表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人の転生者  作者: 冬野夏
第1章 ローレン・ウィリアム
12/13

9

 その言葉をローレンは笑い飛ばそうとしたが、彼の真剣な眼差しがそれを制止させた。

 

 「お前……真剣に言ってるのか?」


 ラングは頷いた。

 それから何も言わず、沈黙に倣うようにローレンも教室に戻るまで口を開くことはなかった。

 道中ローレンは密かに思う。もし本気でそう考えているならこいつはサイコパスなんじゃないか? それとも、こいつ実は俺よりもずっと魔法に精通してて、それを誤魔化すための嘘か? 何通りもの疑念が脳裏を過るが、どれも正しいようには思えない。こいつは妙で、奇妙な奴であることは確かだ。それでも人を騙すような奴ではない。そう思い込んでいたが、本当は腹黒いのかもしれない……。いや、やめよう。憶測はあくまで憶測に過ぎないし、さっきの言葉だって単なる冗談の可能性だってあるだろ。ローレンはそう思い、先ほどの言葉の真意について、あまり真剣に考えるのも馬鹿らしいなと思ってそれ以上考えるのは止めた。

 

 

 教室に着くと教卓の前には列が出来ており、各々がシェルダーへと課題の成果を報告していた。黒板にはペアとなった名前の横に×の印が並び、〇は一つとしてない。

 「お……僕が報告に行くから、君は席に戻っていていいよ」とローレンが周りに目を配った後でラングに告げ、一足前に出ると振り返ることなく列の方へと向かい始めた。

 それに対し、ラングは何も言わない。ローレンはそれを信頼の証と受け取り、内に秘める彼への疑念を晴らそうとした。

 最後尾に並ぶとなかなか列は進まず、教卓の方からは課題の結果を報告する同級生の声が聞こえる。そもそも新しい魔法を作るなんて無理に決まってます。彼らは主だってそのような発言をしており、回りくどく話すためになかなか列が進まないのだった。しかしその様子に周りが苛立つ様子はなく、むしろ遅々として進む列が言い訳を考えるための時間として適切であり好意的な状況として捉えているようにすら映った。

 ローレンも周りに倣い、弁解を考えておくことにした。どのように話すのが適切か。無論、例の魔法のことは黙っておくことにした。だがローレンは自らの評価を下げたいとも決して思ってはいなかった。不意にローレンは例の浮遊魔法を自分が行ったことにして、すべてを話したい衝動に駆られた。ラングのことだ。もしあの魔法を実行したのが俺ということにしても、あいつなら話を合わせてくれるはず。何故ならあいつは目立つのを嫌っている。仮に、目立ちたいと思うのであればあの魔法を全員の前で披露すればいい。そうしたチャンスはいくらでもあった。しかしあいつはそれをしてこなかった。なら、俺のこうした推測は間違っていないはず。

 列は少しずつ、着実に進んでいった。

 不意に矢のような視線を感じ、ローレンは微かに敵意のようなものを感じた。構わず首を回して相手を確かめようとする。そこにはミレイアの顔があった。彼女は窓辺の席に座っており、じっとローレンの方に目を向けていた。目が合う。彼女は目を逸らさない。その美しい顔から流れる視線はそこが定位置かのように微動だにしない。

 力強い眼が示す意味をローレンは十二分に理解していた。

 

 ”あの魔法のことは話さないように!”

 

 仮に相手の心の内を読み取れる魔法があるとして、それを用いれば今このような言葉が聞こえるだろうとローレンは確信していた。彼は教室内での、そしてこの学校での評価を一番に気にしていたが、それ以上に彼女からの評価を重要視しようとしている自分に気付く。ローレンはゆっくり視線を外し、自信に満ちた表情で前を向く。それは首肯と同じ意味を持たせる動作だった。同時に、彼は別の方からも強く視線を向けられていることに気付き振り返ると一人の女生徒がローレンのことをじっと見つめていた。だが彼女は意図せずローレンの視線から目を逸らす。それは偶然の出来事で、彼女は向けられた視線に気付くことなく視線を泳がせ、今度は別の生徒を見つめ始めていた。

 ローレンが彼女の視線を追うとラングに辿り着き、彼女は頬を赤らめながらラングをじっと見つめ、それから再びローレンの方を向くと目が合った。彼女は声を上げずにあっと口を開き、それからもじもじとして机へと視線を落とす。

 なんなんだ? 訝し気に彼女を見つめるが、その思惑は一向に読めない。なんだか妙な気分になりながらも気にするようなことでもないだろうと思ってローレンは教卓の方に向きなおした。彼の順番は間近に迫っていた。





 「えー、結果としては誰一人として魔法を開発することはできなかったと。でも気落ちすることはァ、ないよ。別にこれは成績に響く授業ではないし、そもそも無理難題を出したことは分かっているから」とシェルダーが快活に話し、課題の発案者は結果を事前に把握しているかのように話した。

 一部の生徒はムッとした表情を向けるもののシェルダーはそうした視線を手応えのように感じるのだった。

 誰かが不平不満の声を上げる前に、彼は話を続けることにした。


 「今回の授業の肝は、魔法についてきみたちに今一度考えてみてほしかったということだ。そのような目的から考案された授業であって、実際きみたちはこのような課題を与えられたことで魔法とは何か。多少は改めて考えてみたものだと思う。なら、それでいい。それだけでもう、今回の授業はまぁ成功といったところだろう」


 シェルダーはそう言って満足そうにクラス全体を見渡していく。そうしていると次の授業の担当教官がやってきたので彼は目礼し、ゆっくり退出していった。次の授業がそのまま始まったもののクラスは活気を失い散漫とした雰囲気となった。数名の生徒はシェルダーの言葉を反芻するように考えていたため授業が頭に入らず、大半の生徒は彼の言葉をすぐに忘れた。

 ローレンは密告しなかったことをミレイアへ目配せで伝え、彼女は密かに頷いた。

 ラングはただじっと授業に聞き入っていた。チラチラと自分を見つめてくる同級生の目が少し気になりながらも、そうした思いはすぐに忘れることが出来た。彼はシェルダーの、無理難題をこのクラスへと押し付けてきた教師の言葉を、一度だけ頭の中で反芻した。

 魔法とは何か。

 彼は手元にあるノートへ言葉を紡いだ。それは言葉を書くという行為それ自体によっても意味を生じさせ、また言葉自体にも意味が含まれるものだった。

 同時に、彼は思う。この行為によって生じた複数の意味が、仮により複数の意味を持たせることが可能であるとすれば。

 彼は勤勉さを象徴するように真っ直ぐ前を見つめながら考えていた。

 そこにこそ魔法が存在するのではないか、と。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ