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虚空遣いの黒魔法師  作者: 生贄
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序章

今までの人生で一番忙しい時に投稿を始めてしまった馬鹿餓鬼です。

他の方と比べたら間違いなく投稿遅くなります。ごめんなさい。


 退屈だ、本当に。

 

 抑揚のない声で淡々と現文の教科書を読み上げながら、僕は心の中で呟いていた。

 

 梅雨も明けたばかりというのに、今日は生憎の空模様だ。個人的には太陽が隠れるし、雨粒の落ちる音は心地よいしで、何ら嫌なことなんてないんだけど。世間一般にはそうじゃないらしい。

 

 ふと周りを見渡してみても、そこにいるのは一生懸命黒板を見ながらノートにメモを取っている人か、頭を机に突っ伏して寝ている人くらい。

 

 一言で言ってしまえば、頑張っている人とさぼっている人。自分はどちらかというと前者だと思うけれど、真面目でも秀才でも何でもない。ただ楽に生きていければいいな~と思っているだけだ。


 未来のことを色々考えて真摯に自分と向き合っているわけじゃないし、親とか教師とか、特別誰かの言うことを聞いているわけでもない。今が満たされてされいればいいから、未來なんて本当にどうでもいい。


 念のために断っておくと、どうでもいいっていうのはどう転んでも対処できるっていうツワモノみたいな精神じゃない。僕はむしろ痛みとかにはめちゃくちゃに弱いし、人に自慢できるような特技や才能もない。


 今の言葉は何というか、駄目になるならそれでもいいかなぁ、なんて半分諦めみたいな心持だと思う。


 何かを一生懸命やってみたって、それで得られるものでは大した悦びは感じられない。感情は豊かな方だと自負してるけど、だからって幸せとは限らない。


 人間は生まれ落ちた時から、幸せに成れるか決まっているから。


 運命なんてロマンチックな話じゃない。幸せに成れるかどうかではなく、幸せだと感じられるかっていうこと。


 全く同じ境遇でも、喜びを感じられる人と苦しみを感じてしまう人がいるもので、それはその人本人の魂に刻まれている性質そのもの。他人からの影響で変わることはあるかもしれないけど、何にも喜びを見出せない人はいると思う。


 そして僕が他の人と唯一大きく異なる点があるとすれば、それは現実にある全てにおいて、歓喜することが出来ないと自悟しているところだ。  

  

 生まれて生きて、死ぬまでの過程に、微塵の価値も見いだせない、とも言えるかもしれない。


 字面で見るとすっごく悲しい文章だけど、そんな大そうな問題でもない。


 生きていたくない、死にたい、って思い詰めるほど辛くは無いし、むしろ人生が充実しているかと聞かれたら何も考えず頷くくらいには満足してる。家では小学生以来の友達とチャットしたり、漫画を読んだり、適当にゲームをしたり、という風に。


 ただ今を犠牲に努力を積み上げ不確定な未來を固定しようとは思わないだけ。怠けている、甘えているだけ、とでも言われたらもうぐうの音も出ないけど、僕にとって他人の言葉が何の力も持たないってことは解ってる。


 自分という観客を沸かせられるのは、自分自身しかいないのだから。


 なんてことを考えている間に、本日最後の授業が終わった。


 流れるように終礼は終わり、教室の生徒は減っていく。僕はいつも通り友人に挨拶をすると、ドアの前でたむろする一軍に溜息を漏らしながらも、学校生活ですっかり得意になった気配消し移動を駆使して、扉に通じる僅かな隙間をすり抜けた。


 颯爽と階段を降りて、玄関へ向かう。そこで持参した傘を手に取ると、半年近く歩んできた、自宅までの軌跡を辿った。


 そのときだった。


 僕は公道の真ん中で、うずくまっているものを見つけた。少し近づき、差している傘を少し傾けて観察してみる。


 それは一匹の子猫だった。


 雨に濡れて凍えているのか、小さな体を震わせている。このままだと、衰弱して死んでしまうかもしれない。そうでなくても車が来たら、轢かれて同じ結果になる。


 幸い今は赤信号で、大きな車道四列の道路が交わっているから、信号が変わるまで余裕もある。


 僕は短く息を吐くと、見向きもしない通行人を嘲笑する気持ちを一旦放って、子猫の方に駆けて行った。


 できるだけ雨で濡れないよう地面に傘を置き、子猫を抱きかかえる。


 特別動物に愛着があるわけでは無いけど、こうしてみるとやっぱり可愛いものだ。指で軽く頭を撫でると、やはり寒そうな鳴き声を出した。


 そのまま傘を取って歩道に入ろうとしたとき、何故か子猫は抱えていた腕から離れ、未だ満足に動かせぬはずの体をくねらせて、反対の歩道へ行ってしまった。


 「そんなに嫌だったかなぁ」


 思わず口から不満が零れる。恩着せがましいのは好きじゃ無いけど、せめて渡りきるくらいはさせて欲しかった…。


 何とも言えない淋しさを引きずったまま、元の道へ戻ろうと置いていた傘を拾った瞬間、僕は子猫が走り去った意味を理解した。


 同時に、周囲で見ていた通行人が叫ぶ。どうして気付かなかったんだろう。


 僕が事態を察した頃には、もうそれは目の前まで来ていた。


 飲酒運転か居眠りか、はたまた故意での暴走行為なのか、僕に解るはずもない。ただ刻一刻と迫るそれが、自分に何をもたらすのか、それだけは鮮明に想像できた。


 碌な終わり方ではない、なんてカッコつけてみたいけど、せいぜい平凡な最後を迎えるだろうと思っていた。


 猫を助ようとした、その先で。


 語りようによっては、面白い最後ではあるかもしれない。


 走馬灯というやつか、とてつもない速さで迫る最後の時にも、こんなことを考える時間はあるんだな。

 そんなことを思いながら、気が付くとゆっくり目を閉じ始めていた。


 迫っているものは、もう見えない。贅沢は言わないけど、痛いのは嫌だな。


 手に持っていた傘が、手から離れた行くのを感じる。その所為で雨に打たれる感覚も。


 ドン!


 鈍い音が轟いた。数秒置いて、悲鳴が聞こえる。


 そして微かに響く痛みとともに、僕の意識は、瞼の裏に映る虚空の奥へと吸い込まれていった。


皆様の生きる人生が、より彩り溢れるものでありますように。

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