何も起きた様子はない。


 結局この塔一つの探索を終えた時点で、今日はタイムアップとなった。




 野営をするなら塔の上。とベアトリクスが主張したので、下に停めてあるバギーから塔の最上階まで荷物を引き上げてキャンプの準備をした。ここならおかしな物は祭壇しかないので落ち着くのだろう。


 見晴らしも良いし。夜になったら真っ暗だが。


 


「ベアトリクスさん、日が沈みますよ」


 塔の最上階は五メートル四方のエリアで中央に祭壇がある他は何もない。壁は無く、四隅の柱で石の屋根を支えている。


 西の森に日が沈んでいくのが見えた。


「綺麗ね……」


 夕日に照らされて赤いベアトリクスの髪が炎のように美しく燃え上がる。影が整った目鼻立ちをさらに強調して凛とした美しさが際だち、まるで女神のようだ。


「ベアトリクスさん、そうやってると本当にお姫様なんだなって思いますよ。すごく綺麗です」


 宵の女神は、薄く微笑むだけだった。




 日は落ちて、祭壇の近くに仮設の寝床を立てて、夕食の準備を始める。


 塔の高さ故か他の理由か、森に付き物の羽虫は全くいない。動物達が住処に帰る気配も感じられないが、念の為動物除けのエネルギー障壁は設置した。これで暴れ大熊が襲ってきても、気付かないまま殺されることはない。


 三十三世紀の便利グッズで夜営の拠点を築いたアカリは落ち着くことはできず、今は一心不乱に火にかけた鍋をかき混ぜている。今夜の野菜のスープはとてもクリーミーな仕上がりになりそうだ。


 フロアの端に作った囲いの中で、ベアトリクスがシャワーを浴びているのだ。アカリとて健全なる男子。思わず見とれるほどキレイなお姉さんが、全く見えないとはいえ、すぐ近くでシャワーを浴びている、つまり裸だ、の状況に落ち着かない。


 


「シャワー終わったよ」


「ベアトリクスさん、なんて格好してるんですか……」


「可愛いでしょう?」


 衝立の向こうから現れたのは、目のやり場に困るほどのラフな格好をした妖艶な美女……ではなく巨大な猫だ。猫の着ぐるみパジャマを着た美女だ。


「アカリ君は紳士だとわかっているけど、年頃の青年と二人きりだからね、間違いがあっては困るわけですよ、姫としては」


「まあ、ご配慮はありがたいですけどね」


 たき火型のヒーターで鍋の中身をかき混ぜるアカリの正面にベアトリクス達は座った。猫パジャマの頭装備を取ると正面ジッパーをへそ辺りまで降ろしてしまい、上半身部分を脱ぎ前足をお腹の前で結ぶ。


「……配慮は無しですか」


 当然下着は付けているのだが、ヒラヒラと実に危険な状態だ。


「ゴメンナサイ、暑いのよ」


「……何も起こりませんからね?」




 翌朝、日の出とともに起き出し、手早く朝食を摂って探索の続きの準備を始めた。


 アカリの宣言通り、昨夜は何も起こらなかった。


 念のためにベアトリクスとアカリのスペースの境界に張ったシールドのエネルギー残量が半分ほど減っていたのは、熊でも現れたのだろうと思っておくことにした。


 そして彼女がいうには、


「チラチラ見るなら、襲いかかってくればいいじゃない?」


 それをシールド張って自分から動けなくするなんて、何という愚かで情けない男なのか!などと思ったとか。だからシールドを突破しようとしたらしい。


「シールドが突破できたら、何をする気だったんです」


 ベアトリクスは教えてはくれず、とても可愛い笑顔を返された。




 第三号遺跡(東)は広大な遺跡だった。


 時刻は昼の少し前。二人は身体能力に任せかなりのハイペースで探索しているが、当初予定していた二日で終えるためにはそろそろ引き返さなければならなかった。未探索の遺跡であるので、アカリが求める神具は必ずあるはずなのだが遺跡の規模が大きすぎた。軌道上からの写真で目星をつけた中央区画にたどり着くのは、早くても夕方だろう。


 アカリとしてはあと一泊は避けたかった。シールドのエネルギーは半分しか残っていないから!


 次の塔へ続く通路は壁がなく続く円柱の列が天井を支える構造だった。通路の両側は池になっていて、二段下りたところが水面の高さだ。今までの暗い通路と異なり、開放的だ。水面がよく晴れた空の光を反射して眩しい。


「いい天気ですね。あの先の広くなってるところで少し休憩しましょう」




 ここまで通路は全てバギーが通るので体力はほとんど消耗していない。しかし遺跡の風景はあまり代わり映えしないので、気持ちの休息が必要だった。


「ねえ隊長……」


「そういえばコールサイン決めていませんでしたね?何です?」


 そうだったわね、と池を眺めながらベアトリクスは軽く答え、続けて言う。


「こんな大きな池、昨日あったかな?」


「……なかったですね」


 綺麗な景色で遺跡の雰囲気にも合っていたので、二人は深く考えていなかったのだ。


 アカリは昨日の降下前に撮った空中写真を壁に投影した。


「僕らがいるところはここ。両側に「中庭」があって、単なる広い空き地だったはず」


 再びハイペリオン様に頼ることにした。エネルギーは充分あるが目に見えて減っていくメーターというのは精神に悪い。


「ハイペリオン。上からはどう見えているの?」


『今そちらにデータを送った』


「もらったわ」


「こんなの、見逃しようがないよ」


「私たちが来たことで動き出した?のかしら」


 ベアトリクスが不思議そうに首を傾げた。


「いえ、ベアトリクスさんのせいでしょう?」

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