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第13話 勉強会はデートの前触れ?

 なんて、リュートの一言で決まった勉強会。


 いつものように僕の家へ集まっても良かったのだが、どうせなら気分を変えようと言うことで渋谷の図書館に集まることとなった。

 渋谷なのは空那の希望で、おそらく勉強会が終わった後は街へ遊びに繰り出そうだとか目論んでいるのだろう。


 ということで、いざ集合場所に向かってみれば――


「早く、来すぎた……」


 翌日の日曜日。もう夏真っ盛りとなった日差しが照りつける中で、僕は図書館の入り口近くにあるベンチに腰を下ろしてひとりごちてる。


 スマホで時間を見れば、待ち合わせ時間の20分前。

 ……こんなことなら、わざわざ早寝なんかするんじゃなかった……


 遅刻するのも悪いと思って昨日はいつもより早く寝たけど、早寝すればその分だけ早く起きてしまうのは自明の理である。今は急ぎの仕事がないので余裕のある時間に出発したのだけど、まさか図書館の開館前だったとは考えていなかった。


「ム~カ~イ~おまたせ~!」


 近くのコンビニで時間を潰そうかと考えていると、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 空那である。彼女はブンブンと手を振りながら僕の元へ駆け寄ってきた。


「おはよ~早いね、ムカイ」

「おはよ。うん、ちょっと早く起きちゃったから」


 僕は応えながら、それとなくやってきた空那を見る。


 休日というだけあって今日の空那は私服姿だ。

 へそ出しキャミソールにデニムスカートを合わせ、上に薄手のカーディガンを羽織っている。肩にかけたトートバックは勉強道具が入ってるんだろうけど、メイクもバッチリだし……勉強会に気合入れ過ぎじゃない?


 まるでデートでもするかのような格好である。

 いや僕は女の子とデートした経験がないからこれが普通なのかもしれない。服についてはやっぱりリュートが――って。


「あれ、リュートは?」

「え、あ~兄さん? メッセ入ってないっけ?」

「ん? ……あ、ホントだ」


 言われてスマホを見ると、ちょうどメッセの通知が来ていた。


『悪ぃ、ファンの子に逆ナンされたわ。オメーら二人で遊んで来い』


 遊んで来いって……僕たち勉強しに来たんだからね?

 思わず文面にそう突っ込みそうになる。続く文面に『なんなら領収証切れば予算は出してやるぜ』とか書いてるけど、キミの名前で領収証なんか切れるわけないじゃないか!


「あ、アハハ……どうしよっか?」

「どうもこうも、今日の目的は勉強会だよ。リュートが来れなくなったからってサボって遊ぶなんてできないよ」

「わ、マジメだー」

「真面目だよ。補習を受けるわけにはいかないしね」


 なんて話しているとちょうど図書館の開館時間になったので、僕らはそのまま図書館の中へと入った。比較的新しい建物である館内は冷房が利いていて涼しい。僕らはなんとか2人分の座席を確保して、それぞれ持ってきた教科書などを取り出す。


「そう言えば、空那の方のテスト範囲はどの辺?」

「えっ……え~っと……」

「……なんでそこで黙り込むのさ」


 リュートの伝手でテスト範囲を聞いた僕も人の事は言えないけどさ。

 さては空那もあまり勉強はしないタイプだな? 彼女が返答に窮して視線を泳がせていると、やがて名案を思い付いたように手を叩いた。


「そうだ! ちょっと友達に聞いてみる!」


 ということはホントに知らなかったんだ……

 僕が内心でそんなことを思っていると、空那はすぐさまスマホを取り出してその友達へとメッセを飛ばした。どうやらその友達はレスポンスが早いようで、すぐに返ってきたらしい文面に目を通してから空那が再び僕の方へ視線を向けた。


「ふむふむ……うん。ムカイのトコとだいたい同じくらいだって」

「……僕のところと?」

「ほら、兄さんが私たちのグループに貼ってるのと同じだった」

「ああ、そっか」


 なんで僕の試験範囲を知ってるのかと思ったけど、そう言えばリュートが間違えて僕らの連絡用グループに貼ってたんだっけ。まあ僕らの学校はお互いに学業に秀でた進学校というわけでもないので、進みの前後こそあれど大した差は出ないのだろう。


「そうと決まれば、さっさと始めちゃおっか」

「おーッ!」

「図書館内では静かにね」

「……ごめんなさい」


 なんとも締まらない始まりで、僕らの勉強会はスタートした。

 図書館内はとても静かだ。外の喧騒から隔絶されたかのような空間は集中しやすく、加えていつもと違う場所での勉強はいい気分転換になって思った以上にはかどった。


 ……とはいえ、残念ながら空那の方はそうではなかったようだ。


 いや、たしかに勉強自体はそれなりにはかどっていたはずだ。僕の隣で真剣な顔で教科書とにらめっこしていたし。問題なのは勉強そのものではなく――彼女の学力だった。


 例えば現代文。


「ムカイ大変! 現代文の教科書に古文が載ってる!」

「え? ……って、それただの評論じゃん」

「……あ、ホントだ。難しい漢字が多すぎて勝手に昔のものだと思ってたよ~」

「せめて昔の文学作品と勘違いしてほしかったよ……」


 さらには数学。


「んん? なんか式に変な文字があるんだけど」

「いや、数学なんだからxとかyとか中学からあったじゃん」

「元気の元の上部分にある横棒が外れたやつ」

「π(パイ)だよ……」

「おっぱい?」

「中学生の答え……」


 挙句の果てに、世界史。


「うう……昔の人の名前が似たようなの多すぎて憶えられないよぉ~!」

「確かに。アリストテレスとかテオプラストスとか間違えそうだよね」

「ううん。アメンホテプとニャルラトホテプ」

「……それは間違いようがないんじゃないかな?」


 なんて具合に、空那の学力は正直言って目も当てられないレベルだった。


 ……そういえば、受験の時はほとんど詰め込み状態だったっけ。


 ホント、兄のリュートとはえらい違いである。いや、空那自身も要領はいい方のはずなので、おそらく授業をマジメに受けていなかったのだろう。ギャルだし――ってのは流石に偏見だけど、そう言わざるを得ないほどの惨状であった。


 という訳で、仕方なく僕が解説役に回ることになり……まあ僕も得意という訳ではないので解説に四苦八苦しながら教えることおよそ2時間。


「ぷしゅ~……も、も~げんかい~」

「……ん。もうお昼前か」


 解説に一区切りがついたあたりで空那が机に突っ伏した。

 スマホで時刻を確認すると、ちょうど12時を過ぎたあたり。僕自身の勉強というよりは空那の勉強を見ていたという形だったけど、試験範囲は同じだから僕の方もいい復習になった……半分くらいは試験範囲以前の解説だったけど。


 大きく背伸びをすると、隣で力尽きていた空那が死人のような顔でこちらを見てきた。


「ご、後生だよムカイ。お願いだから今日はもう……」

「そうだね。ここらで今日の所は終わりにしよう」

「ホントッ!?」


 ガバッと身体を起こす空那。力尽きていたとは思えないほどの蘇りようだ。


「うん。お昼食べに行ってたらきっとこの席も埋まっちゃうだろうしね。その調子なら午後も続けてってのはキツイでしょ? 後は各自で頑張るってことで」

「やったぁーッ!」


 小声で喜びながら即座に片付けを始める空那。切り替えが早い子だ。

 シュバババッ、と彼女は風を切るような早さで自分の勉強道具を鞄に仕舞ってから席を立つ。


「じゃあ午後から遊びに行こう! デート! ムカイのおごりで!」

「おごりって……仕方ないなぁ。せっかくだから付き合うよ」

「わ、いいの?」

「もちろん。収益化のお祝いも兼ねてね」

「やりい! ……あ、でもその前におトイレ行っていい?」

「分かった。それじゃあ僕は外で待ってるね」


 恥ずかしげもなく言う空那にも慣れたものである。颯爽とトイレへ向かった空那を見送り、僕も自分の荷物をまとめて一足先に図書館の外へと出た。


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