転生令嬢と相談窓口
一言で、かつ簡潔に言うと――――――転生しました。
...待って解散しないでお願い話だけでも聞いて『まーた転生モノか』なんて言わないで下さいお願います!!!!!お願い何でもするからぁ!!!!!!
え?『話だけなら聞いてやる?』あ、ありがとうございます...いやいやいや!!不満なんて!!!ありませんよ!!!本当に!!!!
えっとどこから話せばいいか...えっなに「コテハン」?なにそれ??...はぁ、名前のこと?最初からそう言っ、イエナンデモアリマセン。
今の名前は"パトリシア・フィクール"です。えっと生前の名前は「大平洋子」です...でした?
えっ?いや普通に大きいに平たいで"おおひら"ですよ、ってそっちじゃない?名前のほう?...洋風の「洋」に「子」どもですけ...何笑ってるんですか!?『太平洋じゃんwww』ってやっぱり!!!分かってて言ったんですね!!!!そうですよ!この名前のおかげで小学校の時から渾名はずーっと「太平洋」ですよ!!!
え?『コテハンは太平洋で決定な』?いやですよ!!!なんで転生してもその渾名なんですか!?『じゃあパシフィックね』?まぁそれなら...っていやいや騙されませんからね!?英語で言っただけじゃないですか!!!馬鹿にしてるんですか!?
...え?『早く話せいつまで名前の話してるんだ』?...はぁ、わかりました。
私、生まれた時から前世の記憶持ちで...いや『厨二乙』って別に厨二設定拗らせてる訳ではなくですね、って分かってて言ってますよね!?こっちだって「前世の記憶」とか言うの恥ずかしいんですよ!!
それでですね!!!私だって最初は「わー流行りの転生モノだー」とか思ってたんですよ!!!よく漫画で見るやつだーって!!!...え?漫画でよくあるじゃないですか。「転生して最強勇者」とか「転生して悪役令嬢」とか...はぁ原作?えーっと漫画しか読んだことないんですけど...小説?転生モノの小説があるんですか?読んだことないですけど....ラノベ?なんですかそれ...ってうわっなんで舌打ちするんですか!?『早く先を話せ』?わかってますよ!!!
とにかく!!思ってたのと違ったんですよ、思ってたのと!確かにこの世界じゃ魔法が使えるけれど、それは私だけとかじゃなくてみんな使えるし。私は別に勇者でもヒロインでもなくて、ましては悪役令嬢でもなかったんです。本当にただの令嬢でした。ストーリーにかすりもしなさそうな。漫画のモブどころか背景にも居なさそうな人間だったんです。
...『メインになろうだなんて図々しい』って、そんな言い方...いやそうですね私なんかがヒロインなんて烏滸がましいですね...本当にそうなんですけどちょっと期待しちゃったんです。私は前世の記憶を持っているから周りのモブとは違う、って
...私って厨二病だったんですね。
私なんかただのモブで...そこら辺の石ころと同等――――――――い゛っ゛っ゛っ゛っ゛っ゛だ!!!!
痛いじゃないですか!!!急になに...『お前それ平民の前でも同じこと言えんの』って.......すみません、私そういうつもりじゃ...は?『つまりホームシックってこと?』?ちがいますけど!!!??いや家族には一度会って文句を...ってちがくて!!!
...話が逸れました...けど、私は自分のことしか考えてなかったみたいですね...恵まれている身分に生まれてきたのに私...え?階級ですか?お父様の?えーっと、確か「侯爵」って...。あ、いや「公」じゃないほうだった気が...って痛い!痛いです!!ひどい!!!『うるせぇ!大層なご身分じゃねーか!何が不満なんだ!!』って何をそんなに怒っているんですかー!?痛い!!!やめてください!!!
...こんにちわ。『なんだまだなんかあるのか』っていや昨日のあれは自己紹介しかしてませんよ!?序章とかですよ!?あっ痛い!ごめんなさい!帰れ!?何ですかまだ怒ってるんですか!?
あの!いやちがくって私が言いたかったのはあんなことじゃないんですよ。確かに昨日は嫌な事があってあんな風に言いましたけど...私にだっていろいろあるんですよ!!!意味わかんない世界に転生?とかして?こっちの常識とか知らないし!!魔法の勉強とか訓練とか淑女教育とかもさせられて!!!こんなことなら記憶なんてない方が良いに決まってるじゃないですか!!...『最初からそう言え』?...そうですね、すみませんでした...。
『早く話せ』って...なんだかんだ言って聞いてくれるんですね。世話焼きキャラとかいうやつですか?
いった!!褒めてるんですよ!痛いですって!照れてるんですか!?あっごめんなさい!やめてください!!!
はぁ...本題に入りますね。
えっと、ここからは私の推測なんですけど私の知り合いにヒロインが居るんです。多分。
いや多分なんですよ多分。私乙女ゲームやったことなんてないし...えぇ!?やったことあるんですか!?はぁ...『クソゲーもあって面白い』って褒めてるんですか、それ。褒めてる?名作もある?はぁ...知りませんけど。
あぁはい理由ですね。ありますよ理由!多分ですけど...。
まず理由その一は彼女はとても珍しい回復魔法と助力魔法の使い手だってことですね。いや回復魔法だけならまだ居るんですよ。でも助力魔法って何ですか。先生だって驚いてましたよ。...あぁ助力魔法はですね人の魔法に効果を上乗せできるんですよ。簡単に言えば2倍にするっていうか...かけられた子は「力が漲ってくる」って言ってましたね。...え?いや変なダンスは踊ってませんでしたよ?は?リコーダー?吹いてませんでしたけど。てかこっちにあるんですかねリコーダー。
あっ次ですね。理由その二は暗い過去ってやつですね。たしか両親共に馬車の事故で...って聞きましたけど。それで聖女の素質があった彼女は公爵家に引き取られ...ちょっと不謹慎でしたね。すみません。
理由その三はですね。いや正直言ってこれが全てなんですけど...。三つめは「彼女と彼女の周りに居る男の子全員髪の毛がカラフル」ってことです!!!
いや、なんですかその目は!!本当ですよ!!この世界の住人の99%が黒か茶色、せいぜい金の髪の世界で彼女たちだけめっちゃカラフルなんですよ!?
いや逆に何色だと思います?彼女の髪色ピンクですよ!?他にも赤やら青やら銀とか!信じられます!?私も最初に見たとき「あれで地毛!?」って思いました!!一目で察しちゃったんです!!
「あぁこの世界彼女達を中心に回ってるんだ」って!!!
『それで落ち込んでたのか』って...そうですよ!!そうです世界は自分を中心に回ってるって思ってたクソガキが現実見せられて落ち込んでたんです!!!メンタルくそ弱いですからね私!!!ガラスのハートが粉々なんですよ!!!
...!!『そうしてた方が可愛い』って!!!...もしかして馬鹿にしてます?は?本気でそう思った?...そうですか天然たらしですか、へーえ。...怒ってませんよ。でも女性に可愛いとか簡単に言わない方が良いですよ。はぁ!?『お前はメンタルくそ雑魚なめくじのクソガキだから女性じゃない』!?『昨日の落ち込んでたお前はブスだった』!?怒りますよ!?
はぁ...えっ?耳飾り?うーん着けてたかな?...あっ着けてました!!!桜がモチーフのかわいいやつ!!!彼女の髪の色にぴったりの!!!
あれ?でもなんで知ってるんですか?...えっ何ですかその顔。
え?彼女の髪を詳しく?えーと、頭皮の部分は濃い桃色で毛先にかけて桜色になっていく感じですね。どうしました?『なんでもない』?はぁ...。
えっ?あぁですよね!!!これって乙女ゲームとかそういう類の登場人物ですよね!!!
素人の目にもそう映ったってことはこれは黒だったんですね!?
...そうなんですよ。これだけだと「だから?」で終わりますよね。知り合いがヒロインで、その子の周りにイケメンが居てわたしはただのモブだった、で終わりなんですよ。せいぜい自意識過剰な子が幼いころに挫折を味わいました、程度なんですよね。
...それだけじゃないから困ってるんです!!!いやいやここからだから!!!ここから本編だから!!!帰ろうとしないでください!!!お願いします!
えぇっ!?『ヒロインと愉快な仲間たちに絡まれてるんだろ』ってなんで分かったんですか!?
何か分かんないけど絡んでくるんですよ!正直私にとって彼ら自体が黒歴史みたいなものなのに...幼少期の自分を思い出したくない...うぅ...
...!!??きゅ、急に頭を撫でるのはやめてください!!え?『例えば』ですか?えーと...って頭を撫でながら話を続けようとしないで下さい!!!
...えーとまず最初に彼女に会った頃になるんですけど
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俺、逢坂部亮がこの目の前で喚いてる彼女に出会ったのは数日前だった。
「なんっっで成仏できねぇんだよ!!!!!」
...まぁ成仏できねぇだけならまだわかる。いや分かりたくもないがそこはまぁいいとしよう。
なんで俺霊体のまま異世界転生しちゃってんの!?
そこは異世界転生からの勇者で"俺TUEEEEEEEEE!"展開じゃねぇのかよ!!
いみわかんねぇ、とぼやきながら自由気ままに浮遊していると一人のご令嬢と目が合った。
ん?目が合った???
「あ、の...」
少し透けている体で浮遊する男。
別に白い着物を着ていた訳じゃあないが見るからに霊体と思わしき俺に話しかけてきた彼女はどう考えても普通じゃないだろう。それか頭が可哀想な子かのどちらかだ。
俺のことが見える奴がいなかったせいで霊体であるはずの俺のほうがビビり散らしていたわけだが彼女の「日本人...です、よね...?」の一言で俺はなんとか理解した。
――――こいつ、転生成功してんじゃん。ずりぃ。
それから俺と彼女の奇妙な関係が始まった。と、言っても彼女が聞いてもないことをだらだらと話しているだけだったのだが。
割と珍しいと言われる苗字を持つ俺の前世のあだ名は「相談窓口」。友人いわく「何故か全部話してしまう」らしく、話したことのないやつですら俺のとこへ来ては皆「また話聞いてくれよな!」と爽やかな満足そうな笑みを浮かべて立ち去って行った。
俺は別に話など聞く気もないし碌なアドバイスなどする気もないのだが(これを友人に言ったところ生温かい目線を送ってきたのでとりあえず殴っておいた)何度追い返しても懲りずに来るためもう放っておくことにした。
そうして便利なストレスの捌け口にされ続けていた俺は普通に死んだ。
よく転生モノの小説で見るような通り魔に刺されたとか、交通事故とかではなかった。
普通に、寿命で、死んだ。以上。
「私の話聞いてませんね...」
じとり、と彼女に睨みつけられる。目の前に座る10歳程度の少女は前世の年齢を考えると成人済みなのだろうが、話を聞く限り彼女はまだ幼い10代の少女だった。
彼女の性格が幼く感じる原因は彼女の元の両親にあるようだった。
彼女の圧迫され押しつぶされ続けてきた幼さが今の両親によってやっと解放されたからだろう、と逢坂部は結論づけた。別に俺は精神科医じゃねぇから詳しいことは知らねぇけど。
大人のふりをし続けた少女が大人になろうとしている様は別に嫌なものではなかった。
そんなこんなで彼女とは未だに続いているわけだが―――――
彼女の話から推測すると彼女は"悪役令嬢"だろう。
転生して悪役令嬢。うん、テンプレすぎる。
訂正すると彼女は悪役ポジションにいない。ただの令嬢に過ぎなかった。なんの因果か彼女はヒロインを貶めるようなことはしてないし、する気もない様だった。
グラデーションのかかったピンクの髪色をした聖女―――――フィローナ・ローズレインをヒロインとした有名乙女ゲーム"忘却の彼方~失われし楽園~"の世界であると確信した。
このゲームは男性の俺でさえ楽しめるものだった。いや俺がホモとかじゃなく。
某大型掲示板でもプレイした奴らが集まって考察やら感想やらをぶちまけている。
ボリューミーなストーリーに加えアクション要素と謎解き要素が邪魔をしない絶妙なラインで入ってくる。ゲームとして純粋に面白かった。攻略対象が少ないって言われていたが俺は攻略対象自体はに興味ないので全く問題がなかった。あれは名作だ。
で、このゲームのライバルに当たるのがパトリシア・フィクールだった。
本来自尊心が高すぎる彼女はヒロインどころか家族にまで傲慢な態度をとり破滅する。ルートによっちゃあ処刑とかもあったな。まぁ少なくとも勘当されて追放が最低条件だった。
しかし目の前の彼女は悪役令嬢ではない。おまけにヒロインどころか攻略対象に気に入られている。
「...。」
「?なんですか?」
じぃ、と見つめると彼女は軽く首を傾げた。
ストーリーから逸れてしまった以上どうなるかは俺にもわからない。
少なくともおれは彼女に辛い思いをしてほしくない、と思うくらいにはこいつのことが気に入ってしまっていた。
「...なぁ洋子。」
「!?...な、なんですか」
名前を呼ぶと彼女は大げさに驚いてこちらを睨みつけた。
「いざって時は俺が連れ去ってやるよ」
「つれ!?!?は!?」
彼女はしばらく茫然とし「それってプロポ...」と呟くとはっ!と何かを思い出したかのように冷ややかな目線になり「この天然タラシめ...」と憎々しげに呟いた。天然タラシはお前だばーーーーーーか。
...あぁ、でもまずは体手に入れてからだな。
とりあえずこいつの周辺も探ってみっかぁ~
ライバルは早めに潰しておくに限るしなぁ
●パトリシア・フィクール
太平洋に愛され呪われた女。Pacific(太平洋)からきてる。適当につけた。ごめんよ。
"子供っぽいけど根は良い子"っていう子が書きたかった。成人した子供。
ヒロインからも愛される逆ハーレムを築く予定。恐ろしい子...!!
●逢坂部
みんなのおおさかべくん。「話を聞く気はない」とか言いつつ神がかった相槌とコメントで絶大な支持を得る。根暗なのになぜか友達が多い系男子。
ゲームと名の付くものなら乙女ゲームだってやっちゃうオタク。
男の子だって乙女ゲームをやったっていいじゃない、だって男の子だもん。
洋子ちゃんを気に入っちゃったんで体を手に入れるぜ!ってなった。