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常世の國

作者: なと

夏は闇濃く

宿場町の格子の隙間から

亡くなった人達の目、目、目。

風来坊は風に吹かれて何処へ行く

何処へ行っても夏ばかり

ほら、灰皿の上の煙草が

黒焦げになってますよ

夏はもの言いたげだ

押し入れの中には

沢山のビー玉

秘密基地なんだよ

時折座敷童が出るんだ

ほら、机の上のお茶に茶柱が

入道雲は知ってゐる

神社の裏の井戸には近寄るなと

夏は呼ぶ

子供達の叫び声と向日葵畑を

入道雲を懐かしく感じる

菊の花をそっとお墓に供える頃は

町は眠りにつく

深い夜のような冬の冷たさは

心の深層心理を揺らめかせ

あの懐かしい校舎の

子供たちの叫び声を思い出す

ゆめゆめ忘れるなかれと







あちこちで風の呼び声を聞く

ああ冬が来たのだ

懐かし通りにはからりころりと下駄の音がして

白い首筋の娘が角を曲がって消える

懐かしさは何処にありますか

駄菓子屋の五円チョコの上に小さな神様

神棚には謎のお札が埃を被って

誰にも掃除をしてもらえなかったから

座敷童は隣の家の仏壇に住むように







優しい子守歌が何処からか聞こえる町

お多福のお面を被った人々が仏壇の前で踊ってる

バッグからはお線香の香り

影法師は夕暮れの怪人

昭和は何処かに落ちてますか

箪笥の裏に得体の知れない念仏が書いてある

今日は風が強いですね

見知らぬ旅人は緑色の燐を咥え煙草から風に載せて

不思議の宿場町






切なさの神様は

賽銭箱の中で泣いている

心の重りは月の影に重なって

下駄を鳴らしゃ

花逆さ爺が箱庭の櫻に花を咲かす

塵箱の中で筆箱がガタガタ

逆さまの世界で

君と二人笑って

鳥居の下の自販機で待ち合わせをする

鬼の子と親を亡くした子

夕暮れの神社に行くと

お化けに黄泉平坂へ

連れて行かれる






夢の後は

寂しくなるもの

今年の花火はもうお終い

朝顔は閉じてゆく

夏のメッセージは

あの校舎の裏に

下駄箱の中の手紙の中に

画用紙にぽたりと

赤いインクが染みてゆく

其れを見て

無垢な魂が闇に染まって行く

それもまた夏のため息

なぜ幼い頃は

あんなに人を殺してみたいなんて

思っていたのだろう








夢を何処に落としてきただろう

夕陽はあの昏い地平線に堕ちてゆく

闇の者が踊りまわる夜に

入道雲は綿あめ屋で

明日の空に浮かべる雲を製造している

過去は問いかける

あなたはまだ夕暮れに恋をしているのか

あの三叉路の看板の警察官は

僕の過去の罪を知ってゐる

お地蔵様に彼岸花をくれてやろ








夢ばかり追ってました

過去という名の荒野に書を持って

人を喰う散髪屋では

サインポールが毒々しい色

人魚は唄を詠い

川の傍の薄荷を摘んでいる

陽だまりの秘術には

魔物が棲んでいる

気を付けなされ

小指の赤い糸の先を教えた辻占の婆は

宿場町の闇に消えて行く

過去は問いかける

旅人の跡を追うのだ








夏まぐれ

お寺で隠れんぼ

墓場のしげみで迷子

狐面と提灯の浮かぶ暗闇道を歩いていくと

地獄経の経典を持った文士と出会い

地獄巡りを始める夏の最中

宿場町の片隅にようやく抜け道が

彼岸花の落とし物

赤とんぼの舞う中

どうも記憶がない

風の旅人が行く秋の荒れ野

誰かさんの麦藁帽子に向日葵の花弁







秋の訪れは寂しいもの

サイダーの瓶の奥にも寂しいは落ちている

宿場町の片隅に誰かの赤い風車

風は何処となく涼しくて泣いている様

夏よ逝かないでと

宿場町に夏は落ちている

入道雲をコートに隠した旅人は

西へ東へ旅をしている

帽子の中を覗くと

どんぐりがころころと転がり

通りに味噌汁の香り






過去は問いかける

不思議の森は鎮守の森

注連縄の内側で神を守る狛犬は

夜になるとお面をつけて踊っているそうな

風の旅人は帽子の内側に

五億年前の林檎を隠していて

たまに刻を超えて

風を届けに行くらしい

船町の洗濯物は夏の香りすなわち潮の香り

子供達のはしゃぎ声が

今でも響き渡る古き通り







朝焼けには朝焼けの夢がある

お父さんの釣ったアメフラシは

剥製になって仏壇に飾られている

もういいかいとお寺で目を塞いで聞くと

もういいよと墓場の方から声がする

夕焼け猫は朝焼けの尻尾を知らない

夕べ枕元に置いた煙草の本数が

三本ほど消えていて

仏壇の横に半分ほど吸って捨てられている






晩夏ですねえ

知らない叔母に話しかけられて

冷えた桃を貰った

坊やは何処から来たの

言えない

其処の神社の中からだなんて

刻を飛んできたのさ

風の旅人が嘯く

カキ氷屋の主人は相変わらず

甲子園実況を聞いている

今日から貴方は私の子

抱きしめて貰うと

胸乳のあたりから

ミルクの匂いがした





夕べの御御御付の中

僕はゼンマイ仕掛けの脳みそで考えた

あの銀河の屑は果たして

路地裏で僕を待っているだろうか

相対的に人の価値を考えるにはまだ若い

そっと冷えた緑茶を飲む

神社の狛犬は夕方になると遠吠えするそうだよ

ブリキで出来た旅人の人形は

コートの中に入道雲を隠していて晩夏を呼ぶ







夏は闇濃く

宿場町の格子の隙間から

亡くなった人達の目、目、目。

風来坊は風に吹かれて何処へ行く

何処へ行っても夏ばかり

ほら、灰皿の上の煙草が

黒焦げになってますよ

夏はもの言いたげだ

押し入れの中には

沢山のビー玉

秘密基地なんだよ

時折座敷童が出るんだ

ほら、机の上のお茶に茶柱が







夏の呼び声がほらあの隧道から

サイダーの炭酸が弾けるように

笑い声が弾ける

ほらあの宿場町の木陰では

夏に惹かれて猩猩達が赤い眼らんらん

祭りの夜を待つのさ

旅人はコートの中に秋を隠し持ちながら

あめふらしに報われなかった恋心を渡している

それですら夏の熱風に攫われそうになっている







夢の跡の様な通り道

吸い殻は此方へ

暗がりからにゅと飛び出だ手に灰皿

あの大時計は刻を止めてしまった

旅人は荒れ野を逝く

魂を幾つも隠し持って

なんだったら

永久機関でも見るかいと

十二支時計を僕にちらつかせ

青く光る蝶が木々の間を舞っている

夏は不思議だ

あの隧道の出口には

懐かしい人が








夏の吐息

夕べの潮騒を閉じ込めた

パンドラの匣は

押し入れの玩具箱の中で

元気だろうか

過去は追ってくる

納骨しないままの彼の

頭蓋骨の薫りは

太陽に焼かれたコンクリートの匂いに

ちょっとだけ似ている

高野山に並ぶあの仏像達の

閉じた眼の瞼の裏に潜り込みたい

空の青を追いかけて

いつか消える







夏の宿場町は夢の中

仏壇の部屋でお線香を焚けば

懐かしい顔があちこちに見える

不思議なんです夏は

シンクタンクの排水溝に

フジツボが張り付いていて

頭には磯巾着が

腕はだいぶ緑色になり

そろそろ緑亀に戻れる頃か

尾てい骨を撫でると

祖先が魚であった証拠

海に戻りたい

浜辺は子宮の音色を奏でて








真夏の木漏れ日には

此の世の秘密が隠されている

開かずの扉をこじ開けると

彼の世に繋がっている夏

外に干した洗濯物が

やけに風情のある暖簾の様に見える夏

空の青さが悲しい色をしていて

僕の胸の鼓動を聞いているみたいに

お寺での蝋燭には

墓場の火の玉が使われているという本当







夕べの夢に落っこちて

サイダーの瓶の中で考え中

夏はその殺伐とした

生と死の狭間で揺れる時期

あの位牌は誰の物

見知らぬ家族が増えてゆく

遺影を抱いた少年が

道に迷っている

此処は来てはいけない

川の向こうで人が呼んでいる

引き返すんだ

海の向こうの

常世の國では

滂沱の涙が

夏を蘇らせる




夢の跡の様な通り道

吸い殻は此方へ

暗がりからにゅと飛び出だ手に灰皿

あの大時計は刻を止めてしまった

旅人は荒れ野を逝く

魂を幾つも隠し持って

なんだったら

永久機関でも見るかいと

十二支時計を僕にちらつかせ

青く光る蝶が木々の間を舞っている

夏は不思議だ

あの隧道の出口には

懐かしい人が

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