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小説 報徳大学明星寮  作者: ytaka
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決戦、四月寮生大会

寮則改正案に関するアンケートを回収したのちに、四月寮生大会は始まった。

委員会の活動報告・質疑応答・会計監査の後に、寮則改正案が提示された。

真っ先に上村が声をあげた。

「なぜ、寮生大会を半減させねばならないのか」

まずは予想どおりの質問である。寮生大会も終盤に差し掛かっていた。

斉藤が回答した。

「無駄のことは省く、ただそれだけです。皆、勉強やバイトに忙しいのに、毎月四時間も五時間もかけて同じことを繰り返し議論するのは時間の無駄だと思います。何か事件が発生したら臨時の寮生大会を開催すればいいわけですし、他寮でも毎月寮生大会をやっているところはないのだから特に問題ないと思います」

鈴木は言った。

「寮生大会の半減は自治活動の後退である。認められない。ナンセンスだ」

すると、斉藤は

「ただ従来の仕組みを維持することが自治活動ではないでしょう。状況に応じて仕組みは作り変えていくべきである。アンケートの結果も、九〇%以上の人が寮生大会を半減する案に賛成しています」

と、鈴木に反論した。

(ここで負けたら、また、だらだらと同じことを繰り返す非生産的な寮生大会に戻ってしまう。多くの者が望めば、物事を変えることができる。それを証明するための寮則改正だ。だから、斉藤君がんばれ!)

高林は思った。


「・・・・・・・・・・・・・・・」

寮則改正案に対する質疑応答が始まってから、三時間が経過した。

ある程度は予測していたが、やはり活動家たちはしぶとかった。

「無駄は省く」、「状況に応じて仕組みは作り変えるべきだ」と主張する高林たちに対し、彼らは「自治の後退は許さん」と激しく抵抗した。

議論の堂々巡りに、皆がうんざりしていた。

場はしらけていた。

近藤は言った。

「寮則改悪など許さん。冗談じゃないぞ。多数決が全て正しいのか。かつて日本が戦争に走ったときもそうではなかったのか。多数の意見に流されることなく、一人一人何が正しいのかよく考えて行動しろ」

(おそらく彼の言っていることは正しいのだろう。多数決が有効なのは、あくまで同じくらい正しい意見が複数あって、決定することができない場合だけである。いくら圧倒的多数の賛成があっても、間違っているものは間違っている。しかし、この変化の激しい社会において、絶対的に正しいものなどあるのだろうか。数年前に正しかったことでも今は間違いというものは、世の中にいくらでもあろう。これは正しい、そしてあれは間違っているなどと断言できる者などいないのである。であれば、多数決で物事を決めるのは当然であろう。ましてやこの程度の寮則改正案を改悪などと断言するのもおかしなことだ。それに、近藤さんの発言は民主主義を否定し、独裁政治や寡頭政治のほうが優れていると言っているようなものだ)

そう高林は思った。

それにしても、高林はいまさらながら近藤の迫力に驚いていた。

(一気に寮則改正案をつぶしに来たな。このまま近藤さんに発言され続けると、無理やり寮生大会を閉会させられる可能性がある。危ないな)

高林は焦りを感じたが、次の瞬間意外な事が起きた。

「俺はこれから用があるので失礼する」

こう言い残し、近藤は去った。

場の流れが変わった。

彼の退出により、寮則改正反対の圧力が弱まったような気がした。

この後、発言するものはいなかった。

(今だ)

高林は議長の佐々岡に合図を送った。佐々岡はすぐさま採決を取った。

(ついに、終わった)

資格審査委員が四方に散り、数を数えている間、高林は不思議な感覚に襲われていた。ようやく一つのことを成し遂げたという達成感からきたものかもしれないが、なんといったらよいのであろうか、そう、まるで自分自身が明星寮そのものになったような、そんな感覚であった。

賛成一〇三、反対二、棄権一。寮則改正案は可決された。

最後に上村は言った。

「ある女性が包丁を振り回している。これだけだと、その女性は狂っているか危険人物と皆が判断するかもしれない。しかし、子供を守るためであれば正当な行為となる。このように、ある行為に対する評価は状況に応じて変わるものである。皆さんには、様々な面から見た上で物事を評価する人になっていただきたいと思います」

どういう意味であろうか?

今回の活動家たちの行動に対する弁明であろうか。それとも、学生運動に対する世間の冷ややかな目に抗議しての発言であろうか。

いずれにせよ、今回の寮則改正案可決により、明星寮から学生運動は消えた。

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