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声の元にはミレイアが居た。
少女は名前を呼ばれて身を固くし、それからすぐに駆け出した。
ミレイアは少女を受け止めて抱擁すると、頭を撫でながら視線を少女の頭から離す。
「この子は私の妹なの」
ミレイアはミーナの頭にポンっと手を当てながら二人に目をやり、微笑んで言った。
「へ、へぇ……そうなんだ」
ローレンはミレイアの目を真っ直ぐに見つめ、決して逸らさないことを心に誓いながら返答した。彼の強張った平静さに構うことなくラングは身を翻すと歩き始め、「あっ」と少女は姉に抱擁されたまま振り返ると声を上げた。ミーアは姉の元から離れ、飛び出そうとしたがその前に「ちょっと待って……待ちなさい!」という姉の声に気圧され身動きは取れなかった。
呼び止められたラングは脚を素直に止めた。ゆっくり振り返ると興味深そうにミレイアを見つめて「なに?」と柔らかな声音を上げた。
ミレイアは妹を脇に退かすと一歩、二歩と歩み寄り、ローレンの横を通り過ぎた。それからラングに対峙するように目の前に立つと「さっきのは何?」と詰問するように尋ねた。
「さっきのって?」
「とぼけないで!! あなたがさっき見せた魔法のことよ!」
刺々しい口調に怯むことなく「魔法だよ」とラングが答える。
「はぁ? さっきの魔法、聞いたことも見たこともないんだけど!?」
それを聞き、ラングは思わず微笑んだ。
「そうなんだ。それなら、この魔法を提出すれば良さそうだ」
ラングはローレンに目を向けた。だが彼はひたすらミレイアのことを見つめており、ラングから視線を向けられていることにさえ気付いていない。
仕方がない。ラングが彼に触れるため再び翻って進むとミレイアの横に並び、彼女はラングの右腕を取った。
ラングは足を止め、首を微かに回すと彼女と目が合った。
数秒間、じっと見つめ合う。少なくともミレイアにとって、それは心地の良いものではなかった。彼女は未知なるものに対する好奇心を唾棄すべきものであると認識するようになっていた。降り掛かる火の粉を払ってくれる存在は、既に自分の役割であることを自覚した目。ラングは、その目が嫌いではなかった。
「あなた……いったい何者なの?」
「この学校のただの生徒だけど」
ミレイアはキッと唇を結び、彼の腕を掴む手に力を入れた。
その時「お姉ちゃん!!」と叫ばれハッとし、いつの間にかミーアの姿が傍にあった。
「その方は私の恩人! 恩人なんだよ!!」
妹の瞳は潤み、今にも泣き出しそうなその表情を目にするとミレイアは手を離した。続けてラングに対して頭を下げ「先ほどの非礼を……謝罪する」と動揺を隠せないまま声を絞り出す。
ラングはそれに対して何も言わない。彼は姉と妹を見やり、妹は目が合うとニコッと笑った。
「あ、あの……! お名前を……聞いてもよろしいですか?」
少女が勇気を振り絞って声をかけるとラングは頷き、名乗ろうとしたが「彼の名前はラング・エルンスト。僕の友人で、まぁ……旧知の仲と言ったところかな」とローレンが間に割り込み、本人に代わって自己紹介を済ませると次に「僕の名前はローレン・ウィリアム。それなりに魔法は得意なんだけど……聞いたことない?」と腰を落としミーアに視線を合わせて尋ねた。
「ローレン様、存じております。非常に優秀な方であると聞いておりますから」
「おお、そっかそっか」
ローレンは沈んだ気分を持ち直した。背筋を正すと意中の相手の妹の頭を撫で、横目でミレイアを盗み見た。彼女は未だラングを見つめていた。ラングは目を逸らすように大木を眺め、先ほどミーアが居た辺りを見つめていた。
ミレイアは襟元を正すと意を決し、ラングに声をかけようとする。
「もしよければ先ほどの魔法、見せて——」
ゴーン、ゴーンといった鐘の音が響き、彼女は授業中であったことを思い出す。
ラングがローレンの方へ近づこうとするのを今度は肩に触れて止め、彼女はラングの耳元に顔を寄せると「さっきのあの魔法は報告しないこと。いい?」と素早く告げた。
ラングは面白くなり「どうして?」と小言で聞き返すと彼女は驚いた表情を見せ、それから「……今日の夜、二人で会える?」と聞いてきた。
予期せぬ返答に少々戸惑いながらも「駄目だといったら?」そう聞き返すラングの顔は子供染みていたがミレイアの表情は真剣だった。
「あなたに拒否権はないわ。今から時間と場所を言うからしっかり覚えておきなさい。いいわね? 場所は――」




