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第7話 「今オレを笑ったか?」

「ネコババされるわ、遅刻するわで朝から超MT(マジテンション)SSB(サゲサゲブルー)だったけどぉ」


 言葉とは裏腹に、ギャルはテンション高めに凛音の肩をポンポン叩く。意味は何となくしか分からないが、とても機嫌が良い。


「裏門近道したらマジチョーラッキーだしぃ。マジツイテル」


 心底楽しそうに笑うギャル。興奮しているのか普段以上に()()の数が多い。


 対照的に凛音の顔は恐怖に引きつっていた。歯をガチガチ鳴らしながら視界をチラつく指を凝視する。

 ラメやパールでデコレーションしたスカルプチュア。まだカードの力を使っていないのだろう。ゴテゴテしてはいるものの、流石に人を刺し殺せる代物では無い。


 それでもいつ爪が出てくるかなんて分からない以上、凛音は生きた心地がしなかった。


「これで今朝の借りも返せるわ」


 ボソリと、それこそ吐息を耳にかけるように囁かれる。同じ人物とは思えないほどの静かに低い声。

 凛音の震えが脚にまで伝染する。これは日陰の冷気で身体が冷えたからではないだろう。


 校庭には誰も居なかったし、体育館はここから真逆の東側だ。人目を避けたのが裏目に出てしまった。偶然通りがかる人にも期待は出来ないだろう。


 もし助けになる人物が居るとしたら、それは……


「また変なヤツが出てきやがって。オレの獲物を横取りする気か?」


 首を傾け、睨め付けるような瞳で不良が迫る。不良の特徴的行動のひとつ、所謂メンチ切りだ。


「ハァ、元々この娘アタシのもんなんだけどぉ」


 本日2度目の窮地はまさに前門の虎、後門の狼。いや、この場合は前方のヤンキー、裏門のヤマンバか。


 ギャルの方は凛音に対して明確な敵意を持っている。その点不良の狙いは無防備な獲物から、突如現れた泥棒猫へと移りつつある。

 上手くいけば虎と狼が争ことになれば、隙をついて逃げ出せるかもしれない。


 ギャルは値踏みするような目で不良を見つめる。顔からゆっくりと視線を下げていき、膝のあたりで瞳の動きを止めた。


「ってかさ、何そのカッコ。プッ……ダサッ」


 首の角度からして、ギャルが反応したのは不良のスカート。実は凛音もその点は気になっていた。喫煙以外は特に校則違反は見られない。

 だが一箇所、スカートの丈に関しては明らかに不自然だった。


 長過ぎるのだ。


 くるぶしの辺りまで伸ばしており、地面に擦れて生地は傷んでいる。校則には膝上の記載しかないため違反では無い。が、問題ではあるだろう。


 眉をピクピクさせながら、不良は一息に肺の中へと煙を招き入れた。巻紙がみるみる灰色に変わる。


「マジチョーウケる。スケバンとかアンティークじゃーー


 ダンッ。


 と、吐き出したタバコごと地面を踏みつけた。

 シン……と静まる空気の中、足をコンクリにグリグリ押し付ける。


「今、オレを笑ったか?」


 暖機運転のマフラーの如く、口から煙を漏らして彼女は尋ねる。

 吸い殻の火を始末すると、怒りを宿した眼をギャルに向けた。アクセルは既にフルスロットル、すぐにでも飛びかかりそうな様子だ。


「上等だ、そのクソみてーな顔色にお似合いなほどボコボコにしてやる。

 スンスンッ、見てくれだけじゃねぇな。腐ったアンパンみてぇな臭いがこっちまで来やがる。なんだこれはテメェのワキか? 顔だけじゃなくて臭いまでウ◯コみてーな奴だな」


「うっわ、マジサイアクなんですけど」


 凛音も思わず苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。顔は綺麗なのに、なんて汚い言葉を使うんだろうと。

 心の中では半分クラクラしながらも、もう半分はガッツポーズをする。上手く標的がギャルへと移ってくれた、これでひとまずは安心だ。


 しかし、ここでもまた凛音は期待を裏切られた。


「とは言えタイマンの邪魔するほど無粋じゃない。先約があるならサッサと終わらせな。

 その後だ。ウ◯コ女かチンチクリン、残った方をオレが狩る」


 怒りは何処へ行ったのか、不良は静かに壁にもたれ掛かる。胸ポケットから次のタバコを取り出し、咥えて火をつけた。このまま傍観者に徹するようだ。


 凛音は反射的にギャルの腕を振り払った。不良に背を向ける形で、ギャルへと相対する。


 幼い頃から行動が裏目にでることが多かった彼女。その分、気持ちと頭の切り替えが素早く出来るようになった。この特技は生贄の島で生きていく上で、唯一の武器だ。


 相手は戦い慣れているし、何より人を殺すことに躊躇はない。

 一方の凛音は丸腰だ。背後の不良の手助けも期待は出来ない。絶望的な状況に変わりはない。


「ふぁ〜ぁ。んじゃま、サクッと朝の続き終わらせて。スケバンもついでに殺っちゃいますか」


 あくびをしながら、頭をボリボリ。ギャルはメンドくさそうにしていた。

 凛音がこの場を凌ぐには、もはや油断に付け入るしかない。


 涙は既に乾いている。


 素早く制服の胸ポケからカードを取り出す。今朝の光景を思い浮かべて、司がしたように天高く掲げてみせた。


「【顕現(リアライズ)】!」

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