作戦会議にサプライズは付き物
即座に帰路へ進路を向けようと教室から出ようとした時、一本の腕が彼の行き先を変更した。まるで高速道路の料金所のバーのように。
そしてそれを一瞥しただけで、直ぐに理解できた昂輝は、チッとわざとらしく大きな舌打ちを繰り出す。
そんな仕打ちにもどこ吹く風と聞き流すように彼女、海道七美は目を閉じていた。
「それ……どけてくれませんかね? 邪魔で通れないんですけど」
睨みを効かせながら、扉にもたれかかる彼女に向かって言い立てる。
数秒経ってから腕を下ろすと、
「今日は任務があるから呼びに来たわ。そのまま一階の部屋に来て」
「……確かに協力するとは言ったが、隅から隅まで手伝う義理は俺にはねぇー」
二人の視線は合うことはなかった。最もな昂輝の言い分に肩透かしを食らい、ため息を漏らすとそのまま廊下を歩き始めた。
「手伝う義理を無理矢理作らせれば良いものよ」
背中を見せながら歩く七美の頭の近くには、見覚えしかない表面に小さな傷がついた長方形の物が、彼女の二本の指によって挟まれていた。
慌てて開かれていた鞄の中を探るも、目当ての物が出てくることはなく、その間に彼女の背中は遠のいていった。
「あのクソあま……」
ピキリと音をたてた彼の表情は、見る者全ての人が命の危機を察するほどに怒りに満ち溢れていた。
「ほ、本日は……こちら周辺になります」
差し出されたノートパソコンには、地図上に示された赤いマーカー。そしてそれを囲い込む青い円形。既に部屋の中には全員集合しており、これから行う事柄の説明を受けていた。
「どっかの地図アプリみてーだな」
「ご、ごめんなさい……」
「いや、別に責めてるわけじゃ……」
消えるような声で謝られ、思わず言葉に詰まる。
悪意があるわけでもなく、ただ単純に思ったことを口にしただけだったので対応に困ってしまった。ちゆの様子も本気で沈んだ表情だったことも昂輝を困惑させた。
「せんーぱーい、ちゆちゃんを困らせるのはダメですよ」
「いや、困っているのは俺なんだが……」
ちゆの隣に座る愛理が間に入るように口を挟む。そのまま慰めるかのように、ちゆの頭を優しく撫でる。まるで母親が子に撫でるようにゆっくりと笑顔で彼女の気持ちを落ち着かせる。
「完全にアウェイだな。ちなみに俺もあっち側な」
「な、なんだそれ。完全に俺が悪者じゃん」
念のため残り一人に確認の視線をチラリと向けるも、完璧なスルーを決められギルティの判決が下された。
「と、とりあえずさっさとやろうぜ」
「逃げましたね先輩」
楽しんでいる後輩の言葉を無視して、不利な状況から無理やり脱却する。
「それで場所的には……工場か? この場所は?」
「は、はい。調べたところどうやら工場らしいです……」
椅子から立ち上がり、前のめりで画面の情報を視界に入れる。
「かなり大きい工場みたいですねー」
愛理が何故か自身の席からではなく、トテトテと回り込んで昂輝の隣に。さらに同じように前のめりの姿勢を取ったことで、パソコンの前には大きな頭が二つほど。障害物によって何とか角度を変えて見ようとする男子生徒のことなどお構いなしだった。
「いや、近くね? 自分の所で見ろよ」
「大丈夫ですよ先輩、問題ありません」
答えになっていない、と口にするも彼女の場所は変わることはない。
もはや石のように動かなさそうだったので昂輝自身が退き席に座ると、頬をぷくっと膨らませながら愛理は睨んでいた。そのまま彼女も退くと少し怒った表情でスタスタと早歩きに自身の椅子に戻っていった。その後も続いた抗議の視線には無視をしてやりすごした。
「で……今回も海道さんが向かうとして、残りはバックアップってことで良いのかな?」
「じゃあ俺は仕事が無いから帰っていいな。パソコンの扱いなんて一般人レベルだし、見ているだけなら、いてもいなくても同じだろう?」
もっともな理由をつけて帰宅する気満々の昂輝を止めたのは現場の人間だった。
「今回はあなたにも手伝ってもらうわ」
「だから言ったろ、俺はパソコンの扱いなんて得意じゃねぇーから何の役にも――」
「あなたには私と一緒に来てもらうわ」
「は?」
彼の脳内は処理落ちした。
次話 23:00