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火曜日の放課後の邂逅・Ⅰ

そうしてピースは寄せ集まる。一枚の絵を描くために。





「遅っせーぞ来ンの」

 教室に一歩足を入れた途端、傍若無人なお言葉が飛んできた。

「…………。…ごめんなさい?」

 入り口前に腕を組んで仁王立ちする悪友に、ぼけらとした声で返事する。つーか、遅いとか云われてもチャイム五分前だ。遅いっちゃあ遅いのかもしんないけど、別に遅刻したわけじゃあない。寧ろ遅刻サボリの常習はいつだってこいつのほうだ。実際、こいつがオレより早く教室にいるのをオレはほとんど見たことない。低血圧の動きの鈍い頭でとりあえず謝ってしまったけれど、良く考えればなんでオレが謝らにゃならん。歩く理不尽へ朝っぱらから何なんだよ、とウザいものを見るような視線をやれば、文は不快げに少し片眉を上げて見せた。

「何だってなんだよ、お前らだろフラグ立てしろって人に押しつけやがったの。あっそそーゆう態度取るわけね、オッケーもう教えてやんね」

「って、お前したのかよ」

 昨日夕方から今朝までのたった半日で、マジになんか掴みやがったとか云うのだろうか。うっそーとオレがほとんど呆れて突っ込むと、文は胸を張ってVサイン。

「アヤ様の情報網、舐めンな」

「……なんつーか、…スゲエね。マジで」

 呆れを通り越してなんか脱力感が。朝っぱらからなんでこんな精神疲弊しなきゃなんないのかなと窓の外の綺麗なお空に想いを馳せれば、半眼でじっとりねめつけられた。

「…トーカ。お前今何考えてンのかわかっかンな」

「あン?」

「どーせそんだけの集中力あんなら少しくらい勉強に回したらどうだとか思ってやがんだろ。悪かったね」

 我が悪友はいつの間に読心術とか身につけやがったのだろう。ちょっぴり慄くオレにけっとやさぐれたチンピラライクに舌を打って、お前そのうち覚えとけよとのなまあったかい襲撃予告。やめて欲しい、こいつのはマジでシャレになんないから。

「…いいや、とりあえず報告ね」

 ひとまず置いといてくれることにしたらしい。そのまんま忘却希望。文はいつもの飄々とした顔に切り替え、ふときょろりと教室を見渡した。あれ、話したいのに田下君いない。つられて室内を見渡したが、確かに馬鹿の姿はない。

「どうせまた遅刻じゃねーの?…あーほら、鳴った」

 重苦しいくせに耳に痛い金属音のチャイムが響く。担任が入ってくる前にとオレたちはそれぞれの席に着いた。オレは教科書類を机に移し、指定鞄をロッカーに詰め込む。席に戻り椅子を引いたと同時にお早うと朗らかな声でテンション高く担任が入ってきた。

 きりーつ。注目、おはようございます。おはようございまーす。

 付き合い程度に唱和し頭を下げる。めんどくせーったら、ない。

「ようし、出席とるぞー。…秋月ー」

 出席簿を手にいっちーが点呼を取る。馬鹿はまだ来ない。こりゃまた愛の鞭かなあザマア見れとぼんやりと考える。今泉、内海、大島、尾形、小川、小野、小野寺、加藤、菊池、熊谷、昆野、斉藤、佐藤、白幡、菅原、鈴木と進み、

「たのも――――…」

「はアァァいッ!!」

 こないだワックス塗ったばっかの廊下をドリフトしながら、馬鹿が滑り込んできた。どんがらがっしゃ、とやかましい音は出入り口の引き戸とかその周辺の机とかを巻き込んだ音だ。朝っぱらから馬鹿全開なガキをなまぬるく見やり、なんとなしに目の合った文と肩を竦めあう。やっぱアホだなこいつ。うんアホだね。この時ばかりは完璧にテレパシストばりの意思疎通が出来ていた。

「まーさーとー」

 いっちーが呆れと怒りの入り混じった半笑いで、床に這い蹲ったまんまの馬鹿を見下ろした。廊下は走んな、ってかもう少し静かに入って来い。云いながらぴっと奴が倒れているすぐそばの床を指す。

「見ろ、お前のタックルで机倒れて、床のタイル剥がれただろうが」

「えッ俺の身体より床の心配?!」

「だってお前はちょっとくらい怪我したって保健室行けば治るだろ。けどなあ、設備はいちいち申請して面倒臭い手続きとか予算とかが要る訳。そしたら普通そっちの心配するだろう」

「うわ非道エ!!」

 いや、それで当然だと思う。ただ問題は、保健室には馬鹿につける薬は置いてないってことだけど。

 そんで、今日の遅刻はどした。人権とかを訴えてみるバカ斗をさっくり無視して話を進めるいっちーは、本当にこのクラスの連中のあしらいかたが上手いと思う。そんなスキルばっか磨かれんのもどうかと思うけど。やーあの、ぱんぱんと制服についた埃を叩き落してバカ斗はごまかすようにへらりと笑った。   

「それがッスね、実はー、ちょうどウチ出っ時になんか大名行列とか通ってまして。そんで頭下げてたら遅くなって、ヤバイと思ってダッシュで来たんですけど、ガッコの下の辺りでなんか目の前にUFOが降りてきて、おすぎとピー子そっくりの宇宙人が「一緒に地球征服しよう」なんて云ってアブダクションされかかって、そんで恐くなって逃げてきたんですッ!」

 大爆笑。

 担任でさえ苦笑している。ところでバカ斗、これはただのボケだな? 本気でこれで云い訳になってるだなんて思ってないよな?

「あー…124点くらいか」

「何点中の?!」

 いっちーは律儀に突っ込む馬鹿をちょっとちょっとと手招いて、のこのこ寄ってったその脳天に出席簿をおもっくそ振り下ろした。鈍い音が教室に響く。あの音からするとカドがイったな。あーあ。いっちーはしれっとした顔で出席簿に書き込みをしながら、攻撃喰らったところを押さえて悶えているバカ斗に云い放つ。

「6378点中くらいかな。いいから席つけ、セーフってことにしといてやっから」

「それ何の赤道半径?」


 さて教師+生徒のあほな漫才も過ぎて二時間目の終わった中休みである。移動教室が続き話す時間が取れず、ようやく本日はじめての井戸端会議に入る。おーい今いいかと声をかけながらオレはジャージから制服に着替えてる文の席まで近づいてった。ちなみにオレはいちいち着替えるなんて面倒臭い真似はしない。ちなみに規則では必要時以外は制服で授業を受けることとなっている。

「朝云ってた話って何だったの?」

「あー、あんね」

 ぷう、とジャージから顔を出した文がかくんと首を傾げた。なんつーか、まあアレなんだけど。

「色々半端なんだけど、いい?」

「それはまあ、もちろん。教えてくれんなら」

 絶対云ってなんかやんないが、個人的に、こいつの持ってくる情報なら金出す価値くらいはあると思う。小遣い少ないからマジで出す気はないけれど。文の情報はそれだけ正確で信用できる。けれど文はなんとなく自信なさげというか不満そうというか、フンと鼻を鳴らして唇を尖らせた。

「うん、いやさ、ひとりは見っけたんだけどさ」

 軽く云ってくれるよこの人は。

「………いや、お願いしますとは云ったけど。…マジでやったのか。お前」

「舐めンなっつったろ。弘前文の辞書に不可能っつう字はあんまりない」

 Tシャツ姿でふんぞり返る文にきゃーかっこいーとか棒読みで拍手を送る。だってここまで云い切られたら…ねえ?

 文はピースを返してふふんと鼻で笑う。ふはははもっと褒めろ褒めろ。ちょっぴりイラっときたから調子こくなとどつけば何しやがるとどつき返された。もういいからとっとと教えろよ。

「…ほんと、お前教えてもらう立場っつか、へりくだるとかって真似絶対しないよね…」

 呆れたように睨まれたがそれがどうした、これがオレだ。云い切ればああはいはいもういいやお前にそんな無駄な期待したこっちがバカだった、投げやりにそう云い捨てた文はなんか色々と諦めたっぽい顔をしていたが、なんだ今更気がついたのか。そして休み時間がなくなるから吐くことあんならちゃっちゃと吐け。

「……。…うん、まあ。見つけたって云ったでしょ?つってもお前来る直前だったから、話あんまりっつか全然聞けてねーのよ」

 肺中の空気全部吐き出しちまったんじゃないかってくらい深い溜め息をついた文は何かを吹っ切ったかのように顔を上げて話し出した。向こうも急いでたしさ、引き止めんのもアレだったし。

「ただそういうことがあったってだけしか聞けてないの。でもちゃんと見っけれたんだし、スゴくね?」

「…うん、すごいすごい。そんで?」

「そんでー。…嘘とか冗談っぽくはなかったかな。黒マントがなんかしろみたいなこと云ってて、見たのは自分だけってたから。手口が一緒だもん、同一犯っしょ」

 そいつだってまったくおんなじあほな電波話を嘘で云う訳ないし、そもそも思いつかないわ。だから多分、そいつで正解。

「…あー…」

「…あー、なるほどね。おんなじパターンか」

 生温い表情になっちまったオレの呻き声にかぶせて、なんか唐突に隣から始めっから今までちゃんとここにいましたよ的な声がした。文とふたりでそっちにばっと顔を向けると、したり顔で頷いている馬鹿が一匹。ちなみにこいつも着替えなんかしちゃいない。この問題児め。ていうかそれより問題なのは、


「「なんでテメエがこっちの教室いんだよ?!」」


 またしてもオレと文、ついでに教室にいた連中にフクロにされた。





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