閑話 きっとその想いは成長途中
マザー視点です……
ふとした思い付きでは有りました。
愛娘達と親友、新しい同士は人の姿になって日が浅い、身体の使い方を教える必要が有ります。
「貴方達は人の姿になって日が浅い……虫の姿とは勝手が違います」
愛用のレイピアを取り出して、準備をする。
ユキと名付けられた実の娘が、言葉を返すのに私は首を横に振る。
その形だけの言葉の後には、あの気の抜けた声を鳴りを潜め。
真っ直ぐな瞳が私はを見抜く。
「御母様……私からお願いできますか?」
「貴女は勤勉で努力家……そして、誰よりも大人ですものね」
「……いつかに今を奪われたく無いですもの」
凛とした声と真っ直ぐな瞳、手に持った鋏を二つに別つと果敢に斬りかかってくる。
その一閃をレイピアの刀身で流し、ユキの足を払う。
人の姿に慣れないユキは避けきれず尻もちを着く。
その首もとにレイピアの刃を突きつける。
「立ちなさいユキ、ひたすらに続けるのみです。人の姿になれるにはそれしか有りませんから」
「はい、御母様!」
その後、ユキが倒れるまで稽古は続けました。
次に呼んだのは末の義娘血は繋がらなくても大事な娘の一人です。
ですが、この子には儚い危うさが有ります。
この子の家族は人に奪われた……その仇を前にした時この子がどうなるのかがとても心配です。
そして、彼女の目には変わらず、家族達の仇がくすぶっています。
「貴女はなんの為に、その鎌を振るうのです?」
「……無論、取り戻す為ですわ! 両親の、仲間達の鎌を、魂を……」
「ではその目的が果たされた時……貴女はどうするのですか?」
もう一つの懸念はそれです、復讐を終えたならば彼女はどうするのか……
しかし、ヨミは私の質問に力強く答えます。
「わたくしの鎌は家族のために振るう物ですわ……亡くなった家族を弔ったのなら今共に有る家族を守る……御兄様も御姉様達も御母様も次いでにシノブもこれから増える家族達も……わたくしが守って見せますわ!」
想像以上に……娘達はマヒトくんと出会って成長している。
少し前ならば、ユキは個々まで本当の自分を出さなかったでしょう。
かつてのヨミならば、私の質問に口をつむんで居たでしょう。
私は息を切らして倒れたヨミを介抱するユキを見ながら娘達の成長を感じました。
次のお方は初めましてです。
仕事上は何度か意思の疎通をしていたが、実際に会うのは初めてです。
表情からは何も読み取れません……何を考えているかいまいち掴めませんね。
ですが、彼には違う方面でも期待しています。
「シノブさん、初めまして……マザーと申します」
「シノブ……よろしく頼む」
簡単な自己紹介を交わし、早速シノブさんは攻勢を仕掛けてきます。
姿を消して、奇襲を仕掛けるつもりでしょうが……空間の乱れと私の張り巡らせている糸で動きは丸分かりです。
「貴方は何の為に、マヒトくんと共に行くのですか?」
「……いつか、一人の少女と笑い合うためだ……」
彼の不可視の奇襲を受け流しながら、私は一つの疑問を投げ掛けました。
すると、シノブさんは無表情の顔を若干綻ばせながらそう言います。
その様子に分かった事が有ります。
「その少女はとても大切な人なのですね?」
「ああ、命を掛けれる程には……」
だが、だからこそ分からないのです。
どうして、大切な少女から自ら離れたのか……
「だが、それだけじゃない……知りたいと思った……虫を仲間として共に歩む主の事を……」
しかし、その疑問は彼の言葉で晴れることになりました。
そうですか、きっとシノブさんはマヒトくんに羨望と憧れを抱いて居る。
そして、いつかその人の少女と穏やかに暮らす事を望んで居るのでしょう。
「ならば精進なさいな、負けることも、死ぬ事もマヒトくんは容認しないでしょうから」
シノブさんもまた、強さを持っています。
ユキもヨミもシノブさんも成長途中の思いを抱えて強くなろうとして居る。
だからこそ、最後にいつまでも目を背け続ける彼女に私は言わなければならないのです。
最後に残ったライが此方に向かって来ます。
ライとの打ち合いは周りに被害が出ますから忘れずに結界を張らないといけません。
「そう言えば……君とこうして手合せするのは随分と久しぶりだねぇ」
「そうですね……あれから暫く、貴女は腐って居ましたもの」
……もう、敬語はいらないわね。
私の言葉に、ライは表情を暗くしている。
分かっている癖に知らない振りをする……そして、きっと彼女は言い訳をする。
「確かにマヒトくんに合うまでは怠惰に過ごして居たかもね」
「……貴女はどうするつもりなの?」
やっぱり……でも逃がしてあげない、このままじゃいけないのは自分がよく知ってるくせに……
だから、私はライに問いかける。
「……どうするつもりだって? 私はただマヒトくんの為に……」
「過去から目を反らして、新しい主の為に心機一転と?」
「何が言いたいのかな?」
いまだに目を背け続ける彼女に皮肉げに言って見せる。
ライから苛ただしそうな声が聞こえる。
そして、まるで自分に言い聞かせるように呟く。
「マヒトくんは彼とは違う……だから私はかつての“ライ”とは違う……」
「……! 貴女が“貴女”を否定してはダメよ……やはり何も分かってないのね」
ライの言葉が気に入らなかった、自分を否定して、過去を否定して……
そして、あの人を否定する彼女に私は思わず声が出てしまった。
すると、武器を取り出す音と電気のチリチリと言う独特な音が聞こえる。
咄嗟にレイピアを振るい、防御体制を取る。
ガチィィィ
身体に電気を纏ったライが高速で短剣を振り下ろして来た見たいね
「何を知っている気でいるのさ? 私だって、悩んで、苦しんで、辛くて……寂しかった」
「だからと言って、過去を封じていては本当の意味で前に進む事は出来ないわ」
電気を纏うライの高速攻撃を、私は自身の糸を使って探知して攻撃を防いでいる。
かつてのライならば私の糸に気付かない筈が無い……やはり今のままではいけないわ。
「うるさい! そう言う細かい所は本当に変わらないね!」
「そう言う貴女もガサツな所は変わっていないわ」
ここから先は本当に子供の喧嘩の様なものだった。
ライの力任せの攻撃を流し、私の反撃は当たらない。
「ふふん、そんな遅い攻撃は当たらないよ!」
「そう言う貴女こそ、早いだけじゃないかしら?」
「むー!」
そんなやり取りももうすぐおしまい、そろそろライはガス欠する筈だもの。
そう思った時には、ライのスピードが下がり最後には完全に停まってしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ……な、なんで?」
彼女の疑問には答えない、足元に張り巡らせた蜘蛛の糸が確実にライのスタミナを削り続けて居た……ただそれだけ。
でも、ただそれだけのことにライは気付かなかった……かつての彼女なら有り得ないこと。
「確かに、過去に蓋をして目を反らして居れば心安らかに居られるでしょう……でも、かつての彼とマヒトくんでは違うことあるでしょ?」
私の言葉に、ライは考えて居るようね。
私はそんなライに現実を教える。
「……マヒトくんは彼よりずっと弱いのよ……そして、それを守れるのは貴女達しか居ないのよ」
「……!? それは……」
「“ライ”、大丈夫よ……マヒトくんは過去の貴女を拒絶しないわ……絶対にね」
あえて彼女の名前を強調する、私の意図に気付いたライは少し微笑む。
「はぁ、やられちゃったね……蜘蛛の糸だなんて……本当に狡いことするよ」
「昔の貴女なら何とでも出来たわ」
「本当だよ……全くね」
ライは立ち上がると此方を見る。
さっきまでの後ろめたい表情では無く、真っ直ぐ私と視線を合わせる。
「マザー、今はまだムリ……でもきっと……話すよ、私の事も彼の事も……」
「……そう、たまには顔を見せに行きなさい……最近、行って無いでしょ」
「……そうだね、今回の仕事が終ったら行くよ……皆を連れてね」
心の整理が必要でしょう、すぐになんて急かす真似はしないわ。
でも少しだけお節介を焼いて上げる。
「マザー……ありがとう」
これでもう大丈夫ね、良い顔になった……あの時からずっと私は“親友”の幸せを願い続けているんだもの。
いつか貴女達が本当の幸せを手に出来ると信じているから……
次回今度こそローレンス家族登場!




