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第1話 「選ばれしものは、私」

初日は第2話まで上げます

 凛音は窮地に立たされた。


 窮地と言っても寝坊して遅刻しそうとか不良に絡まれたとか、そういう意味では断じて無い。


 絶体絶命、生命の危機なのだ。


 転校初日の通学路。爆風に吹き飛ばされた凛音は、アスファルトに身体を叩きつけられた。


「なっ……なによ、これ」


 ズキズキと痛む頭を上げると、目の前の光景に目が眩む。

 大きく歪み、断裂したガードレール。根本から折れ曲がり、砕け落ちた信号機。横転して炎上する乗用車。

 一瞬にして地獄のように変わり果てた交差点。そのただ中に自分が居た。


 考える間も無く、爆発が立て続けに起こる。砕け散ったガラス片の一つが凛音の太ももを切りつけた。

 一筋の赤い線から拡がる鮮血は、いとも容易く彼女の理性を奪っていく。


「誰かーー誰か居ませんかぁ!」


 凛音はオロオロと周りを見る。が、視界に人影を捉えることは出来ない。早くに家を出て来たことが裏目に出てしまった。


 路上駐車された車のミラーに黒々と昇る煙が映る。


(早く警察を、それとも消防車?)


 兎にも角にも、まずはこの場から離れなければ。

 血を流し震える脚に喝を入れ、うつ伏せになる。次に腕で地面のガラスを払いながら、匍匐前進を開始した。


 一見物静かで童顔な彼女だ。実は幼い頃から我が強く、納得がいかなければ両親の言葉にも平気に反抗した。逆境には滅法強い。

 言われるままに進学した高校をすぐに辞め、一人見知らぬ街で暮らし始めたことからも、芯の強さがうかがい知れる。


 紺色の制服は砂にまみれ、ひざ頭からも血が滲む。しかし気にしている場合ではない。


 数歩進むと爆音と共に、伸ばした腕をなにかがかすめた。ガラスやアスファルトのカケラでは無い。何か大きい、重いものだ。

 地面にぶつかると、鈍い金属音とともに砂煙を巻き上げた。


 凛音は咄嗟に手を引き、思わず息を飲む。


 飛ばされてきたのは血だらけの女性。顔こそ露わだが、全身に西洋の甲冑のようなものを身につけている。

 彼女の瞳に光はない。既に事切れている。だらしなく開いた口元から血が流れ、アスファルトを濡らした。


 するとどうだ。

 死体の全身から眩い光が溢れ出し、次の瞬間には鎧だけが消失していた。


 残された女性の服装を見て凛音は驚きの声を上げる。


「これってウチの?」


 思わず自分のと見比べる。

 紺を基調としたセーラー服、カラーには赤と白の二本線。所々穴が開いて血が滲んでいるが間違いない。


「どういうことなの?」

「チョベリバ〜」


 凄惨な現場にはおよそ場違いな、寝起きのような弛んだ声。

 凛音が目を向けると、声の主は頰を膨らませ如何にもご立腹といった態度をとった。


「部外者巻き込みとか聞いてないんですけど〜。チョーMM(マジムカツク)


 小麦どころか真っ黒に焼けたコゲ色の肌。ボサボサの金髪は頭頂部だけがプリンのように黒い。付けまつ毛にアイプチ、アイラインで盛りに盛った顔面から強烈な目ヂカラを発揮させていた。


 典型的なJKギャル。その黒人とも思える風貌に凛音はおののいた。


 彼女も凛音や倒れた女性と同じ制服を身につけている。しかし着こなし方はかなり、特徴的だ。

 赤いスカーフを胸の前でリボンのように結び、スカートも下着が見えそうな程短い。重さで丸まったルーズソックスでこげ茶のローファーを履いた脚は、カット後のプードルみたいだ。


 だが凛音の目を釘付けにしたのは彼女のメイクでも服でもなかった。

 手、もとい爪。ギャルも凛音の視線に気づいたらしく、ニンマリ笑って右腕を差し出す。


「ネイル気になる? マジチョーイカしてなくない?」


 ギャルの自慢の爪はネイルとは名ばかりで、薄くて細いナイフのような形状をしていた。それも普通に歩くだけで地面引っ掻くほどの長さだ。

 その異様な形の凶器を前にして、惨状の原因がこの女性にあると直感する。


 刃を目の前に突き出され、咄嗟に凛音は顔を背けた。

 よくあるB級ホラー映画のような反応をギャルはお気に召したらしい。笑みを浮かべて刃の側面で少女の頬を撫でていく。白い肌が朱に染まる。


 塗られた血は側にある死体のものだ。凛音の顔を汚してもなお、爪の先から滴る雫が戦いの凄惨さを物語っている。


「てかさー。早く渡してくれない、ソレ」


 悪趣味な遊びは早々に飽きたらしい。

 気だるげな雰囲気を出しながら、空いた方の爪で凛音の足元を叩いた。


 キンキンッと小気味良い、乾いた音に目を向ける。トランプよりはやや大きめのカードが一枚、置かれていた。


「カード?」


 凛音はその黒いカードに手を伸ばす。と、指と指の間に爪の刃を突き立てられた。


「ヒッ!?」


 ほんの数ミリズレていれば、第二関節より上がなくなっていただろう。


「もういいってーの!

 よく考えればぁ、最後に選ばれるのは一人だけなんだよね〜。ネコババされちゃたまんないし」


 怯えて自分の指を見ている凛音とは対照的に、ギャルは空を見上げながら物思いに耽っている。

 時折物騒な単語が混ざってはいるが、その様子はさながら今日のスイーツは何食べよ、くらいのトーンだ。


 それだけに凛音は戦慄した。現にこのギャルは目の前で人を殺しているのだ。自分に対してもなんの躊躇もないだろう。


 急いで両腕で肩を抱き、背中を丸める。


 ギャルのメニューはすぐに決まった。


「とりま死んどいてよ」


 顔を撫でていた方の爪を大きく振り上げる。


 その時、空から一陣の風が吹いた。


 春一番にしては遅い季節。実際のところ強さも大したことはなかったが、落ちてるカードが吹き上がるには十分だった。

 カードがギャルの前を通り抜け、交差点の上空を待った。視線が空に移ったことにより、凛音は九死に一生を得た。


 かがんだ凛音も腕の隙間から空を見上げる。そして目を見開いた。

 カードの飛んでゆく先、丁度歩道橋の上に人影がある。正確に言えば歩道橋の手すりの上に、仁王立ちしている。こんな状況でなくともかなり危ない。


 逆光で顔は見えないが、大きさからして小柄な人物だ。風で翻るスカートから女性であること伺える。


 カードはまるで、吸い込まれるように人影の胸元まで飛んでゆく。身体に当たる直前、ハシッと人差し指と中指でキャッチされた。


 高らかに腕を伸ばし、太陽に透かすようにして大空へ向けてカードを掲げた。そして凛とした声で高らかに宣言する。


「残念。選ばれしものは、私」

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