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少女が望む青春①

 翌月曜日、こずえは普通に学校へやって来た。これで、俺はようやく安心することができた。


 休んでいたことを問われるこずえを遠巻きに眺め、耳をすませる。どうやら、本当に風邪をひいていたらしい。

 何せ天才だ。頭を使いすぎるから、脳の疲労で免疫力が低下し、病気がなかなか治らないのかもしれない。まあ、それは俺の適当な憶測だが。


 彼女はこの日、何度か俺のことをチラ見した。気にするのは無理もない。俺もこずえが気になるが、目が合いそうでなかなか見られなかった。


 放課後になると、彼女はそそくさと帰り支度をし、教室を出ていった。俺は勇美に用がある旨を伝えると、こずえを追いかけた。


 我らが通う長居高校は、JRも地下鉄も近いため、電車で通学する生徒が多い。でも俺は少数派であり、徒歩で通っている。

 こずえも俺と同じ少数派らしく、駅を通り過ぎて、公園のほうへ歩いていった。それは俺の通学路でもあるコースなので都合がよかった。


 長居公園は、スタンドのある競技場が三つに、植物園や博物館まである大きな公園だ。

 その周回コースは、毎日ジョガーで溢れている。道が広いし車も入ってこないため、俺はいつも公園を通って高校まで歩いていた。彼女も同じなのだろう。


 こずえは、一人公園内の歩道を進んでいく。俺はすぐ追い付ける位置にいるが、どこで呼び止めるかで悩んでいた。


 サッカースタジアムの方向へ進むと、石垣沿いにベンチが設置されている。目の前に囲いがあり、その範囲の地面には、複数の穴が開いている。ここは過去に噴水だった場所だ。人が入ってよく故障したからか、いつ頃からか水が出なくなってしまった。今や廃墟である。


 ちょうど今はひと気も少ない。俺はこの辺りで声を掛けてみることにした。 


「こずえちゃん。……こずえちゃんっ」


 ボリュームを上げた二度目の呼び掛けで、彼女は振り向いた。


「さ、沢渡さん!?」


 こずえは見るからに動揺していた。まさか、追いかけられているなんて思っていなかったのだろう。しかも、一〇日前に一悶着あった相手と来たら、何も考えずに「逃げる」コマンドを選択したくなるものだ。


 俺が小走りで追い付くと、こずえは一歩後ずさりしながらも、ちゃんと向き合ってくれた。


「ちょっといいか?」


 俺がベンチを指さすと、こずえもそちらに視線をやり、意味を理解した。


「は、はい……」


 こずえがベンチの前まで行くと、俺も横並びに立ち、ほとんど同時に腰を下ろした。

 さあ、どう切り出すか。まずは彼女の状態を探る必要がある。何でもないならそれでいいわけだし、こちらには都合のいい質問があった。


「風邪はもう治ったのか?」


 チラッと表情を窺うと、こずえは顔を赤くしていた。まだ熱があるように見える。


「はい。……いえ、実は風邪でおやすみしていたんじゃないんです」


 一度肯定したものの、こずえはそれをすぐに覆した。風邪以外の理由なら、やはりこの前のことがきっかけだろうか。


 クラスメイトには風邪と言ったのに、俺に訊かれたら風邪じゃないと答える。つまり、彼女は俺に理由を訊いてほしいのだ。

 まあ、元々この前の話をするつもりだったし、訊いてみるしかない。


「じゃあ、どうして休んでたんだ?」

「…………」


 この前のことが原因だとすると、この訊き方はデリカシーがなかっただろうか。俺はそれほど語彙力を持っておらず、回りくどい言い方が得意ではない。

 言葉選びに悩んでいると、こずえから話し出してくれた。

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