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怪盗少女773   作者: 藤沢淳史
14/23

第二のミッションへ

ペラッとページを捲る音が聞こえるほど静寂に包まれている部屋の中で、四人の男女はそれぞれ時間を潰していた。壁に掛けられた時計の秒針は、本当に六十秒なのかと疑うぐらい遅くカチカチと音をたてていた。

 今部屋の中にいる人物は全員、椅子に座りながら各々時間を潰していた。そんな中で一人だけ肩を震わせながら俯く人物の限界を迎えていた。


「来ねぇーじゃん!」


 沈黙に耐えかねた昂輝が、空気を切り裂くようにがなり立てる。バンッと立ち上がった時に机を叩いた音は相殺されるほど。いつものように帰り際に現れた彼女に対し、鞄の奥深く仕舞い込み、チャックも抑えたまま通り過ぎようとするも、あっさり人質を取られてしまい、渋々いつもの集合場所についてから二時間が経過しようしていた。

「確かに遅いですねー。用があるから遅れるとは聞いていましたけど」


 寝そべった態勢で、ジュースをストローで口に加えていた。その中身は当に無くなっている。いかにも今時風な女子高生な愛理は、制服を着崩す始末。


「まぁのんびり行きましょう。丁度今面白いところだし」


 どこか他人事のような返事をしたのは、一切表情を変えずにラノベを読んでいた一輝だった。こちらは両肘を机につけながら、かなりの前傾姿勢で閲読していた。一輝の右側には、読み終えたとされるラノベの山が出来ていた。


「…………」


 そんな三人を置いて、一人黙々とパソコンで何かの作業をこなしていた。自身の肩幅よりも大きいパソコンを使い、時々欠伸をしたり、猫のように目をこすりながら徐にお勤めをこなしていた。

 ちゆが使っているパソコンの画面を時々、愛理が退屈しのぎ代わりに首だけを動かし覗きに向かうも、すぐさま元の位置に戻っていった。

 そんなやりとりも挟みつつ、さらにそこから三十分ほど経った頃だった。


「ごめんなさい、落とし物を見つけて遅くなったわ」


 ガラガラと扉が開くとすぐに向かったのは昂輝だった。野生の狼のように睨みつけ噛みついていった。


「人の財布を持っていきながら行くんじゃねーよ。人に届けるより先に人に返せよ」


「あなたが素直に同行して、待機してくれれば別に構わないのだけれども」


 七美の手にあった財布を無理やりひったくり回収するも昂輝の抗議はあっけなく弾き飛ばす。地団駄を踏む思いに駆られるも、反論の言葉も出ずに黙って奥歯を噛み締めた。

 そんな様子の昂輝を素通りし、いつもの持ち場の席に座ると、ちゆに対して合図の目線を送る。


「えっと、それで今日観測された場所なんですけど……」


 おずおずと差し出されたノートパソコンには学校の校舎が映っていた。


「なんか見覚えがありますね? どこの学校だろう?」

 

 皆の視線が一気に集まる。だが七美だけは目をつむって傍観していた。コンクリートの塀は罅は年季を感じさせ、囲む道路の幅は交通量の少なさを表していた。これだけでは場所を特定するのは至難の技だ、その場所に詳しくなければ。

 長らく近辺に住んでおり、いつも使用している人にとっては難しい問題ではなかった。


「おま――これ、ここじゃん! この学校じゃねぇーか!」


「ええ、そうよ。今回は六湘学校から憑心宝が感知されたわ」 


「あれ? その口調だと七美先輩知っていたんですか?」


 首を縦に一度振る。同時に彼女の胸も軽く揺れる。


「えぇ、三島さんから連絡を受けて、校舎内を見て回っていたの。残念だけどあまり良い成果は出なかったわ」


「遅れた理由はそういうことだったんですね。でも一言いってくれれば私達も手伝いましたよ」


「確かに連絡は入れても良かったかもね。でも、敵が既に潜入している可能性もあったから、気づかれないように最少人数で行動していたの」


 憑心宝が観測されたということは、敵がすでに校舎内に潜伏している可能性が高い。一般の生徒に紛れていれば相手に気が付かれる前に対処が出来るかもしれない。そう考えていた七美は偵察も兼ねて見回りに行っていた。


「でもこんな生徒がいる中で、外部の人が怪しいことできますかね? 慿心宝を今使えば直ぐに感知することが出来ると思いますし、それに学生だとやれることも限られると思うんですけど」


「だとしたら……やっぱり夜になるんじゃない?」


「まじかよ……付き合ってられるかっての」


 ガタッと音を立てながら


「どこに行くの? だいぶ生徒が少なくなっているこの状況で、動くのは少し危険だと思うけど」


「帰るに決まってんだろ」


 呼び止めた七美に真っ向から対立する。

 しかしいつもとは裏腹に、彼の言葉は流暢なものであり、気分もどこか勝気であった。

 その理由を見せびらかすように昂輝は財布を見せつけた。


「残念だが、財布は俺の手元にあるからな」


 今まで何度も人質になっていた財布は手元にある。それさえあれば問題はない。鞄の中には大それた物は入れてないし、スマホは壊れたため持ってきてすらいない。そのため引き留める手段はない、そう思っていた。


「そうね、確かに財布はあなたの手元にあるわね」


「だろ。だから――」


「でも、大事なのは財布じゃないでしょ」


 踵を返し、扉に手を掛けた時だった。焦りもない、頼み込む様子などない。いつもの彼女の声が耳に届いた。その意味深な言葉に思わず振り返ると、座りながら自身の顔近くで何かを掲げていた。


「無くさないように入れていたのが命取りね。現金の方はしょうがないと思うけど」


「お、おま……」


 絶句せざるを得ない。その目に焼き付いたのは紛れもなく大事な物である。 一万円札を中指と人差し指で挟み込み、さらには親指にはスプリットリングをはめ込んでいる自宅の鍵が掛けられていた。

 くるくる器用に回された鍵は、先の件でのスマホのトラウマがあり、つい最近ポケットから財布へと移住させたばかりであった。急いで財布の中を確認すると何もかもが無くなっており、七美が手にしている物が昂輝のものであることを証拠づける決定打になった。


「だから――手伝ってもらえるかしら?」


「穏やかな口調で言ってるが、やってることは全然穏やかじゃねぇーぞ」


 こめかみにマークを浮かべ顔を引きつらせる。

 その様子に、フフッと軽く笑いながら、


「ごめんなさい、こういう性格になってしまったのだから」

 答えた七美はしっかりと昂輝を見ていた。



**************************************



『は、はい。警備システムの無力化……完了しています』


 完了の合図が耳元に届く。


「つまり夜中に校舎の中を堂々と歩いても平気ってことか。教師の目もないからやりたい放題じゃねーか」


『……無駄な事はしないように、最低限の後片付けをすることになるから、特に一名に暴れないように』


『大丈夫ですよ、七美先輩。意外と渋沢先輩って物を壊したりはしてないですから』


『そうそう。あいつ見かけによらず、心の中は意外と汚れてないから』


『……あ、あんたら好き勝手言いやがって、覚えてろよ……』


 赤面する顔を隠しながら、残った手は震えながら握りこぶしを作っていた。今は別の場所にいる連中に、一発かましたいと心の底から煮えくり返っていた。


「三島さん、まだ反応はあるかしら?」


「は、はい。今も慿心宝が観測できます。でも、細かい場所までは――ごめんなさい」


「そう、わかったわ。何かあれば連絡をお願いするわね」


 了解しました、の声を聞いて彼女は歩き出した。

 結局五人で居残っていた。教師にばれると活動が困難になってしまうので、地下の部屋にて時間を費やしながら、見回りの為に周辺を歩いたりしていたが成果は空砲に終わっていた。


『一階担当の秦野、こちら以上無し』


『二階担当の鵠沼です。こちらも以上ありません』


『三階の渋沢。何もねぇ』


『四階、五階チェックの海道。こちらも特に変わった様子はないわ』


 ハンズフリーマイクで現在の状況を報告。

 それぞれに階数の役割分担がされていた。ちゆは地下からサポートに徹し何かあればすぐに皆に連絡を取れるようにしていた。


『こんな夜に学校を歩くなんて、なんだかいけない事してるみたいでドキドキしますね』


『普段からしてるだろ、お前ら……』


『あら、あなたも既に同罪よ。不法侵入に、窃盗罪も追加しておくべきかしら』 


『まぁまぁ、世の為にやっているわけだから、胸張って行きましょうってことで』


 宥める一輝の言葉はどこか楽しげであった。


『……そうね、少し気になるところがあったからそちらに向かうわ。あまり無駄話はしないように』


 そう言い残した七美は耳からマイクを取ったのだった

次話 9:00 投稿

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