文学的な後輩は回りくどい
「ふわぁ~、今日も暇だなー、全然人来ないぞ」
「……先輩、図書室では静かにしてください」
「あぁ、ごめんごめん」
少し睨みつけてくる隣の後輩に、俺は欠伸交じりでそう答える。
「あっ、今日は何読んでるの?」
「今日はヘルマン・ヘッセの『車輪の下』ですね。凄く面白いですよ。先輩も読みますか?」
「うん?いや、いいよ。俺はあんまり活字を読むのは得意じゃないからさ」
「……じゃあ、なんで図書委員になったんですか」
「そりゃあ、好きな君がいるからに決まってるだろう」
「はぁ、またそうやって私に対して好き好きアピールして……一体何が目的ですか」
俺が若干キメ顔で言ったことをスルーしながら、彼女はしらーっとした顔でそう言う。
「いや、だからいつも言ってんじゃん!単純に君の事が好きなんだって」
「ふーん、こんな地味で陰キャな私を好きになるなんて先輩はホント物好きな人ですね」
「いやいや、そんなことないよ。皐月ちゃんは凄く優しいし、可愛いんだから!ってこれもいつも言ってることじゃない」
「そう言う事を言うのは先輩だけですよ。ホント物好き」
「こういう事を言うぐらい、君の事が好きなんだよ。分かってくれる?」
「……分かりますけど……ホント何で私なんですか。先輩この間、別の女の子から告白されたじゃないですか」
「だ・か・ら、君の事だけ好きなんだってば!もう、何で分かってくれないのかな」
「…………分かってますよ。だからこそ……覚悟を……」
彼女は本で顔を隠しながら、何かボソボソを呟く。
「うん?何か言った?」
「い、いえ、何でもありません。……そう言えば今日はバレンタインですね。先輩はチョコ、貰ったんですか?」
「いや、今年は1個も貰ってないね」
「えっ!?それは珍しいですね」
「そう言えば、そうだね。確かに0個っていうのは珍しいかも。まぁ、でもいいんだよ。沢山貰っても食べきれないからさ」
「……何か贅沢な悩みですね。他の男子たちが聞いたら、怒ると思いますよ」
「それはまぁ、仕方が無いね」
俺は笑う。
「ふーん、なら今年は私だけっていう事ですね」
「えっ?」
「はい、先輩。ハッピーバレンタイン」
そう言いながら、彼女は中くらいの箱を渡してくる。
「え、こ、これって……」
「はい、バレンタインチョコです。それも手作りですよ」
「い、いや、マジかよ……すげえ嬉しい。貰えると思ってなかったから、すげえ嬉しい」
「喜んでもらえて良かったです。あ、そうだ、そのチョコの中には私の想いも入ってますので」
「想い?」
「えぇ、今まで先輩の猛攻をスルーして来た私の覚悟です。是非家に帰ってから確かめてください」
「は、はい、わ、分かりました」
「それじゃあ、私は今日塾があるのでもう帰りますね。先輩、図書室の戸締りお願いします」
「お、おぉ、分かった」
「じゃあ、また明日」
そして、彼女は図書室から荷物を持って出ていく。
……夢、か?
今まで靡かなかった彼女から、チョコを貰えるなんて。
それに「想い」も入ってるってよ……
そうして俺は彼女から貰ったチョコを持ちながら、放心状態になるのだった。
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図書室の戸締りもちゃんと済ませ、家に帰ってきた俺は早速彼女からのチョコを開ける。
中に入っていたのはハート形のチョコレート。
それに加えて、何かチョコに書いてある。
「これは……英語?」
よくよく見てみると、英文が書かれている。
「I……can……die、I can die、か、つまり『死んでもいいわ』?」
何故そんな英文がこれに書かれているのか、と悩んだ数秒後。
俺は彼女が伝えたかった意味を知る。
「なるほどな、流石本好きな彼女だ。……まったく……回りくどい事をするもんよな」
俺はこの想いを伝えてくれた彼女に微笑む。
そして、彼女のセンスに感服する。
明日、彼女にちゃんと告白しよう。
そうして俺はチョコをずっと溶かさずに取っておく方法を調べながら、そんな覚悟を決めるのだった。
皆さんこんにちわ 御厨カイトです。
今回は「文学的な後輩は回りくどい」を読んでいただきありがとうございます。
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