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探偵、異世界の遊戯に触れる

 あの後。気付けば俺は眠っていたらしい。


らしいというのは今日の昼近くに、ペットのドラゴンに起こされた為だ。


俺が起きないと餌が貰えないからだろうか。暫く不機嫌で機嫌をとるのに苦労した。


 ・・・正直、(うな)るのは止めて欲しい。


 その様子を見ていた宿屋のおばちゃんに苦笑されたのは記憶に新しいが。


 さて、慌てて遅めの昼食を済ませてから今日俺かやって来たのはギルドではなく普段ならあまり用もなさそうな酒場である。


今回の目的は門番のおっさんに酒を奢るという約束を果たす為だ。


 相変わらず謎な人物でもある。どうしたら隣国の兵士の装備一式を手に入れることが出来るのやら。


木製らしいその扉を開けて中へと入る。


一歩入れば酒や料理の匂いがしてくることだろう。これは、匂いだけで酔う人もいるかもしれない。


木造の店内。その片隅には邪魔にならないように酒の入った樽が置かれており、お洒落のようにも見える。


「さて、何処だ?」


辺りを見渡そうとしたその時。


「おお。来たか。おい、こっちだ。こっち」


そう声が聞こえた方を見れば、楽しそうにカードゲームをしていた。


 門番って案外暇な仕事なんだろうか?


 酒場の席はテーブルとカウンターの両方だ。


カウンターならマスターとの会話が楽しめそうだな。


 春夏秋冬にちなみ、絵柄の色が4つに分けられたカードがテーブルの上に置かれている。


「こいつで対戦しようぜ」


「俺、このゲームやったことないんですよね」


といいながらテーブルの席に着く。


 異世界に来てこの世界のゲームも知らないし、当然と言えば当然だが。


 そのテーブルには緑色の小さな植物が透明な器に入れた状態で真ん中に置かれ、カフェのような上品さや癒しを感じる。


“カードはそれぞれ5枚づつの計20枚となっており、種類と強さは王族、貴族、商人、平民、盗賊の準だ。


他のカードゲームでもよくあるように、混ぜてからその場の人数分に配布をする。


配布後に何があるかを見れるが、自分以外は見てはいけない。


相手に見えないようにしながらお互いに一枚を選び出していく。


そして、勝利数の多い方が勝者だ。”


 ・・・という簡単なルールのトランプを元にしたようなカードゲームらしい。


今回は二人でやる為、二組だけ使うが。


「ルールも覚えただろうし、いっちょやるか」


「ええ。では、お手柔らかにお願いします」


「そんじゃあ負けた方が酒を奢るってことで」


言い終えておっさんは、にやりと怪しげに笑う。


「料理の方は・・・これでいいですかね?」


 俺が取り出したのは、冒険者として受けた依頼で仕留めたモンスターから入手した肉だ。


血抜きから解体を終えてアイテムとして入手、という部分はゲームっぽいが。


「おっ。なかなかいい肉じゃねえか」


「兄ちゃん、ついてるなあ」


 という声から判断すると、入手するのが難しいのだろうか。部位か確率の問題か?


「美味そうな肉だな」


「焼いてよし、煮てよし、ってな」


その一言で俺が持っている肉がいいものであるらしいことを察した。


これは肉の質が悪いと筋があったり、焼くと固く食べにくいことも多いからだ。


「がはははっ。違げえねぇ」


「ようし、こうなりゃ俺らも賭けるか」


「俺は兄ちゃんに」


「俺はおっさんだな」


「ううむ、俺は・・・・・若いのに」


ワイワイと周囲はにぎやかだ。


「負けても文句は言うなよ?」


勿論(もちろん)


結果は俺の勝利だった。


「まさか負けるとはなぁ」


「ほらほら、約束は守って下さいよー?」


にやにやと若干ふざけながら言ってみる。


「約束だからな。分かった、こうなりゃ・・・。」


何かを覚悟したのか、おっさんは眼を閉じた。


「?」


「マスター、普段よりいい奴くれ。樽でな」


眼を開けるとマスターに向かってそう言った。


「「「「樽っ!?」」」」


 その場に居た全員に衝撃が走る。


門番のおっさんが酒場のマスターに頼んだのは、まさかの樽であった。


「おう。樽持ってきてくれ。ここにいる奴にも飲ませてやりてぇしな」


「お、おっさん」


「い、いいのか?本当に?」


間極まったのか、眼に涙を浮かべながら言う。


「ああ。料理はこいつので、な?」


「祝いだあぁ!」


「今日は飲むぞー」


「あ、お前飲みすぎんなよ?まーた(よめ)さんにどやされるぞ?」


「ううっ、そいつぁは勘弁してくれよ」


「ははは、尻にひかれてやんの」


「うるせぇ」


「お、そこの。ちょっと歌ってくれや」


「え、私が、ですか?いいですけど・・・即興ですよ?」


そう前置きしてから吟遊詩人(ぎゆうしじん)らしい格好をした彼女は大きく息を吸い込み歌い出す。


“生きてきた意味があるというのならば


それはどんな意味なのだろう?


ちぐはぐな世界でも


笑うことも泣くことも難しくて


この場所で出逢ったことに意味があるなら


それは素晴らしいことなの?


見捨てられてしまった大地で


苦しいばかりで理由がない意味がないと(なげ)いてみても


誰も気付けない約束の向こう側


それは孤独(こどく)なお伽噺(とぎばなし)


さ迷い歩き探しても誰も気付けない


森で戦えば矢や剣が突き刺さり


痛みを耐え平気なふりで吠えた


家に戻り溜め息を一つ


回り続けるだろう針を見る


離れては近付くの繰り返し


その中で良かったと思える事はありますか


今も良かったと言えますか


(くも)り空の上へと届けましょう


(いの)りに似た歌を


声にもならない悲鳴は(もや)(かく)され


虚像(きょぞう)(いな)かも曖昧(あいまい)な夢に近くて


ペンを(にぎ)()めていた


酒場での賑やかな一日の付き合いに


一杯の酒と感謝を”


酒場に響きわたるのは見事な高めのソプラノの歌声。


 やがて飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎになっていった。


 ・・・俺は知らないふりをしておこう。酒場のマスターが怒ると怖いからな。



 翌朝に周囲の人たちがやり過ぎだ、と酒場のマスターに叱られていたのはまた別の話である。

以下、おまけ。


作者:体調を崩してしまった作者です。


如月雪冬:「主人公の雪冬だ」


作:まさか、作詞することになるとは。


雪:「とか言ってる癖に、割りと得意だろうが」


作:趣味で、つい。


雪:「好きなように歌ってみたら嬉しいらしいが」

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