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第18話 コラボ配信 VS正義イノリ ②

『対決企画はVドルコラボの華! 今回はこのゲームで対決するわ!』


 鈴鉢さんに振り向かされる形でステージの方を見れば、どうやら前置きが終わって本題に入ったらしい。イデアたちのいるステージの背面に大きなディスプレイが現れ、そこにゲームのタイトル画面が表示されていた。


 ゲームの名前は『ワン・ツー・アクション!!』


 様々なミニゲームが収録されたタイトルで、プレーヤーがコントローラーを振って決められたアクションをすることで勝敗を競うゲームだ。所謂パーティゲームの類で盛り上がりやすく、また3Dという側面を活かした画面映えもいい。流石のチョイスである。


『収録ミニゲームでの3本勝負! 先に2勝した方が勝ちよ!』


「負けそう」「ボロ負けしそう」「3Dお披露目の時にやったやつじゃん」「あの時コテンパンに負けたのに」「わからされそう」「勝負決まったわ。風呂入ってくる」


『だまらっしゃい! 時に希望イデア、このゲームの経験は?』

『ううん、はじめてだよ』


 ふるふると首を横に振るイデア。

 同時に、イデアから見えないであろう角度でイノリが小さく『よしっ』とガッツポーズをしていた。


「これは見事な初心者狩り」「俺でなきゃ見逃しちゃうね」「まあジャス子の実力なら初心者相手でどっこいくらいじゃね?」「接戦だろーな」「いやイデアの方にわずかでもゲームセンスがあればぼろ負けするだろ」「正義のヒロインが恥ずかしくないんですかー?」


『フフン! コメントが何と言おうと勝負は勝負! トーゼン、アタシは手加減なんかしないし――敗者には罰ゲームだって用意してるんだから!』


 それがこれよ、とイノリが自信満々に何かを取り出した。


 ゴーグルのような形をしたそれは、VRゲームで使う機器の3Dモデルだ。現実でも咲夏が同じモノを持っていて、どうやら配信のためにモデルを用意していたらしい。


『勝負に負けた方は、VRホラゲーの実況プレイをしてもらうわ!』

『へえ、VRホラー』

『って、反応が薄いわね! それじゃ罰ゲームにならないじゃない!』

『う~ん、そうかも。VRは触ったことないから楽しみかも』

『ぐぬぬ~~余裕ぶっちゃって! 今に見てなさい! 怖くて泣きだしちゃっても助けてなんかあげないんだからね! 醜態をさらさないよう今から注意しておくことね!』


「だいぶ勝ちを確信してて草」「これは完全に悪役ムーブ」「負けフラグ立ちましたわ」「悪を更生させるはずが悪役堕ちしてて草」「ダークヒーロー化しましたか」「てかイデアって配信でゲームしたことないけど実際どーなの?」


『ちょっと! 負けフラグとか言わないで! アタシだって今日のためにコツコツ練習してきたんだから!』

『ゲームはそこそこするよ? だからむざむざ負けるつもりはな~し♪』


 コメントに反応するイノリとイデア。

 それからどちらからともなくお互いを見た。


『その自信、いつまで持つのかしらね?』

『フフン、そっくりそのまま同じセリフで返したげる』


 2人の言葉にコメントが湧き上がり、戦いの火蓋が切って落とされた。


 場が温まったタイミングを見計らって、1P側を担当するイノリがゲームを操作してタイトル画面から2人対専用のゲームセレクト画面に入る。


『わ、思ったよりいっぱいあるんだ』

『経験者のハンデよ。何のゲームで勝負するかはアンタが決める権利をあげるわ』

『いいの? それじゃあ……』


 人差し指をあごに当てながら画面を凝視するイデア。

 イノリがころころとミニゲームを切り替えていると、イデアはあるミニゲームに目を止めた。


『あ、これやってみない?』

『……居合い?』

『うん! マンガとかでよく見るやつ!』


 チュートリアルでルールを確認しながらイデアが語る。

 ミニゲームのルールは単純、合図と共に刀に見立てたコントローラーで相手を斬る動作をして、より早く相手を斬った方が勝利となる。……思ったよりもずいぶんと渋いチョイスだ。イノリも最初は驚きの表情だったが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。


『まあ勝負に不足はないわ! かかってきなさい!』


 イノリの言葉と共にゲームスタート。ゲーム画面に現れたプレイヤーを模した人型のシルエットが居合の構えをとると共にイノリが、それから一瞬だけ遅れる形でイデアがマネするようにしてコントローラーを構えた。


 BGMが止まり、一瞬の静寂が漂う。


『ま、負けた……』

『わーい♪ 私の勝ちー!』


 結果、イデアに軍配が上がった。


 ぴょんぴょんと飛び跳ねるイデアの足元でがっくしと両手を床に着けるイノリ。ゲーム画面の方ではイノリ側のシルエットが「や、やられた……」と断末魔を残して倒れ、イデア側のシルエットが決めポーズでもするかのように刀を納めていた。


 ……よくもまあ、あれだけ自信満々に言えたものだよ。


 1本目こそ仕様を把握していなかったイデアを制したものの、続く2本目と3本目ではタイミングを掴んだイデアにいともたやすく蹴散らされていた。正直、初心者であるイデアと比べて目に見えて遅い。本当に練習してきたのか疑問に思ったくらいだ。


『ぐっ……1ゲーム先にとったくらいで何よ! いい気でいられるのも今のうちよ希望イデア! さあ、次は何のゲームで勝負するの!?』

『ん~、じゃあソレやってみない?』


 ミニゲームの決着はついたが、2人の勝負はあと二つゲームが残っている。

 すぐに立ちあがったイノリに言われ、再び画面を注視したイデアがあるゲームを指差した。


『は、早撃ち……』


 早撃ちとは言ってしまえば先ほどやった居合いの銃撃版である。

 コインが落ちる合図と共に拳銃、もといコントローラーを相手へ向けて、先に相手を撃ち抜いた方が勝利。かなり簡略化しているけど、西部劇でやる決闘をイメージすると分かりやすいだろう。


 配信の流れを気にせず本気で勝負を決めに行ったのかと思ったが、当の空那は目を輝かせながら食い入るようにゲーム画面を見つめている。隣で恨めしそうに彼女を睨んでいる咲夏に気付いた様子もない。完全に天然でゲームを楽しんでいる様子だった。


『じょ、じょ……上等よ! その綺麗な顔をブッ飛ばしてやるわ!』

『ふふーん、負けないよー?』


 再びお互いに向き合って構えをとるイノリとイデア。

 ……勝負は火を見るよりも明らかだった。


『ス、ストレート負け……?』

『やった! 完全勝利~ッ!』


 今度のイノリは1本もイデアから取ることも出来ず、3戦全勝でイデアの勝利――同時に、2本先取したことで3本勝負もイデアのストレート勝ちとなった。


「すげぇ」「早過ぎ」「俺でなくても見逃してるわ」「てか、マジでイデアの反射神経ヤバすぎね?」「ジャス子とじゃ勝負になってなかった」「ただの公開処刑」「イデアってもしかしてゲームかなり上手い?」「実はやったことあった?」


『ううん? ホントにこれはハジメテだったよ? パーティゲームだからって少し甘く見てたら意外とタイミングがシビアでコツ掴むのにもちょっと苦労したし』


『アタシはコツ掴むのに3日はかかったのに……』


 コメントに反応するイデアを信じられないモノを見る目で見つめるイノリ。愕然と立ち尽くしているが、僕にはコツを掴むのに3日もかけるキミの方が信じられないよ……


 とはいえ、まあ、正直に言ってこの結果は予想できていた。


 その理由は咲夏だ。

 イノリの魂である彼女は座学こそ全国模試で上位の成績を誇るのに比べて、こと運動、特に反射神経を要求されるものに関しては壊滅的もいいところで、学内で唯一体育の授業で補習を受けた稀有な存在なのである。


 もちろん、空那にそのような個人情報は伝えていない。

 だからこそか、彼女はここぞとばかりに勝ち誇ったような意地の悪い笑みを隣でうなだれた咲夏に向けていた。


『そ、れ、で~? 3本勝負の決着がついちゃったけど、どーしよっか? 罰ゲームに入るにはちょっと早過ぎだよね? まさか、ストレートで決着がついちゃうなんてね~?』


「草」「今度はイデアが悪役ムーブ決めてて草」「コテンパンに叩きのめした上でこの言動はSの素質がありますな」「ま、あれだけ自信満々なこと言ってたからな」「自業自得なのは分かるが、ジャス子大丈夫か?」「期待」「来るぞ」「さあ、どーなる?」


 イデアの挑発じみた言葉を聞いて視聴者たちのコメントが流れていく。


 何か、これからの展開を予想しているかのような反応だ。僕が把握していない最近の配信などで似たような展開があったのだろうか? 鈴鉢さんに訊けば分かるかな?


 僕が鈴鉢さんに声をかけようとするよりも先に、配信の方で動きがあった。


 イノリだ。ペタンとその場に座り込んだ彼女は、イデアの言葉に応えることもせずに顔を俯かせた。その表情はカメラが俯瞰視点のモノになったせいで見えなくなっている。


『……ぴ』

『ぴ?』


「あ」「ヤバイ」「まあそーなるわな」


 ……いったい何が来るの?

 僕が首をかしげたその瞬間――


『ぴえええええええええぇぇぇえぇえぇえぇえぇッッッ!!』


 珍妙極まりない奇声が、スタジオ内に響き渡った。

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