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第1話 『最強』を夢見て

 バーチャルアイドル。

 通称「Vドル」


 近年で急速に発展したVR技術によって登場した、3Dモデルなどの『バーチャルなアバター』を用いて動画投稿やライブ配信などを行う、所謂ネットアイドルの一種だ。


 登場から早数年、瞬く間にして頭角を現し、現在では個人でも必要な機材やソフトの入手が容易になったことから爆発的にその数を増やしている。


 それはまるで夜空に輝く星々のように煌めくのもあれば、

 ……人知れず消えてしまうことも数知れず。


 満天の星空でもって、その頭角を示す輝きを放てるモノはほんのごくわずか。


 もちろん、誰もが星々の頂点で輝こうと思う訳ではない。しかし、それでもなお、より高みへと手を伸ばさずにはいられない。それがVドルという『夢の舞台』だ。



 この僕――達間たつま夢海むかいも、それを志した一人だ。


「………………」


 自室の机に座り、じっと眼前のディスプレイを睨む。


 いつもの仕事にも使っている、デスクトップ型のPC。低い駆動音を唸らせる本体に繋がれたディスプレイには、一人のVドルの動画が流れていた。


 Vドルは美少女である。


 しゃらりと艶やかな藍色の髪がたなびき、一筋だけ入れた黄色のメッシュが煌めく。

 星をイメージした明るい色合いの衣装はどこか気品を感じさせ、動画というステージの上に立つ姿はまるで暗闇の夜を明るく照らす希望の星々のよう。


 モデルの完成度を語るなら、おそらくVドルの中でもトップクラスだろう。


 それくらいのモノを詰め込んだし、文字通り僕の『理想』を体現したと自負できる。


 非の打ちようなどない、これこそが完璧な美少女。


「……ダメだ」


 だけど、それは――中身がともなっていればの話だ。


「動きはいいけど、やっぱりぎこちないアクションも目立ってる。セリフ回しは雑だし棒読みがひどい。声質はバ美肉だからしょうがないとしても……」


 何よりもまず、『彼女』に成りきれていない。


 そう。

 それこそが、画面の向こうにいる『彼女』に、決定的に足りていないモノ。


『彼女』というモデルは完璧。なにせこれは僕の野望だ。少なくとも、これにかけた時間も予算も情熱も、企業が全力で作り上げたモノにだって負けない自信がある。


 問題点を挙げるとしたら……

 ()()()()


「ダメだ。こんなのじゃ、こんなのじゃ……最強じゃない」


 ぎこちない動き。カタコトなセリフ回し。


 演技の経験がないからとかではなく、絶望的なまでにセンスが不足している。

 正直、モデルが完成した勢いのままにSNSに告知なんて出すんじゃなかったと本気で後悔するほどに。


 もう一度、僕は改めて画面に映る『彼女』を見る。

 心血を注いだ3Dモデルと、最初に描いたイメージビジュアルのイラスト。


 人差し指を天に掲げた、夜空に輝くきら星のような『彼女』のイラスト。

 淑やかで凛としたその顔に浮かぶ希望に満ちあふれた笑みは、生みの親である僕の不安などたちまち吹き飛ばしてしまいそうなほどの輝きを放っている。


 彼女の名は、希望のぞみイデア。


『皆の夢を明るく照らす、希望の一番星』をイメージして描いた――僕だけの力では、その魅力を十全に引き出すことはできなかった、美少女である。


 ……僕じゃ、『彼女』に成り切ることが、できない。


 けれど、まだ諦めるつもりはない。


 なにぜモデルはすでにこうして完成している。


 機材だって一通り、個人で手が出せる限界のものを買い揃えた。


 家の使っていない部屋を利用して設備も整えた。


 僕が『彼女』の魂に成れなかったとしても、まだいくらでもやりようはある。


 これは僕の夢であり、この道を歩むことを決めた時に定めた、僕の野望。

 そのために僕は両親や姉さんとは違う道を、イラストレーター『太刀ムカイ』としての道を選んだのだ。


 こんなことで、諦めるわけにはいかない。


 全ては、僕が思い描く『最強の美少女』を描くために。

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