5 武具の完成です!
ゼンレスゾーンを始めた。エレンが欲しい!
城での勉強&訓練を初めて約一週間、まさも優衣も順調に力を付けていた。
「ふっ!」
「はっ!」
「まだまだ!」
「甘い!」
キィン、キィン、ガキィィィイ
まさとローレンスの剣同士のぶつかる金属音が訓練所に響く。
ローレンスの横薙ぎをバックステップで躱し、後隙をまさの突きが鋭く入る。
しかし、ローレンスは読んでいたように軽やかな身のこなしで躱すと、そのまままさの後ろに回り込み首もとに剣を添える。
「ま、参った……」
「ふー……うし! だいぶ動きが良くなったなマサ! これなら装備が出来次第出発でも問題ねぇよ」
「はあ、はあ、それは良かった……ローレンスの特訓のお陰だよ」
まさの方は問題が無いらしく、互いの問題点を指摘し合いながら休憩している。
そして、視線を優衣達の方に向ける。
「ゆっくりと、呼吸を整えて下さい」
「すー、はー、すー、はー」
「では、集中して……どうぞ」
「凍てつく氷の槍〈アイスランス〉!」
優衣が何かを呟くと、氷の槍が形成されて一気に的に襲い掛かる。
それを見てベルーラさんは、感心したように頷く。
「魔力の練り、魔法の形成、威力申し分有りませんね……では次は少し難度をあげましょうか」
「はい!」
「では、ユイさん……心を落ち着けて集中して……深呼吸」
「すー、はー、すー、はー」
「さあ、自信を持って」
「凍える氷結の波〈アイスウェーブ〉!」
再び優衣が呟くと、冷気の波が的を飲み込み……瞬く間に的を凍らせてしまう。
その出来にベルーラさんは、拍手をして優衣を誉める。
「素晴らしい腕前です! ユイさん、しっかりと皆様を支えて差し上げて下さい。一番苦手だった水系統の中でも難しい氷結魔法を克服したのです自信を持って下さい」
「はい! 全部ベルーラさんの教えが良かったからですありがとうございます!」
「ふふ、貴女が努力したからこそです……自慢の生徒です」
優衣の方も順調の様だ……一方の俺はと言うと、クマ吉の観察をしている所だった。
織姫から必要な量の糸を受け取ったからと返却されて来た、因みにご褒美の蜂蜜を抱えてご満悦で返ってきた……可愛い奴め。
「クマ吉、この岩を動かせるか?」
「きっしゅー」
「両手の平ぐらいの大きさなのに、力持ちですねー」
糸で絡めた人程の大岩を引っ張って居る。
ズズズズン……ズドン!
それどころかそのまま持ち上げて振り下ろした……え? 強くね? もう手放せないかも……
レティア様も流石に頬が引き吊っているよ?
「きしゅ! きしゅ!」
「おお!! 凄いぞクマ吉! お前が居れば百人力だ!」
「きしゅ~♪︎」
俺が余りの凄さに掲げて誉めると、クマ吉は余程嬉しいのか踊ってる。
クマ吉のダンスを見ていると、訓練所に突然織姫がやって来た。
織姫は目に隈を作って眠そうな顔で、クマ吉にダイブする。
「あ゛~、クマ吉で寝そう~~」
「しゅ~……」
「おーい、クマ吉が気を遣って枕になりかけてるから……何か用があったんじゃないのか?」
「ん~、もうちょっと」
「はあ、クマ吉ごめんな?」
「しゅい!」
織姫が来て暫く、満足したのか織姫はクマ吉から身体を起こすと「んー」と伸びをした。
その動作を終わるのを待ってから俺達は織姫に話を聞くことにした。
「しゅ~Zzz……」
「はぁ~、クマ吉良いわ……くれない?」
「やらん! で、訓練所に来た理由は?」
「あっと、そうだった……出来たよ皆の旅用の服が……」
それは俺達にとっては待ちに待った言葉だった。
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織姫から服完成の報告を受けて、織姫の工房になっている部屋へと向かう。
工房に入ると、ゴーザさんとアンナさんが既に工房の中で待機していた。
「ぬ? おお、来たか! 待ちくたびれたぞ!」
「お酒を飲んで伸びていた方の言葉とは思えませんね?」
「ぬおぉぉ……アンナ殿が今日も冷たいぞ」
ゴーザさんが此方に気付き、声を掛けて来たがアンナさんから思わぬ攻撃に悶絶している。
お酒飲んで怒られてるのはドワーフっぽいな……そう言えば……
「クライスさんは居ないんですか?」
「ん? クライスか? あいつはあれでも騎士団の総隊長だからな……忙しいのさ」
「「「「え?」」」」
「ん? 言って無かったか?」
「いや、クライスさんの紹介の時に“1部隊任されてる”って」
「む? 王国騎士団で1部隊だろ?」
「ゴーザ、普通はそうは思いませんよ」
まさかの事実が判明した所で、今回の本命は完成した服と武器だ。
ゴーザさんと話してる間も、織姫は色々と服らしき物を引っ張りだして居る。
それを見かねたレティア様とアンナさんが手伝い始めた。
因みにベルーラさんは別の仕事をするために、この場には居ない。
また、クマ吉は疲れて寝てしまったので、俺の部屋のクマ吉用ベッドで寝ている。
「ふう、レティアさん、アンナさん手伝いありがと……ほら、先ずはまさからね」
「お、サンキュ……早速着てみるわ」
まさは受け取った服を持って別室へと移動する。
そして待つこと数分後、着替え終わったまさが戻ってきた。
見た目は青をメインに使った軍服の様な格好でかなり動き易そうな姿だ。
しかし、一番目を引くのは……
「な、なあ……このマント居るか?」
「居るわよ……って言っても本当に邪魔だったら簡単に外せるから」
「まあ、なら良いけど」
まさはマントが気になるらしくチラチラ背中を気にしている。
そんなまさをほっといて織姫は服の説明を始める。
「まさの服は鎧何かも着ることを考えてかなり軽めに仕上げて有るの……でも、それだけじゃ無くて耐性も高性能にしてあるわ」
「へー、凄いな……でも相当金を使ったんじゃ……」
「ふふん、聞いて驚きなさい! 服の糸は全てクマ吉の糸なのよ!」
織姫の言葉に俺達三人は首を傾げる。
その様子に、織姫は「いい?」と指を立てて説明を始める。
「クマ吉こと、ベアスパイダー稀少種のホワイトラインの糸は純度の高い魔力糸なの……魔力糸は属性を織り込みながら編む事で特殊な糸が出来るの」
「例えば?」
「光属性の〈癒しの光〉を織り込めばなんと! 自動修復機能が付くわ」
「え? マジでか、試していいか?」
「どうぞ」
まさはアンナさんからナイフを受け取ると、袖を思いっきり引き裂く。
すると、引き裂かれた部分が徐々に繋がっていく。
「すげぇ……」
「まさの服は魔力を込めると強度上がる鉄魔法と軽くする風魔法を重点的に織り込んでるわ……次は優衣ね」
「えへへ、ありがとう」
「ふふ、凄く似合うと思うから早く着てきて」
「うん」
次は優衣が服を受け取って、別室へと移動する。
まさより少し掛かったが、着替え終わった優衣が入って来た。
そして、俺は思わず息を飲んだ……白を基調にした美しい法衣の姿はまさに聖女に相応しかった。
「えっと、ま、真人くん……どう、かな?」
「え!? あ、えっと、す、すげぇ綺麗……だと思う」
「そ、そっか……エヘヘ♪︎」
「良い空気な所悪いけど説明するわよ!」
「「ふわ!?」」
優衣に感想を求められて、互いに恥ずかしい思いをしてると織姫が割って入って来た……色々と心臓に悪い
織姫は得意げ胸を張ると、見立て通りと頷いて居る。
「ふふ、やっぱり優衣には白が似合うわ……優衣の服には自動修復機能は勿論、魔法の強化をしてくれる光魔法を織り込んで有るからきっと皆の助けになると思うわ頑張ってね」
「うん、ありがとう! 織姫ちゃん!」
「ん、どういたしまして……さて、最後はあんたよ真人くん」
「おお、じゃあ早速着てくる」
そして、最後は俺の服だ、渡された服を持って別室へと移動する。
渡された服を見てみると、何か色々と黒い……取り敢えず待たせる訳にも行かない為、そそくさと着替える。
着替えた上で言う、黒い……とにかく黒い、マジでこれで行くのか?
そうは思ったがせっかく作ってくれたものだ、覚悟を決めると俺はもと居た部屋への扉を開けた。
「おー」
「な、なんと言うか……これは……」
「うわぁ、凄いかっこいいよ真人くん!」
「あ、うん、ありがとうな優衣」
俺の服は何と言うか、誰か暗殺でもするの? って格好だが決して暗い印象は無かった。
俺の反応を見て、織姫は溜め息を付いている。
「真人君の服が一番大変だったのよ? もしもの時に魔法の威力を軽減する闇魔法を織り込んで、耐久も上げて、尚且つ色々耐性も叩き込んだ結果……黒くなったわ」
「おお……成る程、た、大切にするよ」
「うん……あんたが一番危険何だから、その服を来た上で更に用心しなさいよ……」
「ああ、ありがとうな織姫!」
こうして俺達の服は完成した。
しかし、まだ終わりじゃない……服の受け渡しが終わった所でゴーザさんが話し掛けてくる。
「はっはっはっ! 思いの籠った良い装備じゃねぇか! それらには劣るが俺の打った武器の調整も終わってるぞ! 確かめてくれ!」
ゴーザさんに言われて、俺達は各々の武器を持って確かめる。
俺も短剣を握って、2、3回と振ってみる。
ヒュンヒュンッ
おお! 不思議としっくりと来る……まさ達も大丈夫な様で感心したように頷いて居る。
「凄いですゴーザさん、まるで最初から自分の為にあるかの様にしっくり来ます!」
「はっはっはっ! そうかそうか! 鍛冶工房に篭ってた介があったぜ!」
俺達がゴーザさんにお礼を言っていると、工房の扉が開く音が聞こえた。
扉から入って来たのはエリオット王とレティアに良く似ている女性、王妃であるセレシア王妃だった。
更にその後ろから、エリオット王に良く似た青年が工房へと入って来た。
「マサヨシ殿、装備の完成の知らせを受けたのでな様子を見に来た……それに妻と息子が改めて話をしたいと言ってな……」
「召喚の儀以来ですね……知っては居るでしょうけど名乗らせて貰います。セレシア・ワームルスです……この度はこの国の我が儘を聞いて下さり有り難うございます……」
「僕はライオット・ワームルス……不束な妹だがよろしく頼むよ」
セレシア王妃は丁寧に頭を下げて、ライオット王子は気さくにまさの肩を叩いて居る。
二人とも人が良さそうに見える。
ライオット王子の言葉にレティア様は「余計なお世話です!」と怒っている。
すると、どういう訳か俺はセレシア王妃と目が合った。
「貴方がマヒト様ですか?」
「ええ、あの様はやめて下さい……俺はしがないムシテイマーなので……」
「……ごめんなさい、貴方だけ見放す様な事になってしまって……」
「いやいや、陛下の言い分は分かりますから……気にしないで下さい」
「そう言う訳には!」
「セレシア……マヒト殿の心遣いを無下にするでない……しかし、マヒト殿……たまには無事な姿を見せるようにな? 我等にではなく、ご友人達にな……」
「はい……其方も何か有ったら呼んで下さい。役に立つかは分かりませんけど」
セレシア王妃が余りに心配するから、エリオット王が直々声を掛けて来た。
王自身も心配してくれて居るようで、優しい言葉を掛けてくれる……悪い人達で無いのは分かっているし、出来限りの事はするつもりだ。
「明日になったら出発式をする、マヒト殿も参加するようにな……では、達者でな」
エリオット王はそう言うと、手を差し伸べて来る。
俺はその手をしっかりと握り返す……硬く年季の入った武人の手だと思った。
一方で、まさ達はライオット王子と話をしている様だった。
「レティア、マサヨシ殿達に迷惑を掛けない様にね」
「お兄様は心配しすぎですわ!」
「安心てくれよ殿下? レティアはそこらの魔物よりも魔物らしいからな!」
「確かに……一体何処からあの馬鹿力が出てくるんだ?」
「ローレンス、マサヨシさん……この後空いてますか……久々に本気になりましてよ……」
「「空いてないです!!」」
「はっはっはっ、心配無さそうだねレティア……お勤め立派に果たして来るようにね」
まさ達を追いかけ回していた、レティア様はライオット王子の言葉に居ずまいを正すとしっかりと頷く。
「はい! 必ず……」
「マサヨシ殿、ローレンス……くれぐれもレティアを頼むよ」
「「はい!」」
「ユイ殿も気を付けて」
「はい! ありがとうございます!」
ライオット王子は各々に声を掛けると、エリオット王達と共に工房を後にする。
そして、明日はいよいよ旅立ちの時だ。
次回、閑話 とある少女の心境。