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探偵と異世界

「・・・ん?」


 言いようのない違和感をどこか感じて慌てて起きる。


寝ぼけながらも辺りを見渡してみると、さんさんと輝く陽の光が目に眩しく感じてつい目を細めた。


そんな俺の眼前にまず飛び込んできたのは青々とした植物の緑が茂り辺り一面に広がっている光景であった。


どうやら先ほどまでの俺はこの緑の上に横になったまま眠っていたらしい。


遠くの方には木々の生えた場所があるようだ。密集して生えているとなると、森だろうか。


確かめようにも離れすぎていてはっきりとは見えない。森があるということは少なくとも生き物がいるということだ。


木の実やきのこならあるかもしれない。奥へと進んだ結果、熊にでも出くわす可能性がある以上行くのは得策とは言えないだろう。


風がそよいで名前もよくわからない草花は左右に大きく揺れ動いてざあざあという音を立てて、妙に心地の良い風が俺の頬を撫でるようにしてすぎていった。


 ・・・・・綺麗な草原ダナー。って、何でだよ!?可笑しいだろう。


思わず自分にツッコミを入れてしまった。しかも、ノリツッコミである。


 ちょっと待て。というか待ってください。すみません。


理解が出来ないんだが!?何故俺は一人で此処にいるんだろうか。


誰だって急にこんなことになれば混乱するだろうし、人によっては叫びたいところだろう。


実は叫びたい気分なんだが。叫ぶとするなら失望した、だろうか。


もし誰かに聞かれていたら恥ずかしいので流石に本当に叫びはしないけども。


心当たりもなければどうしてこんな場所にいるのかさえ見当もつかない。


 そもそも明らかに四季が違うだろう。手がかじかむようなこともなければ風が冷たいと感じることもないのだから。


これではまるで季節は春か夏といったところだ。この場合は夏だろうか。よく晴れていて暑さで汗をよくかく。


シャツが汗で背中にべたりとはりついて非常に不快に感じる。シャワーがあれば浴びたいな。出来れば冷水で。


そんなことを考えながら適当に歩く。


 何処なんだ此処は。この暑さといい、南半球にでも来てしまったのだろうか。それはそれで困ってしまう。


不法入国は駄目だろう。お巡りさんの世話にはなりたくない。というかそんなことをしたら捕まってしまう。


少なくとも国内ではなさそうだが飛行機に乗った覚えも船に乗った覚えもない。拉致というわけでもなさそうだ。


時刻はよくわからないが太陽が高い位置にあることから昼前後だろうか。日本との時差は何時間だろう。


国外だとすると電話は使えないだろう。圏外という可能性もあるか。


町にでも出ればいいとは思うがあいにくここから町は見えないので、どの方角に向かうべきかという判断が出来ないでいる。


 仕方がないのでとりあえず自分自身のことでも思い出してみることにする。俺の名前は如月きさらぎ雪冬ゆきと


旧暦で2月を意味する如月に真っ白な雪の雪に春夏秋冬の冬、だ。冬と書いて「と」と読むこと以外は普通に読める名前だろう。


とはいえ、ある意味では珍しいかもしれない。普通に読もうにも読みのわからない名前を付ける親というのが珍しくないのだから。


 性別は男で歳は28。ちなみに独身。職業は探偵。現在、賃貸で一人暮らし中。趣味は読書と人間観察。身長は約168㎝。


黒髪黒目な日本人だ。顔つきは可もなく不可もなくという感じで、微妙につり目なのか目つきがよくないせいかたまに睨んでいるように見える時があるらしい。


それを言われた本人としては全く自覚がないのだが。


髪は短めで2月生まれでA型だ。


 普段通りに一日を過ごして帰宅後に寝室で寝ていたはずなのに変な夢を見て。起きたらそこは見覚えも無い知らない場所でした、と。


 何故だ、解せぬ。無一文で外に出されるとはなんたる理不尽だろうか。現金を所持していたとしても金属としての価値しかない。


札束も貨幣として使えず価値がなければただの紙でしかないのだから。


 服装を確認してみると疲れて服を着替えずにそのまま寝ていたのか、仕事の時に着ている値段の安い黒のスーツだった。


どう考えても暑苦しい格好である。


「夏場に長袖ってどうなんだ」


そう言って上着を脱ぎ腕にかける。


ネクタイを緩めてシャツの上の方のボタンを二つほど開けてから袖を捲りジャケットのポケットの中を探ることにした。


 財布、ハンカチ、ティッシュ、スマホ、ペン、メモ帳が入ったままだったようだ。ペンとメモ帳はここでも必須だろう。


あとで思いついたことでも書くか。


 ハンカチはともかくティッシュがないと困る時もあるので持ち歩くようにしていたんだったか。某駅のトイレとか、な。流せるやつなので問題は無い。


 他はほとんど仕事で使うものだったが。


 そして傍には鞄があった。ノートパソコンほどの大きさで黒い色をしたこの鞄は仕事用に使用しているものだ。


中には某携帯ゲーム機とあんぱん。あと、ペットボトルの水が一本。財布の中にはレシートとカードが数枚。


 カードは店も見当たらないこんなところでは何の使い道もなさそうだ。レシートも同様だろう。裏面は文字もなく真っ白なのでメモ代わりには使えるかもしれないが。


 ゲーム機は通勤の電車の中での暇つぶしに丁度いいしあんぱんはコンビニで買って明日にでも食べようかと思って昨日買ったものだったか。


張り込みの定番といえばやはりあんぱんだろう。セットで牛乳が欲しい。夏場は冷蔵庫に入れていないと傷みそうで不安だが。


使えたとしてもスマホやゲーム機を充電する方法はあるのか。そこが問題だな。充電器も持ってないし。連絡が出来ても使えなければ意味がない。


 身の回りには武器になりそうなものがほとんどない。あってもベルトぐらいだ。こういう時に一番重要なことは自分の身を守ることだと俺は思うんだが。


最低でもナイフ程度は欲しい。料理をする時にも使えるし無いよりもあった方が便利だろう。ただ、武器としての威力の方はいまいちそうだ。


 とにかく、問題点だらけだな。衣食住をなんとかしようにも金がない。仕事もなければ住む場所もない。


着替えもなければ、まずどうするべきなのかさえよくわからないありさまだ。食料だけでもなんとかしたい。


急募:仕事。ネット上で呟きそうなそんな短い言葉が頭に浮かび、この場所に居ると更に不安が襲ってくるような気さえしてきて、気分が落ち込こんだ。


 そんな俺の後ろからのしのしと近づいてくる巨大な影が徐々に迫って来ていることを、この時はまだ知らなかった。

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