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たとえその先が地獄でも  作者: 陽陰響
一章:押し付けられた茨の道
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4. 加護と言う名の

 和也と分かれた後、俺は目の前のローブを着た爺さんに案内されるままに廊下を進んでいた。

 先ほどまでは少しワクワクした気持ちがあったが、幾分か冷めて再び不安を抱えていた。


 何度も夢見た異世界。それはもっと期待に胸膨らむものだと思っていた。確かにワクワクしている自分もいた。けれどそれだけでは拭い去れない影がちらついているのも事実。いざ直面すると、純粋に楽しむ心の余裕はなかった。今は3対7くらいの割合で不安が勝っている。

 一緒に召喚された和也とも早い内に離されてしまった。せめて一緒に行動できていれば、これほど不安になることもなかっただろう。


 見知らぬ土地でも和也がいればどうにかなると思える。それくらい、幼い頃から頼りになる存在だ。趣味全開の話にも付き合ってくれるし、和也らしいツッコミも楽しい。

 勉強でも運動でも大抵の事はそつなくこなす。何度助けられ、時に協力し、時に競争してこれまでずっと過ごしてきた。最早二人三脚と言ってもいい程には一緒に行動していた。だからこそ引き離された現在の状態は非常に心細い。


 分かれた和也がどうなったのかも心配でたまらない。和也が最後に見せた表情は、何かを隠すようなものだった。それが何かまでは俺には分からないが、和也は理由もなく行動しない。いずれ教えて貰えるだろう。


 元々和也のことはあまり心配していない。物怖じせず思慮深く、何であっても対応してしまう自慢の幼馴染だ。だから間違いなく一人でも切り抜けるはずだ。

 そうなると、俺は自分の心配をしなければならない。

 これがよくある異世界ものなら、この後王女様なり神官なりそれなりに偉い人物からの申し出があるはずだ。ひょっとすると王様直々に謁見する可能性もある。


 内容はよくある魔王討伐だろうか。自分の秘められた力を解放する儀式なんかもあるかもしれない。何をさせられるにしても、少なくとも相手の望むままに素直に従っていればすぐにどうなるとは思えない。物語のように進むかどうかは未知数だが、そうであって欲しいと切に願う。


 廊下を抜けると広間のような場所に出た。左右から不躾な視線が集中するのが感じられる。

 ちらっと横目で伺うと、先ほどの部屋にいた騎士と同じように全身を鎧で固めた、しかし頭部は隠していない騎士の男が十人と、ロング丈のエプロンドレスにヘッドドレスを頭に載せた、いわゆるメイドさんが数名居た。一瞬状況も忘れてその光景に釘付けになる。


 メイドさんたちはすぐに視線を外し自分の仕事に戻ったが、騎士たちからは刺すような視線が続き我に返る。

 友好的な視線は一つも感じない。全員から値踏みされているようで非情に居心地が悪いが、それも通り過ぎる間だけの辛抱だった。


 広間を過ぎて細い廊下へと抜ける。少し進んだ先には扉があり、その前で爺さんが立ち止まった。

 扉を開けて振り返り、室内を掌で示す。

「どうぞこちらへ」

 促されるま入室すると、そこはこじんまりとした部屋だった。一見すると執務室のように見えた。


 入口から右手側の壁は一面本棚が天井まで届いている。棚は分厚い本で埋まっている。背表紙に刻まれた文字は、残念ながら読み解けない。

 反対側にはいかにも高級そうな机と椅子がありその奥にも扉がある。執務机の前、部屋の中央に向い合せでソファと、その間にテーブルが置かれている。


(なんか暗いな)

 部屋の天井から照明はぶら下がっている。壁にも照明はあるが、全体的に暗い雰囲気に包まれている。お化け屋敷程ではないが、焦りを誘発するような気味の悪さを覚える。

 背後から「お座りください」と声が掛かり、扉の閉まる音がする。びくりと肩を震わせ思わず振り返る。鍵は掛けられなかったのを見て微かに安堵する。


「どうぞ」とソファを示されるので、内心おっかなびっくりしながらソファに腰を下ろした。

 とても柔らかく、適度に沈み込んで身体を受け止められる。余りにも座り心地が良く、思わずその感触を楽しんでいると、爺さんが目の前に座り、被っていたローブを外した。


 六十歳前後に見えた。真っ白に染まった髪は、無頓着なのか整えられた様子はなく、耳が完全に隠れるくらいに長い。

「突然このような状況になってさぞ混乱していることでしょう。まずは気持ちを落ち着けるために飲み物をご用意させます。何か希望は御座いますかな?」

 年季とは別に経験を積み重ねたであろう声は、随分下手に出ている。

「あ、いえ。お任せします」

「畏まりました」

 爺さんがテーブルの上に置かれた呼び鈴らしきものを鳴らすと、奥の扉からワゴンを押したメイドさんが現れた。幾らか身体がふくよかなメイドさんは、熟練を感じさせる所作でテーブルの横に止まる。続けて手際よく紅茶らしいものを淹れ始めた。


「どうぞ」

 そう言って差し出されたものは、半透明の紅い液体だった。

 カップを手に取り、香りを嗅ぐ。ほんのり甘い香りがした。その間に爺さんは味も香りも堪能する気もなさそうにごくごくと豪快に飲んでいた。その様子を見送り口へと運ぶ。

 暖かく舌触りの良い風味が口の中に広がった。紅茶には詳しくないが、とても上品な物だと分かる。ゆっくり何度か喉を潤すと、自然と気持ちが楽になっていくようだった。


「落ち着きましたかな?」

「はい」

 カップ一杯分飲み干した頃に声が掛けられた。メイドさんの申し出に従いお替りを貰いつつ話を聞く体勢を取る。

「まずは、突然このような場所へとお呼び立ててしまったこと、深くお詫びします」

 そう言ってテーブルに額が付くくらいに深く頭を下げた。

「あ、いえ……」

 思わずそう言ってしまったが、和也の言葉が脳裏を過り中途半端な返事となった。

 異世界に召喚される話は好きだし自分にもそんなことが起こらないかなと妄想した回数は数知れず。そういった話の中では、突然召喚された主人公たちに謝罪し、それをあっさり許してしまうものもあった。

 いつだったかその話題をしていたとき、和也が当然と言った様子で疑問を口にしていた。


 ――突然召喚されて、一度謝罪されたら許すっておかしくないか?

 ――誘拐犯に誘拐したことを謝られて、お前はそれを許すのか?


 尤もすぎる指摘だった。

 だが実際には、同じ場面に出くわすと反射的に許容するような言葉が出てしまった。

(相手が心底申し訳なさそうにしてたら、あんまり強く出れないぞ、和也)

 心の中で理不尽な文句を言いつつ、それに対する和也の反応が予想できて笑いそうになってしまった。和也ならまず間違いなく「The 日本人だな」とでも言いそうである。そして苦情なり何かしら要求なりしてそうである。


 残念ながら俺にそこまでできる度胸はない。もし相手を怒らせたらどうしようという考えがこびり付き、反駁しようとは思えない。相手の様子を伺いながら情報を集めるのが精々だ。

「まずはお名前を窺ってもよろしいでしょうか。私はあなたのご案内を命ぜられたゴードンと申します」

「人に名前を尋ねる時は……」というテンプレ台詞が一瞬頭をよぎるが、普通に名乗られてしまったので慌てて自分も名乗った。

「えっと……ケイゴです。ケイゴ・アカバネ」

 どのように名乗るか考え、結局そんな言い方になった。建物そのものも、目の前の爺さんも明らかに日本や日本人ではないので、姓・名で名乗るのは違う気がしたのだ。


(というか今更だが、日本語なんだな)

 異国の中にありながら、当たり前のように日本語で会話していたことに驚く。所々発音やイントネーションが異なるが、それも方言レベルのもので充分流暢と言える。

 異世界召喚なら召喚されると異世界言語理解とかその手の能力が標準搭載されているが、今の会話がその結果なのかは判断できない。


「ありがとうございます。ケイゴ様、とお呼びしても?」

「え? ええ」

「それではケイゴ様、早速ご説明したいのですが、その前に先ほど言った《女神の加護》を与えたいと思います」

 説明は? と言いたくなったが、それより気になって仕方がない言葉を出されてしまえば、俺の関心はどうしてもそちらに流れてしまう。


「その《女神の加護》というのは、どういったものですか?」

 抑えきれない興味を悟られないように気を付け、神妙にする。不安要素は数あれど、関心は高まる。

 文字通りの効果を期待するなら、何かしら特殊な力の恩恵を受けるのだろう。その結果特殊能力が判明するか、もしくは与えられるのだ。ステータスなんかも判明するかもしれない。


 ひとつ気になるのは、女神の加護とやらを付与するのが目の前の爺さん――ゴードンさんなのかと言う点だ。この手のものは神官なり聖職者が行うと相場が決まっている。周りに騎士がずらっと並んでいて、能力が判明した途端にざわめきが生まれるとか、そんな状況を体験してみたい気持ちがないと言えば嘘になる。


「そうですな。こちらについても説明致しましょう。《女神の加護》には二つの効果があります。一つは、我々の本来の言語が理解できるようになる、というものです」

(異世界言語理解来た!)

「私は不慣れながら日本語を話せますが、他の者は基本的に言葉が分かりません。しかし《女神の加護》を授かれば、あらゆる種族であっても会話することが可能となるのです」

「充分流暢に話されていると思いますよ」

「ありがとうございます」

 ゴードンさんが恭しく頭を下げる。釣られて俺も小さく頭を下げたが、丁度良かったとも思う。

 非現実的な会話を当たり前に行っている現実に、口の端が自然と上がりそうになってい。真面目な話をしている最中にニヤけ顔を浮かべていては不信に思われるかもしれないし、あまり良い印象を与えないだろう。


 しかし図らずも疑問の一つが解消された。どうやら言語問題の解消は与えられるものらしい。そこが解消されるのは非常に助かる。

 それにしてもあらゆる種族と来た。つまりこの世界には人間以外の種族がいるということだ。まさか家畜と会話できます、という意味ではないだろう。地球で言えばどこの国・地域の人とでも会話ができる、そう捉えて間違いなさそうだ。


 とは言え、女神の加護とやらの効果の一つが言語理解というのは、些か大仰なきらいがする。言語の壁を取っ払うのも充分衝撃的ではあるが、女神の、と冠するには物足りないと感じてしまう。この疑問を吹き飛ばすだけの効果が、もう一つにあるのだろうか。


 心の準備を整え顔を上げると、ゴードンさんが続きを口にする。

「二つ目は、ケイゴ様のセイケンの開花です」

(セイケン!? 適正職業判明タイプではなく、固有能力的な話か?)

「この世界の人間はみな何かしらのセイケンを持っていますが、ケイゴ様の場合はそれが閉ざされた状態なのです。これはこの後のお話にも関わることなのですが、ケイゴ様には是非ともセイケンを開花させていただきたいのです」

(現地人より異世界人の方が強力だから、とかそんな理由かな)

 異世界人だから特殊な力を持っているという事でないなら、わざわざ別の世界から召喚する意味がない。異世界人は現地人よりも力が強いとか、より特化しているとか、そのような理由があるはずだ。そして異世界人を召喚してでも何かを解決したいという思惑が存在するはずだ。魔王討伐かな?


「セイケン、とは?」

 質問したいことは山ほどある。文脈からセイケンが何かしらの特殊な力であるということは想像がつくが、それ以上は何も分からない。色々候補も上がるが、無駄にハードルを上げる行為は避け、素知らぬ顔で答えを待った。

「セイケンとは、その人間固有の、魔法とは異なる特殊な力のことです」

(魔法! やっぱりあるんだ!)

 想像通り、セイケンとやらは特殊な力で、しかも個人に固有の能力タイプ。それとは別に魔法という概念が存在するのが分かった点が非常に大きい。


「どのような力かは目覚めた者にしか分かりません。ただセイケンには位階があります。大半の者はそれほど高くない位階ですが、ケイゴ様であれば、必ずや優秀な力でしょう」

(やっぱり異世界人の方が強力だから、か。ステータスはないのかな?)

 異世界召喚された者が強力な能力を持っているというのは非常によくある話だ。この世界にステータスなる概念が存在するかはまだ分からないが、異世界人だから強力なステータスを持っているというのは自分の知る物語でも定番だ。異世界人固有の能力の強さやステータスの高さを当てにされているのなら、きっと自分も強力な力を得られるのだろうと期待が高まる。


(和也はどんな力かな)

 和也なら、たとえどんな能力であっても充全に使いこなし、とんでもない活躍をするだろう。

 単純に強い力だけでは宝の持ち腐れ。使いこなして初めて真価を発揮する。どんな力であろうとも和也に負けないように、自分も努力をしなければならない。昔から好きなことなら熱中してしまう質なので、この辺りは心配ない。


 気掛かりなのは、相手側が俺たちの力をどのように評価するかだ。能力の詳細は本人しか分からないらしいので、自己申告によるものだろうか。だが異世界人を召喚しているのだから、相手の能力を看破する術を用意していないとは思えない。どんな手段かは分からないが、胡麻化すことはできないだろう。


「《女神の加護》を授かるときには頭痛がすると思いますが、どうか我慢していただきたい」

「そうですか」

 頭痛がどれくらい酷い痛みなのか分からないのが心配だが、それを越えないことには能力を得られないというのであれば我慢しよう。

「どうでしょう。受けてくださいますか?」

 とても神妙な表情で伺ってくる。俺としては即答したいところだったが、こちらも神妙さを意識してゆっくり答えた。

「分かりました。受けます」

 なぜ力が必要なのか、それをどのように使わせようとしているのかについて説明を受けていないが、力を得る機会を逃すのは惜しい。断ったらその時点で用済みと判断される、という可能性もなくはないので、結局大人しく従った方が賢明だろう。


「ありがとうございます。では早速行いましょう」

 ゴードンさんが立ち上がり、両掌をこちらに向ける。何か呪文でも唱えるのかと思ったがそれはせず、しかし手が薄く発光し始めた。

 すると、部屋全体が共鳴するように光を放ち始めた。

 光は徐々に強まり、眩しい程に強くなった瞬間、強烈な頭痛に襲われた。

「うぐっ」

 頭を両側から押し潰そうとするような痛みが走る。鈍く響き続ける痛みが頭の中央から全体に広がる。想像以上どころではない。頭が割れそうな激痛だ。


 あまりにも痛すぎて何も考えられない。冷や汗が止まらない。

 両手で頭を抱え、はやく過ぎ去れと願う。他に思考する余裕など全くない。

 早く沈まれ、治まれと歯を食いしばりながら堪える。荒い呼気を漏らしながら、頭をさすり痛みに耐え続ける。


 どれだけ時間が経過したのか分からない。

 一時間以上にも思えた苦痛は、ようやく波が治まってきた。

 全力疾走をした後のように呼吸を荒げ、痛みの波が完全に引くのを待つ。若干意識に靄がかかっているようだが、頭痛のせいだろう。


「どうでしょうか」

 座り直したゴードンが、確かめるようにこちらを見ている。

 言葉が日本語から変わっている。こちらの世界の言語のようだが、問題なく理解できていた。

「問題ない」

「それは重畳。星顕の方はいかがでしょうか?」

 問われ、自分の中身を覗き込む考える。すると、頭の中に獲得した星顕のことが欠片となって次々と思い浮かぶ。それらをひとつずつかき集め、一つの形にまとめる。


 それは最初から答えを知っているパズルを解くようにすんなりと形作られていく。

 全ての欠片をまとめ終えたとき、理解した。

「一つ聞きたい。星顕には固有の名称があるのか?」

「はい。位階の高い力であるほど節が長くなると考えられています」

 期待するような眼差しが遠慮なく向けられる。この男の言では確証が得られていないようだが、星顕の名称の長さが位階によって変化するというのは蓄積された記録から判断しているのだろう。

 自分が獲得した力の名称が長い部類かはさておき、位階ははっきりしている。


「【右手に剣を左手に本を】。それが名前らしい」

「ほう、それはそれは。それで、どのようなお力を持っておられるのでしょうか」

「武器、魔法を使いこなす。そんな力だ」

 理解としては、武器適正と魔法適正。近接遠隔を問わず武器の扱いに優れ、魔法を扱う上での技能に補正が掛かる。そんな力だ。

 星顕の力を理解した今、目の前の男が一つ嘘を吐いたことも分かったので、詳細まで説明しようとは思わなかった。例え何かしらの手段で看過されていたとしても、自分の口から教える気にはならなかった。


 女神の加護は言語の理解と星顕を開花させること。後者はともかく、前者は嘘であった。

 目覚めたという能力を把握した際、言語適正なる項目が存在した。調べてみれば、あらゆる言語の壁を取り払い、読み書き話し全て自由というとんでもないものだった。

 星顕そのものについても獲得自体は既に行われており、女神の加護は自覚するためのきっかけでしかなかった。その事実を知ると、途端に目の前の男が胡散臭く見えてくる。


「素晴らしい! 位階は、もしかして7ですかな!?」

 喜色満面を浮かべ、子供のようにはしゃいでいる。星顕の名称の長さが位階の高さで決まるのなら、ゴードンが名称から位階を推測できてもおかしくはない。なので、癪ではあるが頷きを返した。


「おお!」

 感動したのか、手を組んで祈りを捧げるように瞑目した。

 やがて俺の存在を思い出したのか、咳を一つして真面目な表情に戻る。

「無事《女神の加護》を授かったようなので、私たちがあたなをお呼びした理由をご説明しましょう」

 それからゴードンが語った話を要約すると、実にテンプレ感漂うものだった。


 この国――『ソルスファヴル』と言う王国らしい――は毎年魔族の被害に悩まされていた。魔族とは魔人族と魔獣を合わせた呼称だという。

 魔族を束ねる魔王は人族の生活圏を侵略しており、このままでは人の住める場所がなくなってしまうので何とかしなければならない。


 また今でこそ発展しているが、昔は国力の小さい貧しい国だった。その頃から周辺国に属国を迫られており、いまでも頻繁に小競り合いが続いているという。

 特に近隣の武力国家であるフオルズ帝国は長い間戦線を引いて争っているという。

 毎年膨大な軍事費が必要となり、民にとっても負担となる。


 しかし帝国の条件を飲んで停戦することはできず、避けては通れない問題となっている。

 魔族と帝国。この二つの脅威から民を守り、国を発展させるために手を出した方法。それが俺たち異世界人を召喚すること。


 想像通り、異世界人が覚醒する星顕は非情に強力である。星顕の位階は最大が7であるが、現地人は1か2。高い者は滅多に現れないという。ところが異世界人の場合は最低でも5はあるという。そんな事実が分かっていれば、喉から手が出るほど欲しくなるのも頷ける。


 俺が開花した【右手に剣を左手に本を】は第7階梯。なんと最高位階である。

 異世界人にはそれだけ力が期待できる。その力を貸して欲しいということで、既に召喚された何人かは活動しているという。


 勿論それ相応の礼は受け取っているようで、全てが解決したら元の世界に戻すことも誓うという。

「ケイゴ様のお力であれば、魔王討伐でも帝国との闘いでも功を上げることができるでしょう。勿論、すぐに協力してもらおうとは考えておりません。準備期間を設け、万全の状態にしていただきます。ご協力いただけますでしょうか?」


「どの道協力する以外の選択肢はないのだろう。まぁ魔族の存在も、帝国の行いも許せないからな」

「ありがとうございます」

 深々と頭を下げるゴードンとは反対に、ソファに背を預けゆっくり息を吐き出す。


「それでは明日から準備に取り掛かりましょう。お部屋をご用意しておりますので、本日はごゆっくりお休みになってください。後で案内の者を向かわせますので、この城の中を見学してみてはどうでしょう。それと、夜にはささやかながら歓迎のパーティーを行いたいと思っております。その場で先の協力者の内何名かをご紹介したい思いますので、何卒よろしくお願い致します」

「分かった。部屋に案内してもらった後は城の中を見て回る。準備が出来たら呼びに来てくれ」

「承知しました」

 話を終えたゴードンが立ち上がる。部屋に案内するというので黙って後ろに並んだ。


 廊下を歩く中、最初に見かけた騎士とは違う騎士に見られていたが、無視することにした。

 何度か角を曲がり、人がまばらな廊下に面した大きな扉の前で立ち止まる。

「こちらがケイゴ様にお使いいただくお部屋でございます。専属のメイドを付けますので、何かありましたら遠慮なくお申し付けください。それでは後程案内の者を向かわせますので、私はこれで失礼致します」

「ああ」

 背を向けたゴードンに目もくれず、扉を開き中に入る。


 案内された部屋は広く綺麗に整えられていた。学校の教室程度の広さの部屋を個人で使うには、返って居心地が悪くなりそうだ。持て余すことは間違いない。

 部屋にはキングサイズよりもさらに一回りは大きいベッドと、その近くにテーブルとイスが一つずつ。他にはソファも置かれている。


 壁際に置かれているベッドに近づき手を触れると、非常に柔らかい感触が返ってきた。これで眠れば毎日快眠だろう。

 ベッドの反対側の壁にはクローゼットと思しき扉があり、開けると予想通り衣服やタオルなどが幾つか入っていた。

 手に取って服を検分してみる。これまで着たことのない装飾の施された服や、動きやすそうでしかも丈夫そうな物もある。それらのどれもが手触りの良さを主張しているので、これ一着でもそれなりの価値があるのだろう。


 クローゼットを閉じ再度部屋を見る。

 本棚は置かれておらず、この部屋で時間を潰すのは難しそうだ。

 一面に広がる窓からは、城の中庭らしい場所が見えた。美しい花が綺麗に整えられた花壇や、涼しげな噴水がある。学校の校庭、とまではいかないが、それなりに広い空間がゆったりとした雰囲気でまとまっている光景を見ると、異世界に来たのだなという感慨が湧いてくる。


 暫くぼうっと窓の外を眺めていると、扉がノックされる音が響いた。

 扉を開けると、自分とそう年の変わらなそうな男が立っていた。服装を見るに、彼もこの城で働いている人物の一人なのだろう。


「お城の案内を仰せつかった者です。これからご案内してもよろしいでしょうか」

「ああ、よろしく頼む」

「畏まりました。それではこちらへどうぞ」

 導かれるままに歩き出す。

 夜までの暇つぶしには丁度いい。

 先導する彼の背を見た時僅かに頭痛がしたが、殆ど痛みを感じなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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