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ユーウツな月曜日・Ⅳ


「―――――結論。『白昼夢』」

 こんなアホ話になんでこんな真剣に考えなけりゃなんねーんだよしかもテスト前に、つー訳でもう気のせいだったっつうことで異論ある人。まとめた文の声に反論はあがらなかった。

 オレも文もバカ斗も、こっからなんか展開してマジにセカイ系な話が始まったら面白そうだ、と欠片も思わなかったと云ったら嘘になる。寧ろそれは大歓迎だったけど、それは間違いようもなくオレらの本心だったけど、きっとそんなこたありえんだろうと確信していた。この物理法則万歳な世界で十五年間生きてきたのだ、多少の「非常識」はききかじりの科学知識で説明をつけてしまう嫌なクセがついている。今回のことだってそうだ。どうっせ事実なんざ、幽霊の正体見たり枯れ尾花、てなモンさ。…まあ、テスト前だし、どっか異世界にでもいってそのまま受験だのテストだのとサヨナラできたら正直かなり嬉しいけど、そのまんまこの世界ともサヨナラは遠慮したい。ジャンプの続きが気になっから。

 現在進行形で青い春で中二病まっただなかのオレらに、その異端の顕現はとても魅惑的だった。喩えるならば甘い毒薬。麻薬のように脳を蝕み、刹那の恍惚をオレたちに教えようとする。だからどんなに抗いがたい誘惑だったとしても、結局それは忌避すべきものだった。だってオレたちはとっくの昔に知っている、いつか憧れたアニメのような、「物語の主人公」にはどう足掻いたってなれやしないということを。そのような物語なんて、決して目の前に現れてなんかくれないことを。無駄な期待はしないが得策。裏切られてしょっぱい思いをするのなんて死んでもゴメンだ。何度も何度も経験したから、もうゴメンだ。だったら最初っからそんなもん期待しなきゃいい。願わなきゃいい。そうしたらなんもない。アッタマイイ。

 まさしく馬鹿なこどもの思考回路でしかなかったけれど、でもそれはきっと現代一般中学生の最大公約数的な思考だった。世界は広く、その中心は自分ではないことを自覚し始めたひとりぽっちの王様の。王道少年マンガのヒーローのような熱血も正義感も、持ち合わせたところで学校なんて監獄(懲役三年)の中にあっては生き難いだけ。だから今回のことだって、ちょっとは面白いことが始まるフラグだったのかもしれないけれど、期待はしないのが賢いやり方だった。正しいのかどうかは隠しステータスだからわからんが。

 オレたちはそれ以上そのことは話題にせずに、あほなことを云い合いながらごちゃごちゃと帰り支度をして、なんとなく三人つるんで学校を出た。夕方にはまだ間のある時間帯、秋空は少しばかり金色を帯びていたが高く蒼い色だった。

「……ここらへん」

 唐突に文が立ち止まった。公民館、よく運動部の連中がジュースを買いに来る自販機のある入り口前。

「ここらへんで、お前会ったんだよね?」

 何に、とは聞き返さずに頷いた。そういえばあれはたった半日前にも足らないのだった。現実感が薄いためか、酷く昔のように錯覚してしまっていたけれど。非日常との出逢い。――――いや、あれはただの白日夢。ぼけてたんだよなあ、と半分夢のように現実味の薄い記憶を思い返しながらひとりごちる。ふと思い出したとき、それが夢か本当か思い出せないあの感覚。それにとてもよく似ている。


 ――――風が吹いた。

 

 木とか草とか雲とかそういうレベルじゃない、世界を揺らす風が吹いた。知っていた。今朝もこんな風が吹いたのだ。オレはゆっくりと視線をめぐらせ、すぐにそれを見つけて目を細める。隣と後ろで息を呑んだ音がした。

 それは花吹雪とも見紛う紅葉の舞う中、その外套を風になびかせて、超然とそこに在った。


「「気のせい」とか「見間違い」とか「白昼夢」とかで終わらせられても困るからね。もういちど、しっかり聞いておいてもらおうと思って」


 読まれてた。

 しっかり図星さされたオレは苛立ちと共に黒マントな不審人物を睨みつけ、不平不満をぶちまける。 

「テメーなァ、人になんかさせようってンなら用件はわかりやすく!簡潔に述べろ。何云ってんだか意味解ンねェよ、うっかりマジで考え込んじまったじゃねえか馬鹿野郎」


「それは失敬」 


 くつりと咽喉を鳴らしてそいつは笑った。それではもう少しだけ、そう云ってゆるり頭を動かした。多分オレたち全員を見回したんだと思う。それでも残念ながらあんまり教えられることはないのだけれど。そう前置きして口許に笑みを刻む。


「干渉できるラインは定められている。…これはゲームだ、これ以上物語を進めたければ、フラグを立てなければいけない。まずは「仲間」を全員見つけることだ。残る「仲間」はあとふたり。四人そろえば、話もしよう」


 つまりこれ以上は教える気ねェってことだなコラとすごめば、攻略本横においてRPG進めても面白くないだろと返された。最もだがなんか腹立つ。そんなオレのムカつきを悟ったか、それは肩を揺らして笑った。意地悪じゃないんだよ、本当にこれ以上は今は云えないんだと云われればひっこむしかないが、それ本当だろうな? そのほうが(自分が)面白いからなんて理由じゃあないだろうな?

 疑いの眼差しを向けるオレらに、そいつは信じるも信じないもキミら次第だけれどねと肩をすくめた。それじゃあ、云うこと云ったからボク行くね。

「いや待てよ! 誰だよテメエ!!」

 云うだけ云ってとっとと消えようとする奴の背中に、苛立ちを込めて怒鳴りつければ、奴は口許に笑みをひらめかせた。迷子のアリスを惑わし導く、蠱惑的な猫の三日月にも似た笑みだった。


「――――ボクが誰かって? …キミたちは、それを知っているよ」


 ざ、と風が吹く。赤い落葉が視界を奪う。旋風がやんだとき、そこにはやはり何もなかった。


「……」

「……」

「……」

 なんとなく顔を見合わせる。

 で、今の。残念ばっちりしっかり憶えてるわ。俺も俺も。流石に今度は白昼夢説はムリか。集団催眠てのはどうよ。何のためにだよ。ドッキリとか。随分壮大なドッキリだな。しかも設定結構イタイわ。オレたちはタイミングぴったり同時に心の底から溜め息を吐いた。

「……とりあえず、それがフラグだってんなら、集めるか。四人」

「だァなー。しゃあねえ。段階踏まなきゃ駄目か、やっぱ」

「そうだよなー。…ってことで、弘前さんよろしく」

「よろしくアヤちゃん」

「…テメエら」

 低ーくうめく同級生をさっくり無視して、オレはさっさと帰途に着く。はじまった。なにがはじまったのかはわからない。ざわざわと心臓が何かを云っている。不安か期待かそれ以外か。

 まったく、これだから月曜日は嫌なんだよ。見上げた空は無駄に綺麗で、これぞブルー・マンデーだなんて心の中でうそぶいた。







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