25話 企業Vドルと個人Vドル
希望イデアをどこかのVドル事務所へ所属、ないし提携させる。
要はマネジメント委託や機材の提供など、バックアップを受けると言うことだ。
現状は生みの親である僕がイデアのマネージャーみたいなことをしているけど、僕も本業は一介のイラストレーター。
当然、仕事の依頼だって現在進行であるし、これ以上の成長を望むのなら、いつしか現状に限界が訪れるのは必然だろう。
……正直、今回の正義イノリとのコラボはキツかったからね。
見込み不足と言えばそれまでだけど、本業の〆切と期末テストとコラボの準備にイデアのサポート……あんまり繰り返したくないスケジュールだった。
もちろん、そんなギリギリのスケジュールを繰り返すつもりはない。もう少し空那を頼れば現状のままでも大丈夫だろうけど、彼女にだって自分自身の生活がある以上は頼り切りになるのはよくないし、何かしらのバックアップがあった方がいいはずだ。
だからこそ、咲夏からの提案はとても魅力的であった。
咲夏――正義イノリが属する『ハコライブ』は業界最大手、世間でVドルと言えばここの名前が挙がるほどのネームバリューを誇るハコだ。
希望イデアを躍進させる上でのメリットは数えきれないほど考えられる。
しかし、大き過ぎるハコには、僕にとっては同時にデメリットとなる部分があった。
確かにハコライブは最大手だが、外部からの『編入』は稀だ。
基本的に新人は複数で同時にデビューさせることで他メンバーとコラボしやすくしている方針を取っていて、イデアのケースはどうしても絡みにくくなる。スカウトしてくれたイノリがフォローしてくれるだろうし可能性は低いけど、最悪の場合イデアが埋もれてしまうかもしれない。
……それに、ハコライブの人気に乗っかったから人気になっても、それでイデアが『最強の美少女』になれるかって言えば、そうじゃないだろうし。
ハッキリと言ってしまえば――企業の力が、強すぎる。
僕の野望は『最強の美少女を描く』こと。
Vドル『希望イデア』の活動はあくまでもそこに至るための手段であり、目的は彼女自身の力で人気を得るところにある。もちろんイデアが人気になるのはいいことだけど、それは他の人気にあやかって得るものではないのだ。
咲夏の提案を断ったのは、それが理由の一つ。
もう一つの理由は単純。
スカウトの先約があったのだ。