詮索開始
目的地の敷地に侵入した後で昂輝を起こし、もの凄く文句を垂れ流すのをスルーし、付けられたハンズフリーマイクからルートの案内を渋々受け入れた。
そして今に至る。
「で、結局俺は何を盗ってくればいいんだよ」
『あなたは、この工場で作られている物。それと同時に映像を記録してもらいたいの』
「映像つってもたかがスマホだぞ。最新の機種でもねーし、それに暗闇だしたかが知れてるけどいいのか?」
『構わないわ。映像は後で解析したりして何とかなるから、しっかりと映してくれれば問題ないわ。怪しいと思ったところは細かく映してほし
い。これから私は慿心宝を探すから、しばらくは通信に返答できないから、後はそちらにお願いするわ』
そう言い終えると、何やら飛び立つ音が微かに耳に入った。
『じゃ、なんかわかんねーことあったら伝えてくれや。出来るだけサポートすっから』
バトンを受取った一輝が昂輝に向けての音声を流す。口調から察するに、どうやらとてもリラックスしているようで、心拍数が自身の耳に聞こえてくる昂輝とは真逆のものだった。
手に持っていたスマホを起動させ、赤いライトが点灯する。
「にしてもほとんど映ってねーぞ」
目を焦点に合わせるように、じっと見つめても視界にははっきりとは映らず、脳が物を認識しないので、猶更スマホの画面上に映し出される映像を確認してみても、何が何だかわからない。
それでも言われた通りに、周りに溶け込んでいる黒づくめの人間はビデオに収める。
「何で俺はこんなことやってんだ……」
心の底から深いため息が長々と漏れ出てきた。
近辺は電気が落ち周辺は人気がないとはいえ、一足一足地面の冷たい感触がタイツを透き通り、忍び足をすること自体が足を苦しめていた。
さらに足元の視界が悪いため、数分に一度は足元を機械にぶつけ、音が出るたびに行動を一時停止し肝を冷やしていた。
『なんかあったかー?』
つけている影響で少し耳辺りのタイツがもっこりし、今にも破けてしまいそうになっている。そんな状況を作り出しているハンズフリーマイクから一輝の声が届けられる。
アナウンスを受けた昂輝だが、その場を一度ぐるっと一回転してからやけくそ気味に答えた。
「なんもねーよ。なぁ帰っていいか? 格好もだし、意外と寒いから嫌なんだけど」
『有益な情報と物的証拠を手に入れられたら、勝手に帰っていいんじゃね? まぁ手ぶらだったり、ろくな情報が無ければ何をされるかわかんねーけどよ』
体験したことあるような、意味深な含みがある一輝の言葉に思わずゾッとした。他人の財布を勝手に盗む輩なので、何をされてもおかしくはない。
ただ同時に男としてのプライドにも火が付いた。一瞬だけでもビビった自分を情けなく思う反面、どんっと構える姿勢で行こうという気持ちが生まれ始めてもいた。
そんな気持ちは次の瞬間に置いておくことになった。
足に何かがぶつかりカラカラと軽い音を立てた。とても良く響き、その何かは別の何かに当たった音を出したため、スマホのライトで見つけるのには時間はかからなかった。
「……なんだこれ?」
四角いプラスティックのケースの中に米粒サイズのチップが入っていた。
ケースは思いのほか簡単に開けることができ、躊躇することなく昂輝は取り出して自身の手のひらに乗っけた。
何の変哲もない一般的なマイクロチップ。特別に重かったり、サイズが大きかったり、特殊な材料で作られているわけではなさそうだった。
(怪しいっちゃ、怪しいんだよなー)
こんな所にチップを落とす輩がいるだろうか、さらに言えばケースにも入っていた物だ。
念のためスマホにも映し終えてから、持ち替えてチップを近くで凝視しようと二本の指で挟んだ瞬間、チップは粉々に砕けてしまった。
(そんなに力入れてねーよ今! もろくないかこれ?)
まるで柔らかくなった角砂糖のように、サラサラと指から滴り落ちる。昂輝の指先には壊れたチップの粒子だけが付着していた。
気になる点ではあったが、再びスマホを持ち直してから周辺を探索しようと足を踏み出した時、パキリと何かが割れる音が耳に入った。恐る恐る現実を直視しないかのようにその場から足をゆっくり退け、スマホのライトを照らし出す。
そこにはケースとチップらしきものが粉々になっていた。
今度は全体重を掛けるかのようにおもいっきり足で踏みつけており、先程と同様に粉々になってしまい原型をとどめていなかった。
(これ結構重要な物的証拠だったんじゃね?)
喉から手が出るほど欲しかった証拠を、二度ほど獲得できるチャンスを不意にした、その事実は昂輝の背に重くのしかかった。
意気消沈し、何もかもがどうでも良くなってしまった。半ば投げやりに辺りを照らし状況を目視しようと、光を正面に向けた。
「なっ……⁉」
思わず声が漏れ素早く自身の手で口を覆った。
ベルトコンベヤーの先に置かれていた箱には、先ほど昂輝が粉々に砕いたマイクロチップが、溢れんばかりに製造されていた。こちらはガラスケースには入れられておらず、素肌の状態で盛られていた。
「まじかよ……なんでこんな大量な……」
たかがカバーを作るのに大量のチップは必要ない。中のチップを救い上げると、溢れんばかりのチップが手の中に集まった。一気に鼻の奥に金属特有の臭いが侵入する。
昂輝の一連の音声を聞き取っていた、一輝から連絡が入る。
『どうした? 何か見つけたのか?』
「あぁ、大量の――」
「おい! そこに誰かいるのか」
突如聞き覚えの無い声が辺りに響き渡った。
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