もう!佐藤くんてばっ!
「どうしよっかなぁ…。」
さっきまでのテンションがダダ下がりです。加賀さんこそ私にとって悪役だと思うの。うん!間違いない。
でも、どうしてそこまで佐藤くんにこだわるんだろう?
乙女ゲーム風に言うと、佐藤くんを攻略しないとハーレムエンドできないとか?それとも、佐藤くんを攻略しないと、隠しキャラに会えない?とか?
もしくは本当に佐藤くんを好きになってしまったーーとか?
ーーそれは困るかなぁ…。勝てる気がしない。
加賀さんに本気で口説かれて落ちない男の子っているのかな?女の子から見ても、その美少女っぷりは認めるしかないのに。性格はともかく、清楚で静謐な見た目に、庇護欲が刺激されてもしょうがないのではないだろうか?男の子としては?
駅の方をチラリと見る。
未だバスケ部女子ときゃんきゃん騒いでいる加賀さん。
駅前だ。それも日曜日の9時過ぎだから、人の姿もまばらで、だから余計に目立ってはいるんだけど。
しばらくジッと見ていると、それまで固まっていた佐藤くんが、手で顔を覆い頭を振っていた。
「ーー今日、練習試合なんだろ?時間大丈夫なのか?」
バスケ部女子が佐藤くんの言葉に覚醒したようだ。佐藤くんに手を振り、挨拶しながら慌てて改札を潜って行った。
それに対して、加賀さんの優越感滲ませた、自分が優位に立ったと思ってのその表情。
クルンと佐藤くんに向くと、腕に絡み付いた。
その瞬間、ズキッと心臓に痛みが走る。自分の顔が歪むのが分かる。
今すぐ加賀さんを佐藤くんから遠ざけたい。見える所から消し去りたい!簡単に腕を取られる佐藤くんにも腹がたつ!やっぱり口でいろいろ言ったところで、美少女に言い寄られるのは、嫌じゃないってことなの?
むぅ〜〜〜ッ!鼻の奥がツンとなって目に膜が張る。
「いい加減にしてくれ!昨日も言った通り、迷惑なんだ!」
突然荒げられた言葉に、自分が言われた訳でも無いのに飛び上がってしまった。
佐藤くんが加賀さんの腕を振り払い、距離を取っていた。
「たっちゃんは本当はそんなこと思ってないんでしょ?そう佳奈恵ちゃんに思わされてるだけなんでしょ?ホントは私と一緒にいたいんだよね!」
振り払われたことに、ショックを受けたように顔を蒼褪め、取られた距離を一歩縮める。
「お前、頭大丈夫か?人の言葉理解できてるか?俺はハッキリ言ってお前が嫌いだ。生理的に受け付けない。いったい何がしたいんだ?山田を悪者に仕立て上げて、沢山の男どもをはべらして。どれだけ周りを振り回してるのか、分かってんのか?それとも分かってやってんのか?だとしたら人間として最低だよな、加賀。」
近付いた分離れる佐藤くん。なんだろう、纏う空気が氷点下?侮蔑の表情で加賀さんを見下していた。
「酷い!私は本当にたっちゃんが大好きなのに!どうしてそんな酷い言葉を私に言うの?」
昨日も同じようなこと言ってたよね…。
「加賀…さぁ、そのセリフ生徒会メンバー全員に言ってんだろ?最悪だよなぁ。」
「いっ!言って無い!こんなこと大好きなたっちゃんにしか言って無いよッ!」
すると佐藤くんが嘲るように鼻で笑った。
「ーー便利なモンがあってなァ、ボイスレコーダーて知ってるか?」
「ーーーーエッ?」
「コレがまた高性能でねぇ、バッチリ撮れてんだ。」
「なっ…なっ……何?」
加賀さんは顔を真っ赤に染め、身体を震わせた。
「今は文明の利器が必要不可欠な世知辛い世の中だから、割と持ってるヤツいるんだよーーもちろん、加賀が落とし回った男子の中にも、なっ。」
「ーーーーッ!ーーー」
「加賀、お遊びは終わりだ。これ以上騒ぎを起こすな。」
その言葉は断罪なのか、最後通告なのか。
佐藤くんは言い捨てるようにその場から歩き出す。
こちらに向かって。
うぇ⁈ーーヤバイ!ここで傍観してたことがバレてしまう!
勢いよく立ち上がりアワアワしていると、
「……なかなか来ないと思ったら、ここで盗み見ですか。山田 佳奈恵くん。」
ひやぁぁぁっ‼︎ 佐藤くんのコンパスの長さを忘れていました!
「あ゛ーーーー、お…はよう?」
「疑問形の挨拶は初めてだよ。おはよう、山田。で、何ですぐ来ない?俺がアタフタする姿は、面白かったか?」
怒ってるーーーッ‼︎ 目がすわってます!言葉も棘がビッシリです!アーーン‼︎
「だっ…て、佐藤くんモテモテで、あの子達がいる前で声、掛け辛かったんだもん。何だか悪いような気がして…そうしたら加賀さんまで来ちゃって、もっと出にくくなっちゃって。せっかく佐藤くんとデートだって言うのに、出鼻からこんなんで、もう、ヤダっ…。」
恨めしげに佐藤くんを見ると、苦笑いで私の頭に手を乗せた。
「……今日、楽しみにしてくれた?」
私はちょっと大袈裟に頷いてみせる。
「ーーーまったく、佳奈恵は俺をどうしたいんだ?」
そう言うと、大きな身体に包みこまれてしまった。
「ーーー可愛いすぎだろぉーーー」
佐藤くんの身体を通して聞こえた言葉に一瞬で全身が茹で上がってしまいました!
佐藤くんこそ私をどうしたいのッ!
ありがとうございました。




