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裏銀河の冒険者  作者: 大星雲進次郎
星団の配達人
12/15

01-312 アカリとお姉さん

 宇宙船エムロード号は、銀河系辺境のトレジエム星系を拠点とする貨物船だ。迅速で丁寧な仕事ぶりは、母星はおろか、所属する星団の経済圏の各星系でも高く評価されていた。

 エムロード号は全長四六〇メートルもあり、トレジエムでは最大級だ。船型は古く、三〇〇年前の星団入植船団の随伴船を簡略化したものだという。

 船歴が旧く、一回の航海に掛かる日数が長いため、船で生まれた子供もそれなりに存在している。

 本日この船を訪れている、アカリ・ヴェッソー氏もその一人だ。


 彼の実家ともいえるこの巨大な船が、珍しく長期間停泊するというので、久しぶりに顔合わせに来たのだった。否。いつも隣に停泊しているのだし、お互い会う暇もないほど忙しい訳でもない。特にアカリ氏。

 アカリ氏は認めないだろうが、最近仕事でとても疲れたので慰めてもらいにきたのだ。さらに暴露してしまうと、姉に甘えにきたのだ。

 その証拠に、エムロード号に乗り込むや船長室に駆け込んだのだから。船長であるハルナ氏はアカリ氏の姉である。

「言い掛かりを付けないでもらおうか。船に乗せてもらうのだから船長に挨拶に行くのは当たり前だろう」

 揶揄した甲板員はアカリ氏におなかの肉をつねられたという。

 とまあ、姉弟と船員の仲は良好な方だ。

 とにかくアカリ氏はエムロード号の船長室にいる。


 アカリが帰ってきたと聞いて、会いに来る人は結構いる。シャルルもその一人で、彼はアカリの兄ポジションの人物だ。

 アカリの行動を読み切っている彼は、船長室の扉をノックもなしに無遠慮に開けた。 

「アカリ、ちょっと機関室まで来いよ、見せたい物が……帰りにでも寄ってくれ。じゃあな」

 それだけ言って、急いで帰ってしまった。

 ハルナはシャルルを「見た」。

 金色の瞳の奥、縦長の瞳孔を目一杯開き、ただ見た。それだけだった。

 他のクルーであれば分からないその意味も、一緒に育ってきたシャルルとアカリならば良く分かる。『ジャマスルナ、ウセロ』ということだ。

「姉さん、あんまりシャルルにきつく当たらないでね」

「普通よ。それに私は彼のことを高く評価しているわ」


 ハルナとシャルル、もう一人のエレナは歳もほとんど同じでエムロード号できょうだいのように育った。他者とのコミュニケーション力に難があった女の子二人はシャルルのお陰で宇宙船のコミュニティーから孤立することなくやってこれたのだ。そこは感謝している。しかし何かにつけて残念なこの兄弟は、ハルナが何よりも大事にしている弟との時間を邪魔してしまうような迂闊さがあった。

 お邪魔虫を撃退したハルナは、弟と静かな時間を過ごした。二人とも話すのは苦手なので会話のない時間も結構あったのだが別に構わなかった。

 

 美しい白猫のような真っ白な髪と金色の瞳を持つハルナはケンタウリ人だ。高度な文明を持つ異星の知性体としては地球から最も近い恒星系の出身であるがアカリの姉で、彼女がどのような経緯で養子になったかは割愛するが、実の両親は健在である。もう十数周期連絡を取っていない。

 ケンタウリ人は見た目は地球人類とほとんど変わらない。そこには宇宙進化論ともいえる仮説が提唱されているのだが、それも割愛だ。

 種族が持つ賢さでまだ若いながらも星系最大の宇宙船の船長兼経営をしている。彼女がトップに就いてからは、利益は大きく増加したし、船員の仕事環境も良くなったという。その分自分が忙しいので、たまにくる弟で癒されるのだ。


 長期の航海が多いエムロード号には、少なくない人数の子供が乗っていた。仕事のある親のために託児所が船内にあり、子供たちは一日の大半をそこで過ごす。その中でハルナ達は親が船に乗っていないという点で共通していた。ハルナの地球人の両親は外回りに出かけてほとんど帰ってこないだけだったが、あとの二人はもう少し重い理由だ。それにしても幼い宇宙人をわざわざ養子にしておいて宇宙船に放置とは、どれだけ甘く査定しても事案だろうが、付いて行く方が危険なのでは仕方がないとも言える。

 そんなわけで三人はエムロード号の大人達に見守られながらも助け合って生きてきた。

 そして彼らが幼児から少年少女になる頃、両親が帰ってきた。

 それからの3周期はハルナ達にとって思い出にのこる幸せな期間だった。そして弟が産まれ、何周期か毎に出て戻ってを繰り返し、およそ十周期前から戻ってこない。

 

 ハルナは弟の冒険談を聞いていた。

 親との家族の思いではほとんどないはずだ。船を出て、地上で就学中に戦争に巻き込まれた。そこでひどい体験をして心に傷を負って帰ってきた。最近やっと彼の中で折り合いが付いたのだろう、宇宙船で仕事をしだした。本人は嫌がっているつもりだが、冒険の旅の話をするときは楽しそうだ。

 

 アカリの口から何度か出てきた「ベアトリクス」。ハルナは知っていた、確かどこかの星のお姫様で、今は単なる冒険者だ。弟の遊び相手に丁度良いかと泳がせていたのだが、ことによってはOHANASHIしないといけないかもしれない。

 

「じゃあ姉さん、連絡はしてたけど、お昼はみんなで食べに出よう。エレナにも話してくるから、後でね」

「うん、エレナちゃんも喜ぶわ。またあとで」

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