23話 配信の反省会はお説教
「ホンッット信じらんない! 意味分かんない! 生配信中にあんな都合よくずっこけるなんてフツーありえる!? あまつさえ後ろから抱きついて、アタシのお――ッ、む、胸を揉みしだくなんて! あり得ないわ! 何考えてんのよ!?」
「……申し訳ございませんでした」
いや、揉みしだいてはいなかったと思うのですが……
なんて言い訳を口にできるはずもなく、僕は床に平伏して謝罪する。
いくつかの配信事故があったものの、正義イノリと希望イデアのコラボ配信は無事に終了した……らしい。
らしいというのは僕が咲夏に蹴飛ばされて気を失っていたからで、目を覚ましてからはこの通り、怒髪天の咲夏を前にして誠心誠意の土下座していた。
「ま、まあまあ。落ち着こーよイノリ。別にムカイだってわざとイノリのおっぱいを揉んだ訳じゃないんだしさ、お互いにケガもしてないし、ここは水に流し――」
「トーゼンよ! わざとだったら今ここで絶交してたわ! それに、アンタもアンタよ希望イデア! ゴーサインを出したのは鈴鉢さんだったそうだけど、イタズラを考えたのはアンタなんでしょう? 誤魔化せたからよかったものの、もしもコイツが声を出してたらどーするつもりだったの!? アタシたち2人とも炎上して共倒れになる所だったのよ!?」
「――ごめんなさい」
僕の隣で同じく正座していた空那が頭を下げる。
ちなみに、そのゴーサインを出した鈴鉢さんは撤収の作業中だ。
本来なら僕らと一緒にあの人も説教されるべきだとは思うけど、どうやらそれは咲夏からではなくハコライブの社長さんから直々に説教されるのだとか。南無……
「まったく……達間の声がマイクに入ってなかったのが不幸中の幸いね。3Dお披露目の時の前科があったから鈴鉢さんの仕業って誤魔化すことができたし、今回はみんながただの悪戯だとスルーしてくれたからよかったけど……次はないわよ?」
「「はい、わかりました!」」
2人して土下座する僕らを見て咲夏は満足げに「よろしい」と僕らを立ち上がらせてから、話は終わったとばかりに両手を叩いた。
「それじゃ、アタシたちも撤収の手伝いをしましょ。打ち上げは……そうね。アキナ、確認するけどアンタも未成年よね?」
「え、うん。ムカイと同い年だよ」
「そう。なら遠慮するのをおすすめするわ。里原さんや他のスタッフさんたちは良識があるからいいんだけど……その、鈴鉢さんが……」
「ああー……うん。なんか想像できるよ」
大方、酒癖がとても悪いとかそんなところだろう。
「……スタッフさんだけじゃなく店にいたお客さん全員に絡み酒をしに行って酔い潰した挙句、気に入った店員さんに過剰なアプローチをして出禁になったことがあるの」
「想像以上にヤバい案件だった!?」
「というわけで、アタシたちは別で打ち上げしましょう。達間もいいわよね? 乙女の胸を3回も揉みしだいておいて、土下座一つで許されると――」
「分かった! 分かったよ! 僕が出せばいいんだろう!?」
キミの身体を弄んだ憶えは全くと言ってないけどね!
「よろしい。アタシとアキナの2人分で勘弁してあげる」
「……え、私もいいの?」
「いいのよ。どーせフツーの学生よりお金を持ってるんだから」
「人のこと言えないでしょ、ソレ」
咲夏――正義イノリは人気のVドルだ。
チャンネルの収益化はとっくにしているし、それ以外にもタイアップや提供案件などもこなしているはずだから普通の社会人よりもお金はあるはず。イデアの方もこの前ようやく収益化が通っ――あ、まだ実際に報酬は貰っていないんだった。
「それと、配信中に鈴鉢さんとナニしてたのかもこってり絞らなくちゃ」
「うん、そーだね。ムカイってば、ヒトが配信ガンバってる間に楽しんでたみたいだし」
「なッ……!? アレはただ鈴鉢さんの方からくっついて来て」
「でも、ムカイも離れようとしてなかったよね?」
「ぅぐぬ……ッ!」
致命的な指摘に言葉を詰まらせる僕に冷ややかジト目を向ける空那。
「……ふーん? ムカイってば昔っから年上のおねーさんが好みだったね。小さい頃もお姉ちゃんとべったりだったし。今もそーなの?」
「あれは姉さんがべったりだっただけ!」
「へぇ、年上好き。それは初耳だったわ」
「委員長も変な納得をしないで!」
「じゃあやっぱり胸かしら? 鈴鉢さんって身長低いけどかなり大きいものね」
「ふ~ん? イデアもおっきいし、ムカイってばおっぱい大きい子なら誰でもいいんだ」
「そんなことはないよ」
確かに僕は大きい方が好みだけど、それだけでイデアを巨乳になんかしない。
……いやホントだよ? 別に鈴鉢さんとくっついてたのだって別にスーツ越しに押し付けられた鈴鉢さんの柔らかな感触を楽しんでたとかぜんぜんこれっぽっちも……
「ま、ムカイがえっちなのは今さらとして……お店どうしよっか?」
「ここの近くで行ってみたかったお店があるわ」
「イデアのデザインには――って無視しないでよ!」
このままつらつらとイデアのデザインについて語って上げようとした僕を差し置き、2人は「そんなことより」とばかりに打ち上げのお店を選定し始めていた。僕の話が長くなると察知して話題を変えてきたな。だったら打ち上げの席でうんと語ってあげるさ!
小さく息を吐いてから、僕は会話を続ける空那と咲夏を見る。
……始めはどーなることかとおもったけど、なんとか丸く収まったかな?
配信前はどこかトゲトゲした雰囲気を醸し出していた2人だが、共演したことでわだかまりがなくなったのだろう。お互いにあった敵意のような視線はなくなり、完全に打ち解けている。……2人して僕をイジる方向では仲良くなってほしくなかったなぁ。
「それじゃ、ちゃっちゃと片付けして打ち上げに――」
「……その前に着替えないと。このまま外に出るのはダメよ」
咲夏に言われて「あッ」と思いだしたように空那が自分の身体を見下ろす。配信直後であるためその下はもちろんモーションキャプチャのスーツ姿だ。……僕も見慣れていたから気付かなかったけど、流石にそのままビルの外に出ていいような格好ではなかった。
「ああああぁぁッ!? ずっとこの格好だったから気付かなかったーッ!」
「……ねえ、達間。もしかして空那って」
頭を抱えて悲鳴を上げる空那を見て、咲夏が遠慮がちに僕の方を見てくる。打ち解けた手前、その続きを口にするのをためらっているのだろう。僕は嘆息と共に頷いた。
「あー、うん。たぶん想像の通りでいいんじゃないかな」
「何さ何さ! ショーカだって同じ格好のクセに!」
「アタシはもう慣れたし……まあ、どっかのスケベがジロジロ見てくるのはちょっとだけ恥ずかしいんだけど。……ひょっとしてサイズ目測してたりしない?」
「そーだそーだ! ムカイのヘンタイ! えっち! 特殊せーへき!」
「話のオチ代わりとばかりに2人して僕をなじってくるのやめてくれないかな!?」