崩壊
お母様の悲鳴で我に返った。
「ほら、ノア。
これから戦場へと旅立つキミに最後のプレゼントだよ?」
そう言ってアストラ様から手渡されたのは、
「…お、とうさ、ま?」
いつも優しい顔で私を抱きしめてくれる、お父様の首、だった。
「ノア様は嬉しすぎて声もでないそうですわ、アストラ様!」
「あぁ、キミはノティック公爵のことが大好きだったからね。
喜んでくれたなら、僕も公爵の首を落としたかいがあったよ」
そんなふざけたことを言ってアストラ様に寄り添うのは、彼の新しい婚約者のアマリア様。
「さて!我が父を裏切り、この国を滅ぼそうとしていたノティック・ミルミット公爵の処刑は終わった!!
これから、その家族の断罪を行う!!」
アストラ様のその声に呼応するかのように国民の声が聞こえる。
殺せ、首を切り落とせ、前国王アスティオ様を返せ、、、そんな声が嫌でも耳に入ってくる。
「アスティオ様を殺したのはお父様じゃない…!!」
大勢の国民の叫びに私一人の声が勝てるはずもなく、私はその場で父の首を抱きしめて蹲ることしかできなかった。
後ろでお母様の泣いている声も聞こえてくる…が、私はお母様に駆け寄る気力さえもわかなかった。
「家族も処刑しろという皆の意見はもちろんだが、私から一つ提案がある!」
アストラ様のその後を追うようにアマリア様が言葉を続ける。
「先日、隣のヴァーファイト帝国と交戦状態になったのは承知の事と思いますわ」
「まだ始まったばかりとは言え、油断はできない!
そこで、ノア・ミルミットを我が軍の魔導師として最前線へと送ることにした!
曲がりなりにも、一時は聖女として名を馳せた者だ!
精々役に立ってくれることだろう!!」
アストラ様とアマリア様のその言葉に賛成とばかりに拍手喝采が起きる。
「ノア、キミに拒否権なんてないよ?
戦場で手を抜いたり、ふざけた真似をしたら、キミのお母様がどうなってもしらないよ?」
そう私の耳元で呟くアストラ様。
彼の顔は凄く歪んで見えて、私が愛しいと、一緒に有りたいと思った彼の姿は影も形も無くなっていた。
いつから彼は変わってしまったのだろう。
ーーーー2年前。
「いつもありがとう、ノア!
君のおかげで、この国はいつも豊かで国民の笑顔が絶えない国であることができるよ!
僕も、君の隣に相応しい男になるように頑張るよ!!」
「私はなにもしていませんわ、アストラ様。
…でも、この国、ニルヴィルで豊穣の女神の加護を受けて、聖女として貴方の隣に立つことができるのはとても嬉しいです」
正式にアストラ様との婚約が決まり、心を通わせることができていると思っていた。
ご覧いただきありがとうございます!
自分のペースで更新して参りますので、気長にお付き合い頂けたらとおもいます。