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小説 報徳大学明星寮  作者: ytaka
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第一三三期委員会、始動

「少々考えが甘かったようだな」

二月寮生大会の終了後、高林はこうつぶやいた。

今回の寮生大会は、第一三三期が始動してから初めての寮生大会である上、「寮費の自動引き落とし」や「寮生大会を半減させる寮則改正案」などこれからの明星寮を左右するような議題が並んでおり、大変重要なものであったのだが、この場に来た寮生の数はまばらであった。

これは、高林たちが寮生大会開催の周知を徹底させなかったこともあるが、一番大きな原因は、大学が春休みに入ったため、多くの寮生が帰省してしまったことであろう。

そのため、寮生総数の半数を集めることができず、寮生大会は散会となってしまったのだが、今問題にしているのはそのことではない。

前執行部の人たちの抵抗が、高林たちの予想よりもずっと激しく、全く議論が進まなかったのが問題なのである。

高林は、寮生大会が不成立になるのはすぐ分かったので、試しに寮則改正案を提示して寮生がどのような反応が示すか聞き取り調査をしてみたのだが、上村たちの反発が激しく、寮則改正案や聞き取り調査結果の説明すら満足にできなかった。

結局、

「こんなもの絶対認められるか」

ということで、寮生大会はむりやり閉会させられてしまったのであった。

実際、高林の真の目的は寮則改正ではなく、寮生の意識改革である。

二月寮生大会でさっさと寮生大会半減の寮則改正案を可決させ、四月及び五月の寮生大会では一般寮生の意見を組み入れた本格的な制度改革を行う。これが、高林の頭の中で思い描かれていた計画であった。

しかし、それが崩れ去った今、根本的な計画の見直しが必要となった。

前執行部の人たちに対し、先にも述べた高林の寮連副委員長就任時の件を持ち出したとしても、直接寮改革に影響させることは無理であろう。これを匂わせながら、彼らに対する牽制に利用するのが正しい使い道である。

一方、委員長就任時に「寮生大会半減」を公約としたのだから断固実施するというやり方は、本当に追い込まれてから行うべきであろう。切り札というのは隠し持っているから意味があるのだ。

あともう一つ、誰もがこの寮則改正案に納得できるだけの何かを提示すれば、前執行部の人たちも沈黙し、寮則改正案は大差で可決されるに違いない。

実際、この寮則改正案に反対する人は、どんなに多く見積もっても十人にも満たないはずである。何もしなくても圧倒的多数の賛成で可決されるのは目に見えているのである。

しかし、強行採決という非難を受けないために、反対派の人たちにも発言の機会を与え、その上で堂々とうち負かすために様々な手を打つ必要がある。

採決に至りさえすれば寮則改正案の可決は間違いないし、自分の行動には慎重の上にも慎重を期しているつもりなのだが、何かしっくりしないものがある。

(ひょっとして、根本的な考え違いでもあるのだろうか)

高林は一瞬漠然とした不安を感じたが、すぐに思い直した。

委員長の気の迷いは皆の士気に関わる。なにより、自分の意見に賛同し手伝ってくれる委員会及び寮生のみなさんに対し、申し訳がたたぬではないか。

(このことに関しては、次回の四月寮生大会でけりをつけよう。とりあえず、これからの二ヶ月間は入寮選考等の委員会の仕事に取り組まねば)

高林は、斉藤が農学部で買ってきた感熱紙にワープロで「明星・明風委員会室」と印字し、委員会室の扉に張りつけた。

(これで、迷子になる新入寮生も少なくなるはずだ)

高林には迷うひまなどなかったのである。

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