第七話 真実④
「私のリーシアに何をする」
「うぐっ!?」
俺はリーシアに向かって振り上げられた、カナの腕を捻る。俺の愛しい婚約者を散々言葉で傷つけておきながら、実力行使に出るとは愚かだ。
「何よ!! 離しなさいよ! その女に私が公爵夫人になる計画を邪魔されたのよ!?」
「言いたいことは、それだけか?」
「……は……え?」
喚き散らすカナに対して、自分でも驚くぐらい低い声が出た。
「自らの手を汚さず、リーシアを貶めた。更には数々の暴言によりリーシアを気付けた。私の婚約者を……未来の国母を害した罪は重いぞ」
「ひっ……」
噓を吐いたナンスにも憤りを覚えるが、リーシアを貶める計画をしたのはカナである。俺はカナを冷たく見下ろす。俺が手を離すと、カナは床へと崩れ落ちた。
「嗚呼、ゲーゼン男爵令嬢。何故、初対面であり、この場で家名を名乗っていない君の名前を私が知っていると思う?」
「……は?」
ユアンにより、縄で縛られるカナに言葉をかける。俺の言葉の意味が分からないようだ。カナは呆然と俺を見上げた。
「隣国からの帰路の途中で、密輸をしている者たちを捕らえた。彼らの主はゲーゼン男爵という男だ。カナという娘が学院に居ると言っていた」
「……ま、まさか……」
カナは顔を青くさせた。俺が卒業パーティーに遅れた原因は、国外への輸出を制限している品々を密輸している者たちと遭遇したからだ。以前から密輸を行っている者たちを調査していたが、捕えることは出来ずにいた。それがまさか休憩に立ち寄った村で、取引現場を押さえることが出来るとは思わなかったのだ。その取引の主犯がカナの父である、ゲーゼン男爵である。
「それから、そのことにはオロン公爵も関与しているとも言っていたな」
「……ち、父上……」
ナンスは犯罪に父親が関わっていると知り、膝から崩れ落ちた。今迄密輸の主が発覚しなかったのは、オロン公爵が隠蔽していたからだ。オロン公爵は取引現場には居なかったが、代理人と書類一式の証拠品はある。今頃オロン公爵邸には、俺の部下たちが家宅捜索に入っていることだろう。
「両名とも、牢獄で家族との再会を果たすがいい」
「……あ、ああ……」
「うぅ……そんな……」
ユアンに引きずられるようにして、カナとナンスと協力者は大広間を後にした。