表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/24

第22話 「アンタを殺しにきたわ」

 週末である金曜日。放課後の教室は浮ついた雰囲気に包まれていた。席の近い娘や仲の良い娘で集まって、遊びの予定に花を咲かせている。


 司とのデートを明日に控えた凛音も、無意識に口角を上げながら荷物をカバンにしまっていた。

 と、ここで暗い顔がスゥッと彼女に迫る。


「ねぇ、さおりん。先輩が呼んでるんだけど……」


 見ると、いつも元気印の芳江が珍しく顔を強張らせている。

 帰りの挨拶が済むなり、いの一番で出て行ったはずだが、伝言を頼まれて戻ってきたようだ。


 凛音が教室のドアに目をやると、特徴的な目をした金髪女性が立っていた。向こうも凛音を見つけたようで、ヒラヒラと片手を振ってアピールする。


「ヤッホー! 凛音ちゃん元気ぃ?」


 生徒会の先輩、伊坂流智亜だ。


 1年生の階に先輩が居ればそれだけで目立ってしまうもの。その先輩に名前を呼ばれ、今度は教室中の視線が凛音へと集中する。


 サァと顔から血の気が引いていく。小走りで向かうも、2人の間に小さな影が割って入った。


「いきなり下級生の教室にきて騒ぐとは、常識知らずな先輩だな」


 先輩相手でも一歩も引かず。首を上げて睨みつけたのは他でも無い、士道司だった。

 15センチの身長差などものともしない。両手を広げクラス、もとい凛音を守ろうと立ちはだかる。


「なんや自分……って、あぁアンタか。選ばれしもの、だっけ?」


 流知亜はおどけた仕草で司の顔を指差した。しかし涼しげな青眼は揺るがない。


「用があるんはアンタやない、後ろの凛音ちゃんや」

「そっ、そうゆうことだから。つか……士道さんはちょっと退いててね〜。ハハハ〜」


 後ろから両肩に手を置いて司を引き剥がすと、先輩の手を取って全速力で教室を後にした。

 他人モードの氷の視線を背中に感じながら。




「ハァ……ハァ……ハァ……」


 凛音は無我夢中で走った。

 その甲斐あって、人の視線を上手く潜り抜けることが出来た。今は階段裏で壁に手をついている。


「アッヒャッヒャヒャ! そぉんな警戒せんでもええやん?」

「笑いごとじゃないです!」


 気を遣えない年上に対して、自然と声が荒くなる。

 昨日の帰り際での言葉といい、流知亜人の反応を見て楽しむ節がある。櫻子とは違った意味で危険なタイプだ。


「凛音ちゃんはホラ、アレやろ。目立つのがイヤっちゅうこっちゃろ、襲われるから」

「そうですよ、当たり前じゃないですか。これじゃ余計に危険な目にーー

「そーでもないで。少なくともクラスの子にはウチとの仲はアピール出来た。バックに生徒会がいると知ってて、手ぇ出す輩はおらへんはずや」


 流智亜はニィと笑って八重歯を覗かせる。少なくとも彼女なりの考えがあったわけだ。もちろん邪念もあるであろうが。


「そんなワケで、学校案内いくでぇ!

 まずは屋内、音楽室からや!」


 今度は流智亜が凛音の手を引いて歩き出した。


 音楽室があるのは西棟の3階。

 昨日訪れた生徒会室、その廊下の反対側の突き当たりに位置している。

 勇んで来たいいけれど、扉には鍵がかかっている。当たり前だが中には入れない。


「ほな、次行こか」

「えぇ?」


 流智亜は凛音の手を取って歩き始める。


 訪ねた部屋の中には、鍵が掛かっておらず、自由に見て回れるところもあるにはあった。しかし、学食のような特別目を引くようなモノはやはりない。設備も中学時代に見たものと、そう大差は無かった。


 何度も階段を登り降りして、凛音はすっかり疲労困憊に。


「ハァハァ。あの……少し休憩しませんか」


 先を歩く流智亜は余裕そうだが、行き先もペースも握っていれば当然と言える。


「なんや、もうバテたんか? これだから最近の若いモンは」


 イジワルなことを言いながらもそこは先輩。休憩を兼ねて学食へと案内してくれた。


「ここは先輩の奢りやで。好きなの頼んでなぁ」

「奢りって……全部タダじゃないですか」


 凛音は手慣れた手つきで券売機に学生証を通し、コーラのボタンを押す。

 その様子を見て流智亜は鼻を鳴らした。


「なんや、ここ来たことあったんか」

「お昼はいつも友達とここで食べるんです」


 出てきたカップを手にして、2人は手近なカウンターに腰かける。

 ようやく一息つける、炭酸が喉にくる、凛音の顔も自然と綻ぶ。


「案内とか言いながら、生徒会に引き込む既成事実を作ってましたね?」

「ナハハハッ! バレてたか」


 凛音のジト目に、流智亜はアッサリと白状した。


 授業後とは言え、金曜日である今日はすぐに帰宅する生徒は少ない。

 そんな中を転校生と生徒会の役員が手を繋いで歩いていたら、見つけた生徒は何を感じるだろうか。


「凄い自信があるみたいですけど、生徒会の方々って、やっぱりお強いんですか?」

「おっ、疑っとるんか?」

「心配なんですよ」

「自分の身が、やろ?」

「…………」


 人を小馬鹿にしたような流智亜の態度に、凛音は唇を噛みしめる。


 挑発して本音を引き出させるのがこの人の狙いだ。ただ単に反応を楽しんでるだけかもしれないが、ムキになったら思うツボ。ここは我慢どころだと心の中で言い聞かせる。


「まぁ任せとき。なんせ生徒の在り方を変えようとしとる連中の集まりや。ウチも含めて、それを口にする実力があると自負しとるで。とっておきの()()()も用意しとるしな」

「それなら安心ですね」

「言うても約束通り、ちゃんと校内案内はしてたやろ。面白いかは別として」

「昨日言ってた場所には、まだ連れて行ってもらってませんけどね」

「コンサートホールか? まぁ今までは前菜、メインディッシュは屋外や」


 喉を潤した2人は外へと向かう。昇降口の前で落ち合うと、正門へと向かう生徒たちの間を縫って、グラウンドのある東側へと向かった。

 一昨日は逆方向の裏門へと向かったので、凛音にとっては初めての場所だ。


 グラウンドの向こうには体育館、そして同じほどの建物がいくつか見える。あれがホールや図書館か。施設はこちら側の方が充実していた。確かにメインディッシュと呼んでも差し支えはないだろう。


 グラウンドにはジャージ姿の生徒がチラホラ集まってストレッチをしていた。

 動きが緩慢というか、悪い言い方をすればやる気が感じられない。


「アレは何部ですか? 道具の準備もしてないようですけど」


 凛音は遠目で見ながら、前を歩く流智亜に尋ねる。


「部活やないで、凛音ちゃん。だいたい巧女で活動しとる部活なんて、文化部しかないで」

「そうなんですか!?」


 運動部が無いとか、そんな学校聞いたことない。


「そらそうや。こんな島の中おったら全国大会もクソも無いやろ。どうやってモチベ保つねん」


 時たま運動好きな生徒が集まって、自主的にトレーニングなどを行なっているそうだ。

 そういった生徒たちに活躍の場を与えることも生徒会の使命だと、流知亜は付け加えた。


 グラウンドを大きく迂回する道を行きながら図書館を目指す。左右にはイチョウの並木が立っており、青い葉の隙間から夕陽が路上を斑点に輝かせていた。


「ふぎゃ!?」


 グラウンドの生徒たちを目で追っていた凛音は、流智亜の背中に鼻をぶつけた。突然足を止めた先輩に抗議をするべく、首を正面に戻す。


 と、目の前には2人の行く手を阻むように、一人の少女が立っていた。


「伊坂流智亜ね」


 少女の線は細く、触れれば思わず折れてしまいそうなほどだ。しかし痩せこけた頬と目の下の隈を見れば、それが本来のものでなく病的な原因があるとすぐに分かる。


 痛んだ髪、カサついた唇。そして鋭くギラついた瞳……


「アンタを殺しにきたわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ