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ムシテイマー~役目も無いので虫達と自由に暮らす事にしました~  作者: SUZUKING
第一章 想いは遥か遠くより君に……

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28 淑女からの提案

 明けましておめでとうございます……今年もよろしくお願いします。

 暫く時間が経ち、俺とドリトンさん、エリック領主が冷静になった所で話しを再開する。

 ドリトンさんとエリック領主は難しい顔をしている。


「魔人族にマヒトが狙われてる……かぁ」

「ドリトン、問題はそれだけじゃない……他の王達の動向も気に掛ける必要が有る」

「申し訳有りませんが……円卓の管理者として私は何も言えません」


 マザーはそう言うと、にっこりと微笑み「しかし」と続ける。


「しかし、淑女として提案は出来ますわ」

「えっと、マザーさん? 提案って? 一体?」


 俺の困惑を無視して、マザーは話を続ける。


「まず、我々の王であらせられるマヒト様は……」

「さっきまで呼び方マヒトくんだったよね? 何で急に畏まったの?」

「……王で有ることを目的にしておりません……元の世界に帰ることが最重要事項で……」

「……え? 合ってるけど言ってないよね? マザーってエスパー?」

「少なくとも、建国等の大きな野望は無いと認識して頂いた上での提案ですわ」


 この人ことごとくツッコミを無視するんですけどー! 華麗すぎるスルースキル。


「マヒトくん、諦めた方が良いよ? マザーはああなったら止まらないし」

「お母様はぁ、とぉっても楽しそうねぇ」

「力及ばず……」

「御兄様、大丈夫ですの?」

「シュシュウ~」


 うぅ、俺の癒しはくま吉とヨミだけだ……とにかく二人にはナデナデ贈呈です。

 しかし、マザーが考え無しで言ってる訳でもないだろう……とにかくマザーの話しに耳を傾ける。


「して、提案とは?」

「身構え無くても簡単な事ですわ……」


 おお、エリック領主が先程とは違い領主らしく視線を光らせている。

 だが、マザーはどこ吹く風で話を続ける。


「……貴殿方には、マヒトくんのパトロン……簡単に言えば後ろ楯になって欲しいのですわ」

「……私一人では決めかねる……息子達に話しても?」

「信用に足るの有れば……構いませんわ、ね? マヒトくん」


 俺は黙って頷く。

 すると、エリック領主は帰り仕度を済ませて立ち上がる。

 一瞬見えた表情は……少年の様にワクワクした表情だった……息子さん達に合掌しておきましょう……ナムー


「俺は良いぞ、手綱は多い方が良いからな……」

「ふふ、良い判断ですわ……さてと、マヒトくん達はこの後時間が有りますか?」

「え? まあ、大丈夫ですけど」


 どうやら解散の流れの様で、ドリトンさんも既に執務机に座って書類を片付け始めている。

 俺はマザーの言葉に頷くと、マザーは嬉しそうに微笑むと理由を話してくれる。


「良かった、今回のお仕事のお礼と次のお仕事のお話し……取り敢えず場所を移しましょうか」


 俺達はマザーに連れられてギルドマスターの部屋から退出するのだった。




 ────────────────────




 ギルドでヨミとシノブのギルドカードと中級に更新されたギルドカードを受け取り、マザーに連れられて来たのは立派な屋敷だった。

 しかし、屋敷に見合わないのは使用人が一人も居ない所だろう。


「お母様ぁ? このお屋敷はぁ?」

「今回のお仕事へのご褒美です……住まいを探して居るのでしょう?」

「え? 何で知ってんの? 誰か言った?」

「淑女ですから」

「し、淑女って凄い」


 しかし、問題はこれがご褒美と言う所だろう。

 他の皆は思い思いに屋敷内を見て回っている。


「マザーさん? こんな立派な屋敷どうやって?」

「知り合いから譲って頂きました……もう使って無いからご自由にって」

「でも、管理とか……」

「ユキはやる気ですよ」

「これはぁ! 家事のやりがいがあるわぁ!」


 ことごとく逃げ道を塞がれてしまう。

 すると、見かねたライが此方に来てくれた。


「マヒトくん、この屋敷はお風呂も有るし部屋数も良い……貰えるものは貰わないと損だよ!」

「え? 俺の援護じゃなくて、マザーの援護なの?」

「御兄様……ベットもフカフカですの……」

「シュシュイ!!」

「主……くま吉殿は庭をお気に召した様子……」


 くっ、従者達総出で籠絡しようとは生意気な!?


「マザー……」

「なんですか?」

「有りがたく頂戴します……」

「ふふ、どういたしまして」


 くそー、皆の期待の瞳には勝てなかったよ。

 俺の言葉を聞いたライ達は部屋を決めに行き、ユキは昼ご飯を作ってくれている。

 その間に俺はマザーから仕事の話しを聞くことになった。


「今回は少し遠出になると思いますが……ライが居るなら距離はそこまで関係無いでしょう」

「今回はどんな問題が?」

「ナナシの件は唯一の生き残りの彼が自身の役割を知らなかった事による情報伝達不足でした……ですが」

「今回は連絡も取れていた……」

「はい、何らかの問題により連絡が取れない状態で有ると予想出来ます」


 マザーは頷くと、少し表情を曇らせてしまう。


「嫌な予感がします……本当は私が直接行ければ良いのですが……賢者様との約束で世界樹から離れる訳にはいかないのです」

「分かりました、俺達が見てきます」

「場所は魔王国〈ダクライト〉の辺境の森です……気を付けて下さい」

「……?」


 再度、マザーはそう言うと胸に手を当てて暗い表情をする。

 だから俺は明るい声で返事をする。


「任せて下さい! 何か有ってもライ達が居れば心配無いですよ!」

「ふふ……あら? 貴方自身は?」

「おまけです!」


 俺の一言にマザーはコロコロと楽しそうに笑っている。

 俺はそのままライ達と合流して部屋決めへと参戦するのだった。


「……ふぅ……あの子達なら大丈夫……それよりも……この胸のざわめきは?」


 一人残ったマザーはとある場所の有る方向へと視線を向けた。


「賢者様……あの子達を守って下さい」


 その言葉は誰にも聞かれること無く、雲一つ無い青空へと消えていく。




 ────────────────────




 絶海の孤島……その場所に不穏な男が一人。

 その男は魔人族だった。


「この世界の伝承にはとある逸話が有る」


 男は孤島にてそう独り言を言う。


「賢者の話が独り歩きして、人々は世界を導いた、解放した賢者が居ることしか知らない……」


 男は一つの墓石の前で足を止めた。


「何から人々を解放し、何と共に戦い、何故賢者と呼ばれるのか人々は知らない」


 男はニヤリと邪悪な表情で嗤う。


「見つけた……クックックッ……さあ、貴様はどうする? 賢者の僕よ?」


 男は遠くの何者かに問う様に言う。

 当然、その問いに答えを返す言葉は返ってこない。




 魔王国〈ダクライト〉辺境の森〈魔鋼の森〉この森の中では特殊な魔力を持った鉱石が採れる。

 その魔鋼の森の生態の頂点に立つ種族〈マコウカブト〉。

 しかし、今そのマコウカブト達は窮地に立たされていた。


『クソ! マジンクワガタどもめ……! 子供達を安全な所に!』

『しかし、長は!!』

『必ずマザー殿は助けを送ってくれる……それまで、皆を守れ我が息子よ』


 息子と言われたマコウカブトは頷くと、群れの者達を連れて森の奥へと移動する。

 それを見送ったマコウカブトの長の前に一匹のマジンクワガタが姿を現す。

 マジンクワガタはマコウカブトと同じく生態の頂点と言える存在で有るが両者は上手く今までやってきた。


『貴様は……長はどうした? ヤツが健在ならこのような暴挙は有り得ん!』

『殺した……腑抜けた親父殿はもう居ない……我等マジンクワガタはあのお方に選ばれたのだ!!』


 狂気にまみれたマジンクワガタに長は剣呑な雰囲気を纏う。

 そして、角に濃縮された魔力を集中させる。


『ぬう!?』

『遅い! ククク、いつまでその老体が持つかみものだなぁ!!』


 しかし、一瞬で角を切り落とされてしまう。


『ははっ! 角を落とされれば流石の……!?』


 角を切り落とし、得意気に笑ったマジンクワガタは直ぐ様笑みを引っ込める。

 ただならぬ闘気に思わずたじろぐ。


『何を勝ち誇って居る若僧が……』


 傷だらけになり、角を切られてもなお衰えぬ気高き闘気を迸らせながらマコウカブトの長は吼える。


『……この命、生半可な力でもぎ取れる物とは思うでないぞおぉぉぉぉお!!!』

『……!? さ、さっさと滅びやがれ!』


 最後の命を燃え上がらせて、堅牢な老兵は闘い続ける……

 ……一族の未来をその背に背負って。

次回! 休息と趣味探し

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