頭ポンポンは最強です。瑠美ちゃんとは違う意味で。
それはまるで、神社の拝殿で気持ちいい程響く柏手のように、辺り一面に轟いた。
「ハイ!ハァ〜イ!そこまで!」
人垣が割れ、現れたのは瑠美ちゃんと沙希ちゃん。
そして、怒った顔の佐藤くん。
佐藤くんは足早に私に近づくと、脇下に手を差し込み私を抱き上げ、頭を私の首筋に擦り寄せると、ギュッと抱きしめられた。
「うにゃぁッ⁈ 」
抱き上げられた途端変な声が出てしまった。でもこれは仕方が無いの!免疫ないンだから!
「……怖かったぁ。」
息を吐き出すように言う佐藤くん。わぁう〜ッ!首がっ!首が!息が首にかかってこそばゆいんですけど!
一瞬で全身真っ赤になったのが分かる。熱を発して暑いから!
私は佐藤くんの頭を撫でて、落ち着かせようとしたが更なる腕の力に背中を叩いた。
「う゛ぅーーッ!佐藤くん!身体搾ってる!中身出る!」
「っっ‼︎ ごめん!」
慌てて顔を上げた佐藤くんの表情が焦っていた。プフッ、なんだか笑える。
「……人が死にそうなぐらい心配して探し回ったのに、笑うか?」
「だって、大きい図体で可愛いなぁ〜って、思って。」
そう言うと、赤く染めた頬を膨らませる佐藤くん。
乙女か?デカイのに乙女なのか?膨らんだほっぺを指で押してみた。
「そこッ!邪魔!イチャつくんなら、サッサと退場して!」
いきなり飛んできた瑠美ちゃんの棘のある声に、ウキウキした気持ちが一瞬で萎えた。ごめんなさい。
「ーーじゃァ後頼んだ、ぐんーうん、杉野!田中!」
佐藤くんが私を抱えた状態で、すちゃッと右手を上げ、歩きだす。今、言い直したよね。瑠美ちゃんも気が付いてるよ。だって、目がギロって!佐藤くんに向けられたから!
「待って!たっくん!私がここにいるのに行っちゃうの!佳奈恵ちゃんじゃなくて、私を助けにきてくれたんじゃないの⁈」
それまで縋り付いていた、銀ブチ眼鏡男子の腕を叩き落とし、胸の前で手を組むと、その瞳をウルウルさせて加賀さんが佐藤くんに、叫ぶように言う。
その表情は正しくヒロインそのもの。いや、変わり身の早さから女優?かな?
「たっくん!たっくん、私が好きって、大きくなったらお嫁さんにするってーー」
「…加賀さぁ、悪いけど、俺覚えて無いわぁ。あんたと幼馴染って言われても、俺にしてみれば初対面で【初めまして。】なんだ。」
佐藤くんが、加賀さんに背中を向けたまま言う。
「だから、これ以上付き纏わないでくれ。すンげぇー迷惑。」
言いながら歩き出す、佐藤くん。
抱っこされた私には、そんな加賀さんの鬼の形相をバッチリ見てしまった。こっ、恐い……でも、瑠美ちゃんには負ける。うん。瑠美ちゃんはツノが出る。
「たっくん!」
加賀さんが必死に名を呼ぶ。
でも佐藤くは止まらない。私の歩く速度の2倍の速さでスタスタとその場を後にした。
さて、着いた先は保健室。
床に投げ捨てられたカバンが二つ。
なんだか過程が分かりやすい。思わず笑えた。
佐藤くんが私をゆっくりとした動作で、下に降ろしてくれた。チョット淋しく感じたのはナイショ。
「山田、大丈夫か?何もされて無いか?」
私の頭をワシャワシャ撫でると、視線を合わせるように、少し屈む。
佐藤くんの目が不安気に揺れる。
「そんなに怖かった?」
「ーー全身の血が引いた。怖いなんてものじゃ無い。俺、山田を護るってカッコいい事言っておきながら、護れた試しが無かったからーーだからーー」
そう言ってまた抱き締められた。今度は壊れ物に触れるように、優しく。
なんて幸せなんだろう。あったかくて、包まれていて、フワフワしていて。
「突然、いなくなるなよな…佳奈恵。」
「佐藤くんーー」
ああっ!どうしよう!大事な事忘れてたッ!私が、今日で最後だって、言って無い!
「佐藤くん!私ねッーーー」
「佳奈恵、分かってる。ちゃんと知ってる。初めから。」
頭をポンポンと叩かれた。それは今までで一番優しいポンポンで、嬉しいが全身から湧き上がる。
「杉野はクラスの奴ら全員にちゃんと説明してくれた。だから俺たちは佳奈恵をクラス全員で護る事にした。」
私は、佐藤くんの背中に回した腕に力を込めてギュッと抱き締めた。
「ーーありがとう。」
出し尽くした涙が再び目に幕を張る。
「楽しかったね。」
「ーーああ、楽しかった。アッと言う間だったな。」
うんって頷くと、佐藤くんが更に強く私を抱き締めてくれた。
ありがとうございました。




